第5話 事件 × 世界的に有名な集団

今日も一日が始まる。

英人には、もう1つの日課楽しみがあった。


それは通勤中の電車の中でu-tube(ウーチューブ)とkick-tok(キックトック)を見ることだ。


英人は、しがないサラリーマンのため、そこまで給料はよくない。


だから、家賃的に考えて郊外に住んでいる。落ちついた街で英人的には好きなのだが、通勤には一時間半も時間がかかる。


動画視聴は、その長い時間を楽しい時間にするために、編み出した策なのだ。


最近、面白くていつも見ているのが『eighters』の動画だ。


『eighters』はその名の通り8人の集団でリーダーの『ワン』を筆頭に『ドゥーエ』『タラータ』『スー』『サンク』『セイス』『チル』『オイト』のメンバーで構成されている。

いわゆる『~やってみた』とか『~試してみた』『~作ってみた』動画で一世を風靡し、世界的に有名な集団だ。


彼らの動画は海外視聴も視野に入れているためか多言語翻訳されていたりもする。


各々、異なる異国風情の仮面をつけていることで、注目度があがっているのも、人気を得た一つの要因だ。


もちろん、日本円にして年収で兆を越える金額を稼いでいるだろう。それぐらいの知名度がある。


英人も彼らのファンで、いつも面白おかしく新しい挑戦を行うこの集団が好きだ。

だから、更新の度に動画をチェックする。


今日もいつも通り何気なく更新された動画を見ようと、流れるような仕草でイヤホンを装着し、携帯画面を開く。


そのとき、英人は驚くべき光景を目にした。


「っ!!!」


新しく更新された『eighters』の動画の題名……


『コーラとポテチの最高の組み合わせ検証してみた』


……


「え!!!」


思わず満員電車の中なのに、英人は大きな声を出してしまう。


その瞬間、電車内にいる周囲の人間の冷たい視線が、これでもかというぐらい英人に突き刺さる。


英人は驚きを隠しきれず、また、周囲の視線に絶え切れずに途中下車を余儀なくされる。


見知らぬ駅に降りたあとも、英人はまだ動けない。


『まさか、あの空想議論を現実に試したのか? それよりも、あそこのチャットにeightersの誰かがいた? いや、だれかが試して欲しいとeightersに依頼した? いや、ただの偶然が重なった?』


様々な憶測が英人の脳裏をよぎる。


『とりあえず動画を見てみないと判断できない!』


英人は駅のベンチに座り、周囲に人がいないことを確認した上で、動画を選択し、再生する。


結果……




まさにそのままだった……


コーラを飲みながらポテチを食べているところから始まり、『ワン』が、「ポテチとコーラの最高の組み合わせを作りたい!」と言い出す。

それから、『ドゥーエ』が指揮をとり、ポテチをコーラ煮にしたり、ジャガイモを一度揚げてからコーラ煮にしたり、ジャガイモのコーラ漬けを作ったりしている。


それがeightersの絶妙な会話と仕草に面白おかしく進行されている。


驚くべきは、財とコネクションを利用し、ポテチとコーラの各製造工場にまで出向き、ポテチのコーラ味を作り上げているのだ。


『規模が違いすぎる』


英人は唖然とする……


だが、それだけではなかった。


彼らはグミ工場にも出向き、ジャガイモをグミのような形に塩味で成形してコーラにいれることにも成功した。


衝撃だった。


ただ何気なくチャットで議論した全てが、実現されている。


さらに、透明な食べれる一口代のカプセルのようなものを生み出し、そのなかにコーラをいれて、ポテチの袋内に封入する。

柿の種のピーナッツがコーラカプセルといえば容易に想像できるだろう。


口の中でカプセルを潰せばコーラが飲めるというもので、なんとも斬新であり、これが堂々の彼らの1位だった。


ちなみにだが、これは冷蔵庫で袋ごと冷やしてから食べるのがいいらしい。


自分の絵空事が実現されている感嘆・喜びと共に、それに加え、更に工夫をした発想力に敗北感を味わった。


英人は、呆然と見知らぬ駅で30分ほど立ち尽くす。


そのあと、ようやく不意に来た満員電車に乗ったのだが、この日ばかりは、家に着くまでの一切の記憶が抜け落ちた。


……


ぼくたちは9ヶ月後、航空会社を買収する。


ぼくたちは、その後上空にいた。

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