元勇者メイドのやり直し! ~「強すぎる」からと勇者追放されたけど、元魔王の黒猫とともに愛しのお嬢様との最愛百合ライフを守ります~

七日

プロローグ


 仲間のロバートは言った。


「グロリア――お前は勇者失格だ!」


 突然、宿でそんなことを告げられたグロリアは「は?」と聞き返した。


 魔王を倒した次の日のことだった。

 宿で戦いの疲れを癒し、朝食を取ろうとしたらロバートに捕まって、この一言である。

 

 意味不明すぎて思考停止した隙に、ロバートの周りにいる他のふたりも追従する。


「確かに、グロリアに勇者という肩書きを預けるのはいささか不安ですね」


 エルフ族で眼鏡をかけた魔導士ウィザードのルミナが言う。


「拙者、グロリア殿には正直ついていけないと感じることも多々あった故……」


 堅苦しい口調で言うのは、全身フルプレートの重装鎧ヘビーアーマー、バルドメロ。

 全員がこんな調子だ。

 グロリアは結局何が言いたいのか訊ねる。

 すると、じとりとした陰湿な視線がロバートたちから返ってくる。


「グロリア、自分が魔王ザカリアスを倒した勇者だと世間に公表するんじゃねぇ」

「それはつまり――」

「ああ、お前にはパーティーを出てもらう! 夜明けが来る前に荷物畳んでどっかへ雲隠れしてろ!」


 彼らが泊まっている宿に、明日には王都から歓迎の使者がやってくる。

 そのとき「勇者」は初めて公の場で誕生するのだ。

 それをさせないとロバートは言う。


「グロリア、お前は自分がなんでここまで悪く言われてるかわかってねえようだな……!」

「はい。正直」

「だったら教えてやる! お前はなぁ、“強すぎる”からって仲間を仲間とも思わない、最低の冷血人間だからだよ!」


 ロバートは憎々しげに口元を歪める。

 初めて指摘されたことに、グロリアは少し目を瞠った。


「強すぎるから……? それって、どういう……」


「お前は強い! だが、強すぎるんだ!!」


「グロリア、貴女は私が百二十年懸けて習得した最上位魔法をいくつ使えましたか?」


「……全部」


「妖精王から賜った聖剣と魔剣の二刀流で『剣聖』と呼ばれ始めたのは何歳の折でござったかな?」


「………10歳」


「そう!! お前があまりに強すぎてなんでもできちまうせいで、俺たち仲間の存在意義がまるでない!!

 実際、魔王だってお前ひとりでなんとかなっちまったじゃねーか!!」


 ぎゃーぎゃー吠えるロバートの勢いはすさまじい。

 どれだけ怨みを溜め込んでいたのだろうか。

 ルミナとバルドメロのふたりもいつになく険悪な雰囲気で、取りつく島もない。


 でも、とグロリアは口にした。


「仲間、仲間、って……あなたたち、私の旅に加わりたいといって勝手についてきてるだけじゃ!?」


「それを世間では仲間って言うんだよおおおおおおお!!!」


「なんと、仲間という認識ですらなかったのでござるな……」


「なんて屈辱かしら……」


 グロリアは呆然とする。

 目の前のロバートといい、皆、魔王討伐の旅に強引に同行してきた人々という印象しかなかったのだ。

 なんだか、皆の眼つきがさっきよりも険しくなった気がする。


「とにかく――お前は勇者失格だ、グロリア。お前みたいな冷血のひとでなしに勇者の称号はふさわしくない!」

「勇者といえば、全世界の、特に子どもたちにとって希望や憧れの対象。あなたのような人物をそこに据えるわけにはいかないわ」

「拙者、どんな極悪人よりもグロリア殿が勇者として崇められるのが我慢ならぬでござるよ」


 びっくりするほどの罵詈雑言を喰らって、グロリアは面食らう。

 そこまで言われると自分が本当に悪人なのではと疑ってしまいそうになった。


 魔王討伐のため、人生を捧げてきた。


 もうその役割から解き放たれたと思って、少し茫然自失していたのも事実だ。


 それに、勇者の名前にこだわりがあったわけでもない。


 皆からの超絶ブーイングを喰らって、ここが潮時か、とも思った。



「――わかりました。私は勇者にふさわしくないってことが。今日をもって皆さんの前から、世間から姿を消したいと思います」



 グロリアはそう言って、宿の椅子を立つと、自室へ戻る。荷造りのためだ。

 彼らの予想からいって素直すぎる反応だったが、またグロリアがそういう執着しない性分なのも思い出して、皆、引き留めなかった。


 ――こうして、勇者グロリアの冒険は終わった。

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