第28話 チートで最強です
「先ず、この世界では万物は水、火、氷、雷の四つの性質からできております。そして、生きとし生けるものはすべからく、生まれながらにしてその中の一つの属性を持つことになります」
そして茶碗を手に取った。
「例えば、今飲んでいるこのお茶なのですが、このお茶の花は火の属性を持っております。お茶として飲めるのは、その火の属性故に温めた液体に溶けやすいからなのです」
確かに、見るとお湯に沈んだ花は茶碗の中で原型を留めておらず、ほぼ溶けかかっている。
「動物も同じです。火を吐く龍や、雷を起こす龍など、それぞれの属性を高めることで進化し、生きるための道具としているのです」
「じゃあ、人間も?」
「基本的には同様です。また、属性には強弱の関係があります。水は火に強く、火は氷に強く、氷は雷に強く、雷は水に強い。こうして強弱の関係は一巡します」
ジャンケンみたいだな。
「そして、万物を形作る故、この四つの属性は世界そのものと言っても過言ではありません。そして、ごく稀にこの四つの属性全てを持つ者が生まれます。謂わば、この世界そのものの象徴とも言える存在です。故に、最も神に近い存在、と我々は解釈しています。また、この世界そのものとも言えるその者は、自然現象さえ意のままに操ることができるのです。そして、そのような存在は滅多に生まれません。百年以上もも現れないこともあります。従いまして、四つの属性を持つ者が生まれたら、即ち、その者はこの国を統べる者となります。その統べる者こそが、あなた様なのです」
キター! 異世界に来たら最強の存在でした、というこのチート感! これこれ! やっぱ転生して良かった。ちょっと違うが、まぁ大体俺の望んだ通りの展開だ。
「しかしですな、」
しかし、なんて聞きたくない。チートで最強です、でいいぢゃねーか。
「この四つの属性の力は、月の満ち欠けに影響を受けます。満月の時に最も強く、新月の時に最も弱くなるのです。そして、四つの属性を持つ者は、その力の増減が一つの属性の者よりも振れ幅が大きい傾向があります。我々凡人は新月であっても属性の力そのものは、威力は落ちますが、使うことはできます。しかし、四つの属性を持つ者は新月の日は力を使うことが全くできなくなってしまうのです」
つまり何かい? その日ばかりは能力はゼロになるのかい? 普通の人じゃん。いや、この世界では並以下じゃん。なんだよそれ。最強じゃねぇじゃん。なるほど、だからあのターク族の女の子は新月の日に忍び込んできたのか……。
一通り説明をし終えると、二人は部屋を出ていった。
侍女(可愛い)がお茶の入ったポットの取ってを片手で持ち、もう片方の掌を上にして、底の下にかざしている。掌からは弱火くらいの炎が出ている。なるほど、彼女は火属性の持ち主なわけか。
そうやって入れ直してくれたお茶を飲み、俺は改めて一仕事終えた充実感に浸った。
思えば、これほどの充実感に浸るのは生まれて初めてかもしれない。人に必要とされている、人の役に立つ、そのことでこんなにも幸せを感じることができるのか。何か、生まれてきた意味を知ったというか。
「失礼致します」
もう一人の侍女(おばさん)が部屋に入って来た。何やらワゴンを牽いてきた。
「茶菓子が焼けました」
俺には侍女が二人いる。一人は龍車にも乗っていた、ロージという若い侍女。もう一人はカテナというご年配の侍女である。
二人とも感じが良く、愛想も良い。まぁ俺が帝妃様だから当り前と言えばそうなのだが。でも、侍女だから、というのではない生来の人の良さみたいなものが二人からは感じられる。
「あ、ありがとうございます」
俺は早速焼き菓子を手に取った。大きさは一般的なビスケットくらいで、見た目はおにぎりのようにコメコメとしている。それが固く焼かれていて、焼き芋に近い甘い香りがする。
「あの、帝妃様……、」
「はい?」
カテナがそう言うと、二人が改まって俺の前に並んだ。
「お礼を言わなければいけないのは私たちの方です」
そして例の土下座に似た所作をした。
「え、いや、ちょ……」
どした?
「この度は誠にありがとうございました」
「え?」
「私の実家は農家で、獣人の被害に度々悩まされてきました。父も母も、弟や妹たちも、正直生活していけないんじゃないかという不安に苛まれていました。でも、これからは平穏に暮らしていけると思います。これも帝妃様のおかげです」
「私の息子は兵士です。帝国に命を捧げた身分ではあれど、やはり息子の身を案じるのが親というものです。帝妃様の雷のおかげで、息子の命は助かりました」
そして二人は改めて声を揃えて俺に礼を述べた。やはり、俺のやったことは正しかったのだ、と改めて実感した。
聖堂に連れてこられて、嵐を起こせと言われた時は正直どうなることかと思ったが、逃げずに自分を信じて本当に良かった。こうして民を救うことができた。
ただ、二人に何と声をかけたらいいものか。こういう時何て言うんだろう? いつまでも黙ったままでもいけないだろうしなぁ。えー……。
「お役に立てて、ぼ……、私も嬉しいです」
すると、二人は顔を上げ、しばし俺を驚いたように凝視した。そして二人顔を見合わせて、吹き出した。
「あ、あのぅ……、私、おかしなこと、言いました……か?」
そんなに間違ったことは言ってないと思うけどなぁ。ちゃんと一人称も「私」だったし(僕、と言いそうになったが)。焼き菓子を片手にしてたのが、決まらなかった、というのはあったかもしれない。
「いえ、いえいえ! 滅相もございません!」
慌ててカテナの方が否定した。何だかよくわからないが……良しとしよう!
そんな感じで俺は生まれてこの方味わったことのない充実感の真っただ中にいたのだが、残念ながら欠けることのない純度百パーセントの満足というわけではなかった。残り一パーセント、気にかかることがあったのだ。
その後、俺様御帰還及び対賊軍戦大勝利を記念した催しが盛大に執り行われ、三日三晩帝国全体が熱に浮かされたようなお祭り騒ぎとなり、我が人生の絶頂を、それはもうベロベロにしゃぶるように味わい尽くした後、今俺が佇んでいるこの場所は地下牢だ。
罪人を一堂に集めた牢屋は城の地下にある。犯罪の程度が重くなるにつれ、より深い地下階へと下っていく。俺がいるのはその最下層、最も重い罪を犯した罪人が押し込まれている。
暗い、寒い、じめじめしているという不快三点セットをかなりの高いレベルで取り揃えている。罪人を押し込める牢屋としては理想形に近いと言えるだろう。
そんな感じで地下牢は肌寒いので、コートを着てきて正解だった。今、季節は初夏なので(こっちの世界でも四季はあるという)最初は断ったが、なんせまだまだこっちの世界のことはわからないことが多いし、我が城についても恥ずかしながら不案内なので、コートの申し出を受け入れることにした。
地下牢に案内され、とある牢屋の前に佇むと、早々に衛兵を下がらせた。そう、別に俺が牢屋にブチ込まれたわけではないのである。朕は帝妃であるからして、そんなことになるはずはないのである。
俺はある罪人との面会を希望した。
もちろん、その罪人とは元優紀であるところの(厳密に言うと違うが)猫獣人である。
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