第15話『玉砕の一週間』
その日の放課後である。
「俺、小波 蒼!! よかったら一緒に帰らないか!?」
Fクラスにダッシュで突入した蒼は、帰りの支度をしているルイの目の前に来るなりそう言った。
ルイは目を丸くして驚いていたが、すぐに不愛想な顔になった。
「……言ったでしょ。私、アンタにはこれっぽっちも興味ないって」
フラれた。
色めき立つ周囲の声の中、ルイはさっさと教室を出て行って、蒼は一人取り残されてしまう。
刹那が教室の端で両手でガッツポーズを作り、応援してくれていた。
「俺、小波 蒼!! よかったら一緒に学校行かないか!?」
「……またアンタ? イヤって言ってるでしょ」
翌日。
寮の入り口で声を掛けたのだが、またもやフラれる。
隣にいたハヤトは苦笑いを浮かべ、セナはくすくす笑っていた。
「俺、小波 蒼!! よかったら一緒に帰らないか!?」
「何度目よ! いい加減諦めなさい!!」
「俺、小波 蒼!! よかったら一緒に――」
「よくない!!」
「俺、小波――」
「ノイローゼになるわよ!!」
そんなやり取りを一週間ほど続けた。完全に警戒されているようで、近づくだけであっちに行けと毛を逆立てる犬のように吠えたてられる始末だ。
「くっそぉぉおおおぉぉおおぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
ある日、帰り道の途中にある公園で、蒼は叫んだ。
刹那、霧矢、朱莉の三人が、ベンチに座りながら途中のコンビニで買ってきたパンを齧り、砂場で独白する蒼を見ていた。
「おのれ……!!」
噛ませ犬の敵キャラのような言葉を言いながら、頭を押さえる。
何の進展もないまま、一週間が過ぎた。
それはどういうことかというと、ただ二人の間に進展がないわけではない。
主人公とルイの間で、イベンドが矢継ぎ早に起きているということだ。
「くっそぉ!! あんなのズルだろうが!!!! 倫理的にどうなのよ!!」
蒼がヤケクソに噛み付いているのは、主人公の境遇である。
これもライトノベルの定番。数があぶれたとかなんとかで、あの男は女子寮に住むことになっているのだ。
二人部屋で、相方は白峰 琴音。正直それはどうでもいい。
女子寮に常在するということは、必然的にルイとの絡みも増える、そこが気に入らない。
さらに、この時点ですでに、真っ先に挿絵に描かれる事件、いわゆる――
『セナとルイの部屋に行ったら、たまたま着替え中の二人を覗いてしまう』とかいうふざけたイベントが発生している。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
「びっくりしたぁ!! いきなり叫ぶなアホ!!」
霧矢が飲み物を飲んでる途中で驚いて咳き込み、蒼を非難してくる。
だが蒼はそれどころではない。
許せん。この世界を主人公の、はたまた読者のいいように操る作者にそう文句を垂れる。
頭を掻き毟りながら砂場をうろちょろする蒼の醜態を見て、朱莉がため息を吐いた。妹に何回ため息を吐かせたのだろう。
やきもきしながら、蒼は夕焼けに向かって吠え続ける。
……翌日、近隣から苦情が来たと冥花先生に怒られた。
ほんの少しでも、運が向いてくれないものだろうか。
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