68.あの言葉のおかげで
私は、フレイグ様の執務室にいた。
彼から、話したいという要望があったからだ。
ラフードとクーリアには、席を外してもらっている。それも、彼の要望だ。二人きりで話したいらしい。
「えっと……話とは、なんですか?」
「お前に色々と言っておきたいことがあるんだ」
「は、はい……」
私は、少し緊張していた。帰って来て早々、二人きりで話したい。それがどういうことなのか、よくわからないからだ。
一体、私は何を言われるのだろうか。
「俺は、ラムフェグと戦っている時に思っていた。刺し違えてでも、奴を倒すと」
「なっ……!」
「ああ、そんな覚悟を決めていたんだ……」
フレイグ様は、遠い目をしながらそう言ってきた。
その言葉を聞いて、私は理解する。私が、どうして彼が帰って来ないと思ったのかを。
私はきっと、彼のその自己犠牲の精神を見抜いていたのだ。自分でもわかっていなかったが、なんとなくそんな気がしていたのだろう。
「……だが、それは間違いだと気づいた。お前の言葉を思い出して、俺はそう思ったんだ」
「私の言葉……」
「帰って来て欲しい。そう願うお前の顔を思い出した時、俺は必ず帰らなければならないと思った。お前を悲しませてはならない。あの日の俺のような思いをお前にさせていいはずがない。そう考えて、俺は自己犠牲の精神を捨てたんだ」
フレイグ様の言葉に、私は少し驚いていた。
まさか、自分の言葉で、彼がここまで考えてくれていたなんて思っていなかったからである。
だが、それが嬉しかった。あの言葉を言っておいてよかったと改めて思う。それで、彼が考えを改めてくれなければ、大変なことになっていた所である。
「ありがとう。お前のおかげで、俺は踏み止まることができた。こうして、帰って来ることができたのは、お前のおかげだ」
「フレイグ様……」
フレイグ様は、優しい笑みを浮かべていた。
その穏やかな笑みは、なんというか憑き物が取れたように感じられる。
ラフードが帰って来たことで、彼の心にあった憂いはなくなったのだろう。これでやっと、彼も真の意味で前に進めるのだ。
「そんなお前に、俺は言いたいことがある」
「言いたいこと?」
「お前は、俺のことを支えてくれる存在だ。それを俺はありがたいと思っている。これからも、お前には俺のことを支えてもらいたい」
「は、はい……」
「その代わりに、俺はお前を守り抜くと約束しよう……いや、代わりというのは、おかしいな。俺にとって、お前は大切な存在だ。例え、何もなかったとしても、守ることは変わらない」
「それって……」
フレイグ様の言葉に、私は少し怯んでいた。
彼のその言葉が一体何を表しているのか。それを考えて、私は少し悩んでいたのである。
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