第17話 サイファーのその後

 疲労が限界まで達しているせいで、どうやって帰ったのかもよく覚えていない。

 オレからしたら数日ぶりだが、こちらの世界では数十分間しか経過していないのだが……。

 ちょっと前に散歩に出た旦那が、こんなボロボロの状態で帰ってきたらどんな顔をするだろうか? きっと怒られるかもしれない。けれど、とにかく妻に――はるかに会いたかった。


「――ただいま」

「おかえりなさい」


 意外にも遥は優しい笑顔で迎え、そして抱きしめてくれた。

 とてもうれしいのだが、こっちはひどく汚れている上に汗臭いので非常に申し訳ない。


「おつかれさまでした。才佐くん」

「……真っ昼間からその呼ばれ方するのは新鮮だな」

「そうですか? 出会った頃は、よく呼んでいたと思いますけど」


 そうだったろうか? いや、そんなことはないだろう。

付き合い始めてからはともかく、知り合った当時の遥は大学の後輩だったわけで、そんな風に呼ばれたことはなかったはずだ。論理的に考えておかしなことを言っている。

 そうは言っても自分は自分で疲れ果てているので、論理的な思考ができているか確信が持てない。おまけに重大な件を失念していたことを、今になって気づいた。


「あ~悪い、お土産忘れたわ……」

「そうみたいですね。次は忘れないようにしてください」

「……ああ、わかった」

「ちゃんと、人数分ですからね♪」


 人数分? 自分と遥の分で2人分だろう。それとも、今お腹の中にいる子供のことを指して言っているのだろうか? 回らない頭で考えても答えは出てこなかった。

 ふと遥の髪に白髪が交じっているのが見えたので、それに触れてみる。


「おまえ、ちゃんと……栄養足りてるのか?」

「大丈夫ですよ……長い間忘れたことを思い出しただけですから」

「よくわからんことを言って、ごまかすなよなー」

「きちんと説明しますよ……だから、今日のところはひとまず休んでください」

「そうさせてもらうが、起きたら……ちゃんと説明するように……」

「はい、おやすみなさい。才佐くん」

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