第2話


「どうして王妃様は公務にお出にならないのですか?」



 私が不思議に思い重鎮の方々にお聞きしました。

 けれど周りの大臣たちはアルカイックスマイルのまま。

 それは一体どんな感情なのですか?


 私の名前はディアナ・エミール・フロレンス。

 ヴィリア王国の侯爵令嬢であり、数週間前に側妃として王城に入った新参者です。


殿、王妃のジェーン様は政治に参加出来るだけの頭脳と知識に欠けております。また、自国語以外はお得意ではなく異文化の理解にも乏しいため外交交渉でのご活躍は期待出来ません」


「そうでしたの。では王妃様は何のをされていらっしゃるのですか?」


 大臣たちの眉が一瞬だけあがりました。

 もしや聞いてはいけない内容でしたか?

 それとも何かの地雷を踏んでしまったのでしょうか?

 けれど、王家の一員になったからには正確な情報を知る必要があります。


「王妃様の……ですか。そうですね、御自慢の美しを磨かれて着飾り見る者をの目を楽しませる事ですね。あれで一定の人気がありますから。それと高貴な身分な女性には決して出来ないを持って、国王陛下の事ですね」


 遠い目をされて仰られました。

 何やら過去にあったいざこざを思い出されているのかもしれません。大臣の中には目が全く笑っていらっしゃらない方も数人おりました。王妃様の話題は禁句に近いものがあるのでしょう。

 それにしても……のお仕事ですか。中々珍しいお仕事もあったものです。それとも特技に分類するものでしょうか?何はともあれ、王妃の仕事というより愛妾の仕事ではないでしょうか?


「そうなのですか。王妃様にも御自身に似合ったお仕事があるようで安堵いたしました」


 私も大臣たちと同じ笑顔アルカイックスマイルで応えました。

 これ以上いう事はありません。

 やはり噂は本当の事だったという訳ですね。

 王妃様が「妃殿下」としての仕事が全く出きないでいる、というのは。新婚時代は王家が箝口令を出していましたが、人の口に戸は立てられません。あっという間に国中で噂が広がりました。それについても王家、とりわけ現国王と王妃のお二人に対する信頼のなさ故に起きたようなものですけどね。些か作為的にも感じますが国王陛下の今までの行いの結果でしょう。



 現国王陛下が王太子の時にやらかした「婚約破棄事件」は今からおよそ五年前のこと。


 瑕疵一つない婚約者に対して、


「そなたのように何を考えているのか分からない胡散臭い笑みを浮かべた女など次期王妃に相応しくない!しかもなんだ!曖昧な物言いに、繕ったような言動の数々!何を言いたいのか全く分からん!まるでカラクリ人形のような無慈悲なそなたと一生を共にするなど地獄でしかない!本日をもってそなたとの婚約を破棄する!」


 と、貴族学院の卒業パーティーの最中で罵倒同然に婚約破棄を言い渡したのです。


 婚約者の公爵令嬢は「王太子殿下のご命令、確かに承りました」と冷静に応え、見事なカーテシーを披露して優雅に退場なさいました。

 その姿は「完璧な次期王妃」と謳われた令嬢に相応しく堂々たる貫禄まであったと伝説になるほどに。対して、王太子殿下とその腕に纏わりついていた男爵令嬢との「器の差」を見せつけたとも言われています。


 王太子殿下がどれほど言い訳をした処で周囲は「淑女と名高い婚約者をではなく尻の軽い男爵令嬢の色香に惑わされた愚か者」という印象しかありません。


 問題は、大勢の貴族の見ている中で行われた凶行であったこと。

 王族が一度口にだした事は取り消せません。「冗談だよ、ごめんごめん」など通用するはずないのです。言葉の全ての「責任」という重しが乗っかるのが王侯貴族という者です。

 それを思うと、王太子殿下は責任感がないボンクラと皆の目に映った事でしょう。王太子殿下が次の国王に即位する事に絶望を感じた貴族も多くいたはずです。


 王家にとって残念な事に王太子殿下意外に子供がおりませんでした。スペアの存在がいないのです。その代わりに王位継承権を有する者は大勢います。我が国の高位貴族の大半が王家の血を引いていますからね。かくいう私も王位継承権第18位です。余程の事がなければ王位など周ってこない地位ですけどね。

 ですが、国王も人の親。特に老いてから漸く出来た一人息子の存在は目に入れても痛くないほどの溺愛ぶり。とうとう男爵令嬢をそのまま王太子妃とさせたのです。この時点で王家の権威は失墜いたしました。王家と国の安定を考えれば王太子を廃嫡し幽閉しなければならない事案です。とはいえ、王太子妃にしてしまったのですから「妃教育」を受けてなんとか「王太子妃」として見られるものにしなければなりません。ですが王妃教育を十年受けてきた公爵令嬢とは違い男爵令嬢でしかなかった王太子妃。当然、妃教育は難航しました。ならば、王太子に側妃を娶らせてその妃に王太子妃の仕事をさせようと画策なさった王家ですがそう簡単な話ではありません。側妃を持つのは正妃との結婚五年後という決まりがあったからです。

 当初、元婚約者の公爵令嬢を側妃に据えようと考えていた王家でしたが、公爵令嬢は我が国よりも大国の王太子に見初められて早々に婚姻してしまわれたのです。




 五年後、側妃選定の白派の矢が立ったのが我が侯爵家。

 高位貴族であり王家の血も引いている未婚で婚約者なし。

 そして、高位貴族の教育課程がそこそこ修了しているレディが私だった事も運のツキ。



 王妃様の出来の悪さは王城に入って嫌というほど理解しました。


 これでは表舞台にだせないと判断されても仕方ありませんね。辛うじて、王家主催の夜会やパーティーには参加していますが、決して王妃の席から降りる事は許されない立場です。椅子に何やら細工が施されているようで王妃も立ち上がれない状態なのだそうで……王家の闇は深いですね。


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