第3話 来るのよ~

〇 部屋――夜11時30分。

 あなたと桃子がわちゃわちゃしていると、突如、桃子のスマホにメッセージが入る。びくっと警戒してしまう桃子。なずなはそんなやりとりに関係なくすうすう寝ている。


 ……。

 ねえ(*小声)

 びっくりした。

 わたしのスマホ……だよね。

 はあぁ。

 なによ、こんな時間に……。もしかして、お隣の草薙さんかしら。

 そういえば、草薙さん、無事産まれたみたいね、女の子。

 ちらっと見たけど、めっちゃ可愛いの。

 あれ、奥さん似ね。

 まあ……、旦那さんを見たことないけど、きっとそうよ。


 絶対、美人になるわよ。


 草薙さんめちゃ美人じゃない? 本人は謙遜してたけど、昔はかなりもてたみたい。てゆうか、草薙さん、近所のモリモリフーズでパートしてるんだけど、そこの男の子からデートに誘われたんだって。


 昔じゃなくて、今ももててるって感じよね。


 魔性の女って感じ。


 見えるもん。

 妖気が。


 何気に、わたし、見える体質なの。


 え?


 ちがうちがう、心霊現象とかじゃなくて、もてる女の色気ってやつよ。


 あははは。

 びっくりした?

 案外、あなたも怖がりね。

 そういえば、草薙さん、毎日大変なんだって。

 寝れなくて。

 この前、会ったら、げっそりしてて目に隈ができてたよ。

 なんか思い出しちゃったわ、なずなが産まれたときのこと。


 あの時は大変だったわ……。三時間おきにおっぱいあげなきゃいけないし……。


 もうね。

 やばかったわ。

 睡魔との戦いよ。

 目が、目が、目が―――っ! 状態なわけ。


 やっぱり、人間っていちばん睡眠が大事よ。

 食欲、性欲ではないわね。


 寝ないとだめ。

 頭がなんにも働かないもん。

 まあ、隣でぐうぐう寝てた旦那にはわからないわよね。


 ふふっ――


 そうよ。まだ、あなたへの仕返しの途中よ。

 ふふふっ。

 どれどれ、草薙さんのメッセージでも確認しますかね。


 ……。

 ……。

 ……どういうこと……かしら。

 ……。


 え?


 いや、ちょっとこれ見てよ。

 ……。

 ……。

 どう思う、これ?

 ……。


 は?

 浮気なんてしてないわよ。


 なに、そっちに取ったの、このメッセージを。

 まあ……、メッセージに『イチャイチャしやがって』なんて書かれたら、変な誤解を与えることも事実ね……。

 でもね、このメッセージ宛先不明なのよ。

 草薙さんからじゃないの。


 全く知らない番号。


 だから、浮気なんてしてないって。

 わたしも身に覚えがない番号よ。

 しかも、この番号よくみてよ。

 ほら。

 普通、電話番号って090とか080から始まるでしょ? でも、この番号って、*@1とか、記号と数字で構成されてるのよ。しかも、なんの法則もないし。


 これって、電話番号じゃない……よね。


 ……でしょ?

 てゆうか、こんなのでメッセージなんて送れるのかしら。

 なんなの、これ……。


(音)ぴろり~ん――ふたたび桃子のスマホにメッセージが入る。


 うわっ!

 びっくりした……。

 ……また、この番号からだ。

 なんなの、一体……。

 どんな内容なの……。

 ……。

 ……。


 ひっ!(*小声で)


 あ、あなた、み、見て、これ(*声をふるわせて)

 ……。

 うん……。


『旅館にきてまでイチャイチャしやがって』


 なに、これ……。

 これじゃ、まるで……わたしたちを監視してる……。


 ど――


 どどどどどどどど、どうしよう~(*涙目)


 なにこれ、意味わかんない。

 変なやつに……いや、変な存在に……わたしたちが……。


(音)ぴろり~ん――ふたたび桃子のスマホにメッセージが入る。


 ひいいいいい!

 また、メッセージがきたわ。

 あ、あなたが見て。

 それで、わたしに教えて。


 ……。


 いや、ちょっと待って。


 ……。


 やっぱり教えないで。怖いから。


 ……。


 いや、やっぱり教えて。草薙さんかもしれないし。彼女だったら、ちょっと安心するし。

 ……なんて書いてある?

 ……。

 え……。

 きみは……おれの……ものだ……。


(音)がばっと布団にもぐる桃子


 やばいやばい、隠れなきゃ。

 あなたも早く!


 来る。


 来るわ。


 きっと、来るのよ。


 何がって、何かがよ。

 マークされてるんだわ、変な存在に。

 来るの。

 もうすぐ。

 ……。


 いや、来ないわ。


 だめだめ、来るなんて思ったらほんとに来ちゃうから。

 来ない。

 変なやつは来ない。

 ね?

 来ないよね?

 

(音)ぴろり~ん――ふたたび桃子のスマホにメッセージが入る。


 ひっ!

 ……。

 な、なに、なによ……。


(音)ぴろり~ん、ぴろり~ん、ぴろり~ん、ぴろり~ん、ぴろり~ん、ぴろり~ん、ぴろり~ん――何度も何度も桃子のスマホにメッセージが入る。


 やっぱり、来る~(*涙目)


 あなた、どうしよう~(*涙目)

 わたしたちのもとに来るのよ~(*涙目)


 ……。


 いま、嫌なこと思い出しちゃった。

 何がって……。


 さっき、わたしのお尻を触ったのって……あなたじゃない……のよね?


 ねえ、触ったなら、触ったってはっきり言ってよ。

 触ったの?

 しかも、ちょっと滑らかな感じに。

 ねえ、触ったよね? わたしのお尻。

 ……。

 ……。

 さわって……な……い……。

 うそ……。

 ……。


 うそって言ってよ~(*涙目)


 あなた、やっぱり来るのよ~(*涙目)


 ……。


 は!


 なずな!

 なずなを守らなきゃ!

 あいつからなずなを守らなきゃ!


(音)がばっと布団から起き上がる桃子。そして、あるものを発見してごくりと息を呑む。


 な、なに……あれ……。



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