『風の王、グリフォン』
「それから我らだけでなく、風の王にも助力を願った方がいいだろう。水浪殿にはご苦労だが、風の精霊界に……おや? どうやらこちらにいらしたようだ」
「えっ?」
レンナがキョロキョロ辺りを見回すと、北東——暁の地平線の方角——から、一陣の風が巻き起こり、風の王が姿を現した。
獅子の胴体に鷲の頭と翼のあるグリフォンだった。
渋い腹の底に響くような男性の声で語りかける。
「ご機嫌よう、皆さん。いやね、配下の者がこちらの会合を拝見していたんですが、私を訪ねられると聞いたので、僭越ながら駆けつけましたよ」
「さすが風の王殿は、お耳が早くていらっしゃる」
「久しくしておりますな、水の王殿。宇宙の九月の風祓いはおかげで滞りなく進んでいますよ。ありがたいことです」
「いいえ、こちらこそ、いつも我らを天へ運んでくださり、感謝申し上げます」
レンナは双方の成り行きをじっと見つめていた。
風と水。なんて謙虚な間柄だろう。
天地を巡るものが慎ましく手を取り合っている。だから恒久に巡り続けるのだ。
「水浪殿もご苦労ですな。天は健やかで晴れやか、誠に結構。今日は人の娘御の案内ですか。珍しいこともあるものだ」
水浪は云う。
「人の王の依頼なのです。あちらはなかなか御しがたく、反対派が諍いをやめません。この娘は万世の魔女で、人の王の片腕となるべく修行しております」
「ほう……それは頼もしいことだ。先ほどの顛末も見ていましたよ。今、配下に調べさせていますが、あれは復讐の荒野、野心の塔から打ち上げられていました。人間はいったい何を考えているのか……」
レンナは情けない気持ちでいっぱいになって、風の王に謝罪した。
「申し訳ありません、風の王様……。私ども人間がいつまでも諍いを止めず、対立しているために、真央界も因果界も混乱を収めることができずにいます。若輩ではございますが、数多の人間に成り代わってお詫び申し上げます……」
レンナは深々と頭を下げた。
風の王は感心して言った。
「……人間もそなたのような者ばかりなら、我らももっと気軽に協力できるのだがね。聞けば、霊長砂漠を食い止めるのに、我らの力がいるそうな。喜んで力を貸そう。我らが源、
「ありがとうございます、風の王様——」
心から感謝してレンナは言った。
水浪が時を告げた。
「そろそろ往こう。霊長砂漠へ向かわなくては」
「はい」
「さようなら、万世の魔女殿。しっかりおやりなさい」
水の王が励ましの言葉を送った。
「さようなら、人の王によろしく」
風の王の別れの挨拶。
「さようなら、水の王様、風の王様。どうかお務めがいつまでも清らかで安らかでありますように、お祈り申し上げます」
こうして世にも珍しい会合は終わり、水浪は水と風の王の周りをぐるりと一周すると、今度は西に向かって飛び立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます