第18話 8月25日 レモネード屋さん
「今度は遠出をしたいからな。ガソリン代さえ自分で稼げばまた車貸してくれるってさ」
それで始まったのか、レモネード屋さんが。家へのアプローチ、車庫へと続くなだらかなスロープで。
「でもそれって、小さな子がやるからかわいいんであって」
「ああん? アタシはかわいくねえってか?」
「いやかわいいけど」
「ふふん? じゃあなんの問題もねえな」
小悪魔か。
そもそもどうなんだろう、高校生がレモネード屋さんをやるものなのか? やってもいいものなのか?
ググってもぜんぜん出てこない。企業として、仕事としてやっている例はあるらしいが……。
ソフィのやつ、中学生でもやってたのはほぼ確定なんだろうが。ご近所さんにはおなじみの光景っぽかったし。困ったらレモネード屋さん? 親父さんがよく怒らないものだ。
こんなド田舎で1ドルをもらっててどうにかなるのか? このスローペースならバイトの方がよっぽど割がいいような気がするが。
その心配をよそにわりと朝は停まってくれた。今は凪。需要はどうやらひと段落したらしい。
午前中を終えたソフィが売上の集計を始めた。お願いだから今はお客さんに来ないでいてもらいたい。かわいいレモネード屋さんのこんな姿はお客さんに見せられないよ。
「半日でこれだけか。この調子だと3日はかかるかなぁ」
なんたる言い草、そもそものプランの甘さは考慮しないのか。
「今日停まってくれたのは近所の人ばっかりだったよね。明日はたぶん手を振ってくれるだけじゃないか? それに今日1日だけならまだしも、3日連続はソフィも耐えらないんじゃ?」
「耐えられねえな。じゃあどうすりゃいい? 何かいい案だせ」
そうきたか。
うんうんうなるまでもなく、フッとアイデアが浮かんだ。これもあの、地獄の自転車旅で体験したもの。
「ガレージセールはどうだろう?」
「ガレージセールか! そのアイデアはなかった」
「決まりだね。僕がこのままレモネード屋を続けてる。ソフィには家から何かいらないものを持ってきてほしい。それをここで売るんだ」
「さすがはレイジだ、我が右腕! さっそく何か持ってくる!」
家にひっこんでしばらく。
ソフィが不用品をダンボールに詰めて現れた。
どれどれ?
「いやいや、親父さんのはまずいだろ」
「アタシにはガラクタなんだけどなあ」
やり直し。
次に持ってきたのは彼女の服。
「それはちょっと。売るんだったら僕がほしい」
「あ、じゃあやめとく」
やり直しだね。
次に持ってきたのはゲームソフト。
「え? これは! これはまずいよ、取っておいた方がいい」
「どうしてさ?」
「だってこれ、かなりのレアソフトのはずだよ。プレミアがついているんだ。これも、これもだ。これ1本なんかガソリンを100回は入れられる」
「マジでか! すげえ!」
「なんでそんなのばっかり?」
「知らねえよ。でもいいじゃねえか、これ1本売れれば旅には出れる」
「いや、ガレージセールでそんな大金出してくれる人はいないだろ。ebuyで出品して、数日待つくらいでないと」
「じゃあダメだな。何日もは待てねえ」
「ああ、それに売る前に僕がやってみたい」
やり直ぉし!
次に持ってきたのは昼食。それで本格的に小休止することにした。
「なかなか停まってくれないね」
「お昼時だからなあ。みんなもメシ食ってんじゃね?」
そのまま夕方まで粘ってみたものの、レモネードの売れ行きは完全に止まり、ガレージセールの品もろくなものが出てこない。そもそも物の少ない家庭ではあった。
結局閉店間近に朝寄ってくれた近所の方が再訪し、事情を聞かれた彼女が話したらポンと40ドルを置いていってくれた。残ったレモネードのボトルと引き替えに。さすがは森の中のアイドル、面目躍如の場面であった。
ともあれ、これでガソリン代には足りる。
「これが人徳ってやつだな。作戦大成功!」
違うような気が……。そういうことにしといてやるか。
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