第12話 8月14日 ウイスキーボンボンで酔えば

「なんだこれ? 酒瓶の形をした? チョコ?」

「ウイスキーボンボン、か。そう書いてある。僕も見たのは初めてだなあ」


「ウイスキー? 酒が入ってんのか?」


 待つように言い、調べた。こんな時は考えるよりも検索だ。


「今ググってみたけど、日本なら子供が食べてもいいみたいだね。アメリカはどうかな……、わかんない」

「わかんねえのかよ。でもいいな、日本ならこれ、食べてもいいのか」


「やめといた方がいいと思うよ? だってこれ親父さんのものだろうし」

「だけど見ろよ、すでに箱は開いてるぜ? 普段こんなの食べずに直接酒を飲むから、たぶん誰かにもらったものなんだ。手をつけて、酒を飲んだ方が早いってんで食べるのをやめた」


 なるほど、ソフィのわりになかなか鋭い。

 確かに箱の中で欠けた場所はひとつだけ。物足りなかったのか、むしろそれで火がついたのか。

 まあこれは親父さん向きじゃない。


「だからこれはアタシたちで食べちゃおう」


 どうしてそういう思考になる?

 でも、だ。

 この年にして僕もまだ飲酒経験はない。その機会には幸か不幸かこれまで恵まれなかった。


 今日はついにその日がやってきたのではないだろうか。それも合法で。

 いや、アメリカではどうかわからないんだが。


 興味津々で見下ろすソフィがそこにずっと。そんな目をされたら止められないじゃないか。


「挑戦してみるか」

「レぇイジ! そうこなくっちゃ!」




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 たぶんこれは酔った。

 これをきっと酔ったと表現するのだろう。

 そうか、これが『酔った』か。


 まっすぐに座れない。右へ、それをとどめようとして左へ。ふわふわふわふわ、地球が回っているとはどうやら本当だったらしい。


 なんだあのチョコ、いい感じに食べたところで外箱を捨てようとしたらズッシリ、実は二段になっていた。

 当然内ぶたを外せば食べたのと同じだけの数の酒瓶がそこに。


 ソフィも僕も目を合わせ、そのまま後半戦に突入となった。

 結局何個あったんだ?

 2……4……6……8。それが、何列ぅ?

 しかも2段。そりゃあ酔う。


「夢があんだぁ〜」

「んん?」


 夢?

 突然なんだろう。夢なんてもう、聞いたはずだが。具体的かつあいまいな夢。

 ゆるんだソフィの口からは真の、隠された夢がこぼれる。


「いつかさぁ〜。ソフィアじゃなくってさぁ〜。ソフィでもなくてぇ。マムが呼んでくれた名前でぇ。呼ばれてみてえなあっ! なんて」

「え? なんのこと? だってソフィアが普通の——」


 口を両手でふさがれた。

「うああうあーナシナシ! 今のぁナシ! 酔って変なこと口走っただけ!」


 それに、だ。東海岸は? あれは夢じゃないって? どういうことだ?

 両手をふりほどいて口を自由にする。


「ソフぐむっ——」


 両手を失った彼女の最終手段である。そのまま前進、体当たりを。

 僕はぶちかましをもろに食らって後ろに倒れる。受け身も取れない、酔っているから。


「痛てててて」


 ソフィはそのまま押さえこみに。

 と言うか、顔全体がホールドされている。彼女の、薄いけど決して無ではないお胸で。

 よって息が!

 息がああ!


「気・の・迷・い。気の迷いだって! だってソフィアが名前だろ。だから違う、嘘。そう、嘘なんだ。ちっと酔いが回っちまって口が勝手に。聞いているか、なあ?」


 体に力が入らない。酔いで。

 すっかり弛緩した。

 それに苦しいけど気持ちいい。いい匂い。

 だからこのまま。


 ソフィアでもなく、ソフィでもない、彼女のお母さんだけが呼んでいた名前か。そんなもの、親父さんに聞けば一発ではあるが。


 やっぱりだ。

 彼女の夢は東海岸なんかじゃない。ただどこか遠くへ行きたかっただけなんだ。漠然と、ただ遠くへ。

 真の夢はさっきのあれ。


 それを叶えるのはここでだってできる。わざわざ遠くへ行かなくてもいい。

 彼女がここに居てもいい理由、それを作ってあげられたなら。きっと彼女への、感謝の表れとして申しぶんない。それを帰るまでに彼女に贈りたい。


 それが僕の——


 彼女への——


「おーい、起きろレイジ? おーい」


 そのまま彼女の腕の中で力尽きた。満足だ。

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