その75 長寿種の子孫事情
「彼はでかいからなあ、長時間はヒサトラ君の庭で対応するのは無理だろう。門の近くに簡易広場をすぐに作るから少し外で待っていてくれるか? テーブルや椅子なんかはこっちで運ばせるから食材だけ頼む」
家に戻ってソリッド様へ謁見しようと思っていたが、シルバードラゴンを遠くから見ていたらしく、すでにウチの前で待機していた。
いや、凄くありがたいんだけど、それでいいのか?
ちなみに俺は城に一度も出向いたことが無いのでチャンスだと思ったんだけど叶わなかった。
「いいのかな?」
「まあ、手伝ってくれた人には料理を振るまおうぜ」
<振るまおう……降る、魔王……>
「不吉なことを言うな」
<痛っ!?>
<わんわん!>
ダイトの髭を引っ張って窘め、アロンも変なことを言うなとばかりに吠えて糾弾していた。こいつもそのうち喋れるようになったら楽しそうだ。
<あ”->
<♪>
さて、キャンプの準備でもするかと持ち運びを開始するため一旦トラックのコンテナに乗せていく。ポンチョやプロフィア達はお気に入りのプールや座布団(運転席にあった俺の)をコンテナに積む。
なにげにポンチョはマンドラゴラのくせに力が強く、三倍くらいあるテーブルを抱えて移動することができる。
スライム達も5匹で力を合わせれば水の入ったプールを持ち上げて飛び上がれるので侮れない。ちなみに見た目は可愛いのでギャップが凄い。
<わんわん♪>
「トラポリン……必要か?」
<うぉふ!>
「いいじゃない、この子こればっかり好きだし」
みんなお気に入りの者を持って行っているから自分もと言いたいのだろう。 サリアと協力して積み込みを終えてゆっくりとトラックを外へ回す。
「つかはええな……」
門の近くに簡易ではあるが柵を形成していくのが見え、町のみんなの能力が高いことを伺わせる。
中にはギルマスターのファルケンが居たので声をかけてみることにした。
「おーいファルケンさん!」
「お? ああ、ヒサトラか。……また、妙なものを拾って来たな」
「拾ったんじゃねえって。ついて来ただけだし、ちょっと宴会をしたら帰るよ」
少し離れたところでダイトと談笑しているシルバードラゴンを見てため息を吐くファルケンさんに俺も肩を竦めて口を開く。
まあ、楽しそうでいいけどなとファルケンさんが作業に戻り程なくして特設会場が設けられた。
扇状に柵を張り、俺達がそこに座り、広く取られたところにダイトとシルバードラゴンが座り宴会がスタート。
「しかし歳をとったと言っても現役のようですな」
<そうだな人間の王よ。ワシらの命は長いからのう、だから卵から子が生まれるのはそう多いことではない。あちこちに仲間は居るが個体としては人間に比べたら少ないかもしれん>
「エルフ達と似たような感じなんすかねえ」
寿命が長い種族とはそういうものなのか、子供を作るのはあまり早くなく出来てもひと家族一人くらいなものなのだそうだ。だからシルバードラゴンの息子が嫁を連れてきてつがいになったのは嬉しかったし、卵が産まれて爺さんが張り切り過ぎたのは致し方ないのかもしれない。
<我もアロンしか作ってないしな>
「母親はどうしたんだよ」
<……今は居ない>
「……」
今は、という部分でなにかあったのだと思うのだが聞くのははばかられたので適当に焼いた魚を差し出してやる。
シルバードラゴンにはマグロのいい部分をあぶってやると大層喜んでくれた。
<む、これは美味いな……肉のような脂だ>
「爪と牙の礼にしちゃ少ないけどな」
<構わん。こうやって美味い物を食わせてくれるなら安いもんじゃて!>
<ここに住んでもいいんじゃないか? なあヒサトラ>
「俺の居場所を失くしたいのかよ!?」
「いや、その気があるならウチは構わんぞ」
「流石にドラゴンはまずいのでは?」
しかしベヒーモスもSクラスの魔物だと考えれば一頭も二頭も同じだとがははと笑い、俺は呆れながらソリッド様の顔を見る。
<気持ちはありがたいが、息子夫婦の近くに居たいからな。ではまた会おう!>
「また来るっすよ!」
ソリッド様達の用意した料理などをたいらげ、一泊したのちに飛び去って行った。
騎士達も仲良くなっていたので少々残念そうだったが、またあの調子だとすぐ来るんじゃないか? などと皆で話していた。
みんなで見送っているとポツリとサリアが呟く。
「無事に生まれるといいわね……」
「だな。ドラゴンだし簡単に襲われるってこともないだろうけどな」
「でも無精卵を狙ってくる人もいるって言ってたし、気を付けて欲しいわよね」
確かに、と小さくなっていくシルバードラゴンを見てそう思う。
しかし三頭のドラゴンを相手にしたい人間なんていないとは思うが……
子ドラゴンが生まれたら見たいなと思いつつ、俺達は薬が出来るまでの間、通常の仕事に戻るのだった。
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