その76 そして薬が出来上がる

 毎日トラブルも無く仕事を続けていると、一か月という時間はあっという間にやってきた。

 おおむね一か月前後するかもしれないが、昨日から七日ほど休みをもらっており今日出来ていなくてもしばらく待つことはできるようにな。


 <うぉふ!>

 「おう、元気だなアロンは! 飯くったら早速出発だ!」

 「ふふ、ヒサトラさんも元気じゃない」

 「そりゃそうだって、ようやく母ちゃんを呼んでも問題ない状態になったんだからな。みんな乗ったな? それじゃいくぞ!」


 意気揚々という言葉がぴったりだと思えるテンションで俺はトラックを走らせる。

 ソリッド様達は今回も来ておらず、ゴルフ場建設に夢中らしい。

 税金で建設しているが、工事やゴルフ場で働く人の雇用で金回りは還元しているし、今後も観光で金を落としてもらえる算段があるからだろう。

 実際、ゴルフ場の近くには町があるし。

 国境付近に作ったら儲かりそうだと思ったけど、やっぱ土地の問題だろうな。


 <うむ、いい天気だ>

 「ああ、こりゃ間違いなく薬ができているぜ。ちっと飛ばすか!」

 「おー!」

 <あ”ー!!>

 <!!>


 あんまり人通りが無い街道をフルスロットで駆け抜けていく。これがフラグだったら嫌だな……自重するか?

 一瞬、そんなことを考えてしまうが――


 ◆ ◇ ◆


 「できとるよ、ちょうど昨日完成して息子に飲ませたところじゃ」

 「ああ、それで……」


 庭で元気にデイルさんと木剣で切り結んでいるアリーの親父さんに目を向ける。


 「体が軽い! 回復したばかりなのに父上から一本取ってしまうかもしれませんな!」

 「むははは! 小童めが言いおるわ!」


 元気になりすぎだ。

 というかデイルさんとマトリアさんで素材を探しに行けば良かったんじゃなかろうかと思うが、お家騒動が片付いたらそのつもりだったことを聞かされた。

 まあドラゴンとやり合える人間だし、牙も取れるだろうな……。


 「お薬はこれ、ですか?」

 「うむ。万能治療薬オポロミオンじゃ。これを飲み干せばすぐにああなる」

 「息子を指さすな。……ん? どうした?」


 牛乳瓶みたいなものに黄色い液体が入った万能薬をもらうと、ポンチョが俺の足をつついていることに気づく。

 屈んで尋ねてみると、おもむろに頭のでかい葉っぱを一枚千切って俺に差し出して来た。


 <あ”あ”あ”!>

 「なんだ……?」

 「多分、葉っぱで薬をくるんでおけってことかも? この子って大事な湯のみをそうしているから、薬が大事なものだって分かってるのかも?」

 「おお……」


 確かにそう言われればそうかもと葉を受け取り薬をくるむと満足気に頷いてアロンの背に飛び乗った。何気にアロンはポンチョやプロフィアを背に乗せて移動することもあり、仲良くなっているようでなによりだと思う。


 「これからどうするのじゃ?」

 「後は……母ちゃんをこっちに呼んでもらう必要があるからそれまで保管してって感じだな。なんかお礼をと思ったんだが、これくらいしかなかった」

 <これを納めてくれ>

 「なんだい、素材を集めてくれたのはあんた達なんだ礼なんて良かったのにさ……でかい!?」


 たまたまオールシャンの町に行った時にゲットした90cmクラスのマダイを差し出した。

 お祝いを兼ねてめでたいという意味も込めてだが誰にも理解してもらえなかったのでもう言わない。


 「これは美味そうだね、後でみんなでいただくことにするよ! って、今日は泊って行かないかい? みんな喜ぶと思うよ。あ、金は受け取らないからね! 息子も助かったことだし」

 「マジか……用意してたんだが……。とりあえずいつルアンと連絡が取れるかわからないから帰るよ。母ちゃんが来て回復したら連れてくるつもりだ」

 「ああ、楽しみにしているよ。腐ったりはしないから落ち着いてね……ふあ……」


 マトリアさんが片手を上げてから庭に設置されている椅子に座り込み、即寝入った。


 「ふふ、おばあ様よく寝ているわ。久しぶりに大仕事だったものね」

 「それじゃあ静かに帰りましょうヒサトラさん」

 「だな」


 昨日に完成して息子に飲ませたと言っていたから徹夜で経過観察もしていたんだろう。俺達は静かにその場を後にするため移動しようとするが……


 「フハハハハ! やるな息子よ! 弟とは違うな!」

 「あの親子も根性が曲がらなければ良かったのですが……!!」


 ……打ち合いが激化したデイルさん達が目に入り俺は――


 「婆ちゃんが寝てるんだ、静かにしやがれ!!」

 「おう!?」

 「なにぃ!? 私と父上の一撃を棒で吹き飛ばすだと!?」


 ――バットで二人の剣をホームランにしてやった。


 <うむ、よく飛んだな>

 <♪>


 唖然とする二人を置き、苦笑するアリーに見送られて俺達はその場を後にした。


 ……さて、次はルアンか。今晩にでも対応してもらえないか聞いてみるかな? 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る