幼馴染の彼は世界を作った勇者様、私は彼の――
水瀬真白
第1話
朝を起きて、朝食を摂ったら畑へ向かう。
向かうといっても、まだ種を植えたばかりの野菜や穀物たちだ。
そこで祈りを捧げながら
「どうか、どうか、大きな野菜がたくさんできますように」
祈りを込めて魔法を使っていくと体の中にある魔力がすぅっ、と抜けていく感覚が感じて、祈りを終える。
「ありがとう、ルーシィちゃん!」
「さすが、エーメル村の聖女様だな!」
「大袈裟ですよ。でも、ありがとうございます」
畑の持ち主である夫婦たちにお礼を言う。次は向かいの農家の畑に祈りを捧げないと。
「じゃあ、私はこれで」
「ああ」
この村の畑は一世帯あたりの面積が大きい。だから向かいの畑に行くのも少し時間がかかるため、私、ルーシィは駆け足で向かったのだった。
「ふぅ、終わった…」
本日の畑への祈りを終えた私は仕事場である屋敷へ向かう。
ルーシィ・フェイ。それが私の名前で、十六歳。
茶髪に青い瞳のよくある色合いの容姿で、このエーメル村で生まれ育った村娘。
そんな私の特技は光魔法を使えること。
光魔法が使えると知ったのは十歳の頃で、村にある学校の魔法適正で判明した。
光魔法は珍しく、農作物の成長を促したり、怪我を治す力を持つ。
そのため光魔法を一生懸命勉強して、卒業後の十四歳からエーメル村を治める村長のお屋敷で働いている。
一週間の半分の午前中は村の植えたばかりの畑に祈りを込めて、午後は怪我人の治癒や書類仕事をしている。
比較的大きい村だけど、村人たちはみんな知り合いで村長に領主様は優しく、のどかな村で、私は大好きだ。
「やぁ、ルーシィ」
「村長、こんにちは」
声をかけてきたのは村長であるサリスン村長だった。村人思いの、真面目で優しい人だ。
「早速来て悪いんだけど、怪我を治してくれないかい?」
「誰か怪我を?」
村長は村を守るために数十人の兵士を雇っている。殆どは村人の若者で、魔物が現れたら前に出て戦ってくれる。
「そうなんだよ、またアシュトンとジャンたちが木剣で喧嘩してね。アシュトンが怪我をしてね」
「また…?」
また怪我するなんて。この間怪我するくらいの喧嘩は控えてって言ったのに。
「わかりました、アシュトンはどこに?」
「訓練場にいると思うのだが」
「わかりました」
村長に挨拶すると急いで訓練場に向かうと肩を回している幼馴染がいた。
「アシュトンっ!」
「あ、ルーシィ」
「もう、何しているの!」
幼馴染の顔や腕を見ると、あざができてたり、一部血が出ている。
「すぐ治すからね。──光よ、どうか、癒してください」
金色の光が幼馴染の元へ落ちていくと、あざはみるみるうちに消えていき、血は止血して傷が塞がっていく。
「ありがとう。やっぱりルーシィの魔法は温かいね」
「それより、また怪我したの? 約束したじゃない。怪我するくらいの喧嘩はダメだって」
「わざとじゃないって」
「もうっ…」
まだ怒っているけど、幼馴染が「ほんとごめんって」と片目を閉じて手を合わしてきて頼んでくる。
アシュトン・マーシャル。赤い髪に金色の瞳を持つ端整な顔立ちの青年。
私と同じ十六歳で、すぐ近所に住む幼馴染で、村長の屋敷で兵士として働いている。
アシュトンのお父さんは昔、都市で剣士として働いていて、アシュトンは昔から剣を教えてもらっていた。
そんなアシュトンは明るくてやんちゃで、いつも大人しい私を引っ張ってくれた。
村の奥にある森へ二人で行って迷子になった時も私を励ましてくれた。そのあと、助けに来た大人たちにアシュトンは頭を拳で殴られて泣いていたけど。
私が村長の息子のジャンにいじめられたらアシュトンが助けてくれて、そのせいでジャンたちにからかわれたりしたこともあるけど、アシュトンは気にせず、ずっと私の相手をしてくれた。
泣き虫で気弱な私をほっとかずに、いつも嫌な顔せず相手してくれて、そんな明るくて、やんちゃで、優しい彼が私は大好きだった。
「怪我しないでね、アシュトンが怪我する姿見たくないんだから」
「わかってるよ、ルーシィったら泣き虫だからね」
「それは昔の話よ…!」
光魔法を一生懸命覚えたのも、アシュトンが兵士になると知ったからだ。
学校に入る前の六歳の頃、魔物に襲われそうになった私をアシュトンが庇ってくれたことがあった。
だけどそのせいでアシュトンは血を出して高熱に魘されてしまった。
あの時の私はアシュトンが死んじゃうと思って泣きながら「死なないで」って何度もアシュトンにお願いした。
幸い、数日で熱は下がり、その後元気になったけど、その日の出来事は今も鮮明に覚えている。
だから光魔法の適正がわかった時、よく怪我するアシュトンの役に立ちたい、と思って頑張って勉強してきた。
「ジャンとは何が原因で喧嘩したの?」
「あー…まぁ」
「?」
「些細なことだって」
「昔からジャンとそんなことで喧嘩して」
ジャンは昔、私をいじめてきたけど、今はそんなことしてこない。アシュトンのおかげかな、と思う。
そしてアシュトンとジャンは昔は喧嘩したけど今は喧嘩友達としてなんだかんだ仲良くしている。
「何人と戦ったの?」
アシュトンは元剣士だったお父さんに鍛えられたから強い。一対一では負けることない。だとしたら複数人だと思う。
「えっーと、五人かな」
「五人!? 同時に?」
「うん」
「なんで無茶するの…!」
いくら強いといっても一人で五人同時に相手するなんて。ジャンにも言っとかないと。
「ジャンたちには怪我負わしてないの?」
「だって本気でやると骨折れるじゃん」
木剣でもアシュトンが本気出すと骨が折れるなんて。ジャンだって、アシュトンの次くらいには強いのに。
「でも怪我してもルーシィがこうして治してくれるだろう?」
「そうだけど…。本当、気を付けてね」
「はい、わかりました」
強いのはわかるけど、怪我しない方がいいに決まっている。
アシュトンをじっと見る。
「ルーシィ? 何?」
「…ううん」
アシュトンと一緒に、村のみんなとずっと仲良く平和に暮らしたい──、そう、思っていた。
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