第2話 姉 2


 

 彼は伯爵家の長男だった。

 美しい人だった。王子よりも美しく、そして優しかった。

 卑屈な私を励まし、いろいろなところへ連れ出してくれた。

 抱きしめ、キスをくれた。彼の優しさは私を良い方へ導いた。私は彼のためなら何だってできると思った。

 それを伝えれば


「君自身を一番大切にしてね」


 と言ってくれた。そんな言葉初めてで、私は幸せだった。

 両親は結婚を認めてくれなかった。私を孤独にさせて結婚をさせないつもりだろう。と彼はいった。

 結婚ができなくても私だけを愛している。彼はそう言ってくれた。




 ある時、彼の家が王家から邪険にされていることを知った。

 正確には王太子に。今陛下は病床についていて、ほとんどを王太子が執り行っていた

その王太子が伯爵様を嫌っているのだという。

 理由はかつて、先祖に王家に反した人物がいたから。それだけで彼らは中枢でもいい扱いを受けないのだ。

 罪もないのに両親に虐げられた私と重なった。

 私はできる限りのことをしたいと伝えた。


 彼は私を巻き込みまいとしたが、私は彼にすがった。


「どうか、私にできることを。私にもあなたのためにできることがあるなら!」

「でも、君は私の妻でもない。伯爵家のことに巻き込むわけには」


 その言葉は私をひどく傷つけた。

 けれど私は引かなかった。


「関係ないからこそできることがあるかもしれません。そうだ。私の妹は殿下と結婚しました。王太子妃です。彼女に頼めば!」


 彼は渋ったけれど、最後は私の意見を聞いてくれた。

 私は彼のために今まで一度も書いたことのない妹への手紙を書いた。


 彼をどうか王太子とつないであげてほしい。その一心で頼み込む手紙だった。

 なのに、妹はそれを嘲笑うような手紙を返してきた。



 "お姉さま。お手紙をいただいてとても嬉しいです。

 お姉さまのお気持ちは理解しました。けれど、私から王太子へ繋ぐことはできかねます。

 まず、伯爵は今も王家に歯向かうつもりです。それは王家の調べでわかっています。

 伯爵はお姉さまを利用しようとしているだけです。どうか惑わされないで。

 また、王太子に繋いだところで、反発し合うお二人が会うことは叶いません。王太子は伯爵と犬猿の仲。取り持つことは不可能です。争いに発展する可能性すらあります。

 それに、お姉さまと伯爵は結婚していません。

 お二人の関係を表す公的な繋がりがない以上。お姉さまのご意見を私が聞いたとすれば、私が不貞を疑われることはあっても、私がお姉さまのために動いたと判断されることはありません。その材料がないからです。もっというと、私の言葉を王太子も聞いてはくださいません。

 どうかお姉さま、よくよく考えて行動ください。聡明なお姉さまならば、きっとこの悪い流れを自ら断ち切ることができるはずです。

 会えない遠くからこのような手紙を失礼いたします。

 私はお姉さまの幸せを願っております。

 どうか、ご自愛くださいませ。"



 私は怒りでどうにかなってしまいそうだった。

 妹は私の言葉など信用するつもりもなく、一方的に伯爵様を悪と決めつけたのだ。そしてさまざまな言い訳と共に、力を貸すつもりはないと、遠回しに言ってきた。さらに自らの権力があり、私とはもう遠い地位にいるのだと、暗に伝え、私の心配をするふりをして、私を貶めようというのだ。


 もちろん。妹が優しく、私のために頑張ってくれる健気な子だったのなら、怒りを感じることはなかったかもしれない。

 けれど妹は私のものを散々奪い、嘲笑ってきたのだ。


 断じて許せるものではなかった。





 

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