雑魚使いのお兄ちゃん! 〜高ランクモンスターを召喚する才能は無かったけど、雑魚の召喚なら無制限な特殊体質だったからゴブリン使って妹養う。〜

ももるる。【樹法の勇者は煽り厨。】書籍化

もやし炒め。



「おいしいねっ、お兄ちゃん」


 俺、姫路ひめじハジメは孤児である。


 ワールドブレイクなんてカッコイイ名前が着いた災害で両親を失ってから、もう八年が過ぎた。


 国も一度壊れかけ、生き残った人々が必死に再建した新しい社会に於いて、経済的弱者とは国が救う対象じゃなくなり、俺達兄妹は爪に火を灯す生活を続けている。


 災害で両親が死んで、壊れた国の政府ではもう孤児を支援する事さえしてくれない。


 十歳で妹以外の全てを失い、それでも当時二歳だった妹を守るために、俺は必死で生きて来た。


 クソみたいな仕事を何個も掛け持ちして、雀の涙の方がまだ量感が有るだろう金銭を受け取り、何とか今日まで生きて来た。


「今日もこんな、もやし炒めでごめんな」


「なんであやまるのー? ルミ、もやし好きだよ? お兄ちゃんが作ってくれたもやし炒め、美味しいもんっ」


 時刻は現在、夜の十時頃か。栗色の髪をツインテールに纏めた可愛い妹が、ボロアパートのちゃぶ台に並べられた質素な惣菜を褒めてくれる。


 今年で十歳になった妹のルミは、こんなにも貧乏臭い暮らしで一つも文句を言ったことが無い。


 間違っても『普通』ですら無いこんな生活で、よくもここまで天真爛漫に育ってくれたと思う。これこそ奇跡に違いないと確信してる。


 六畳一間のボロアパートで、今日も俺たちは白米ともやし炒めで腹を膨らます。こんな生活だからか、ルミはとても小さいままだ。


 もっと肉を食わせてやりたい。美味いものを腹いっぱい、可愛い服を存分に与えてやりたい。


 ワールドブレイクさえ起きなかったら、両親さえ生きていれば……。


「……お兄ちゃん、なんかお外で声がするね」


 もっと上手くやれたんじゃないか。そんな後悔ばかりが毎日のように頭に過ぎる。しかしそんな顔を見せればルミが心配すると思ってポーカーフェイスを固めていると、ルミが玄関の方を見ながら呟いた。


「ん? ……そうだな。酔っ払いでも騒いでるんじゃないか? このアパートは壁が薄いからな」


 たしかに先程から、外が煩い。


 俺たち兄妹が住むアパートは、そのボロさに相応しい土地に建っている。だから酔って騒ぐ事くらいは気にしないが、時間くらいは考えて欲しいものだ。


 俺なんかは元々寝る時間なんて大して無いから構わないが、ルミは明日も学校なのだ。


 夜はちゃんと寝ないと、ルミが学校の授業について行けなくなる。


「…………煩いな。少し注意してくるか」


 食事の時間もそろそろ終わる。ルミが食べ終わって寝る準備を済ませるまでに、外で騒いでる馬鹿を黙らせる。


 そう思って立ち上がると、…………突然家の扉が蹴破られた。


「ゲギャァァアッッ!」


「ゲッゲッ……!」


 入って来たのは、二匹の


 身長は平均して130センチ程の痩せ型をした人型の怪物で、ワールドブレイク以降に世界へと現れるようになったモンスターの一種だ。


「なっ、ゴブリンっ!?」


「お兄ちゃんっ……!」


 成人した人間よりも小さいが、それでもゴブリンは人よりも力が強い。


 お互いの筋肉が出力可能なパワーに最初から隔たりがあるのだ。


 あんなにも痩せ細ってガリガリなのに、それでも肉体労働漬けの俺よりも筋力があるなんて馬鹿げてる。


「ルミ、部屋の隅に居ろ!」


「でも、お兄ちゃんがっ」


「大丈夫だ! お兄ちゃんは強い!」


 兄とは、妹よりも先に死ぬべく生まれて来る生き物なのだ。絶対にルミは守る。刺し違えてでも二匹のゴブリンは殺してみせる。


「来いよゴブリン。妹を背に守る兄って生き物が、どれだけ強いのかを教えてやる。あとついでに人の家に入る時の礼儀もな」


 俺は質素な惣菜が乗ったちゃぶ台をひっくり返して足を持つ。家に物が無さ過ぎて、武器に出来るような物がほとんど無い。


 包丁くらいなら有るが、この部屋はキッチンが玄関の隣にあるボロアパートお馴染みの間取りだ。

 

 つまり最も武器になりそうな物はゴブリンが入って来た玄関付近にしか無いのだ。


 だが、構わない。そもそもコイツらが地球に現れなきゃ、俺たちはもっとマシな生活が出来たんだ。この鬱憤、お前らで直接晴らしてやる。


「…………鉄腕アルバイターを舐めるなよ、怪物が」


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