その日、俺はオフモードのお化けに会いました

騙手

第1話 お化けって重労働1

もう夏か、と感じる気温になってきた6月の下旬。遅めの梅雨明けとなったが今日は雲ひとつない快晴だった。久々の晴れというのもあって外で元気に遊ぶ小学生や楽しくデートをしている中高生が街をうろついてる土曜日、俺は高校で一人勉強をしていた。


「ちっ、カップルが。エグい毒飲んで〇ねよ」

窓の外を見てありえない暴言を吐いたのは俺ではない。付きっきりで勉強を教えてくれている女教師の佐々木花菜先生だ。


「先生、それはやばいっす。爆ぜろくらいで抑えましょ」

「はぁーだってよぉ語部、アタシもう25だせ?なのに彼氏の一人も出来たことねえよ」

こんなに可愛いのにな、と付け加える佐々木先生。まあ、顔が整ってるのは否定しないが如何せん性格がな…。


俺─語部 柊は土曜日にも関わらず大学受験の勉強を個別で教えて貰っていた


「先生、ここの英会話文はどう訳すんですか?」

「まだアタシの彼氏の流れが終わってねえだろ」

「まあ、性格じゃないっすか?」

「そうだな。そこの英文は黙れ小僧って読むんだ」

「会話の相手女の子っすよ」

「じゃあ黙れ小娘だな」


果たしてこんな意味の無いことで大学は大丈夫なのか心配だが佐々木先生は結構生徒をいい所に送り出しているので目を瞑る。


「もう昼だな。一旦休憩しな、語部」



午後9時、結局俺はあの後意味の無い会話を佐々木先生と繰り返しながらこんな時間まで居残ってしまった。


やっぱサウシードッグフードの曲はいいなあ。

シンデレラボーイズラブとか名曲すぎんだろ。


そんな事を考えながら歩く夜道。暗い一本道を少し進んだところで俺は見た。絶対に見てしまった。街灯の真下に立つ一人の女の子を。


え、幽霊じゃね?なんか色素薄くね?幽霊って見た時点でアウトなんかな?それともアクション起こしてからとか?


人間、非現実的な事が突如起こった時意味のわからない事ばっかり頭をよぎってしまうものだ。そんな時我に戻してくれるのは外的要因である。


サウシードッグフードのシンデレラボーイズラブのラスサビ『気付かないふりをしてそのまま騙されてあげていたの』が聴こえたんだ。


そうだ!大丈夫向こうはこっちを見てない。俺は霊感がない!俺はチェリーボーイだ!


人間、やはり非現実的な事が起こると思考はバグってチェリーボーイの告白を突然してしまうものだがシンデレラボーイズラブに勇気づけられた俺は白々しく目を逸らしながら女の子の方へと進む。


女の子まで10m──5m──3m程まで近づいた所で俺は女の子が泣いていることに気がついた。


明らかに幽霊の王道シナリオだったが生身の人間かもしれないしそれに泣いてる女の子は放っておけないと言う男の本能が俺の背中を押した。


「えーっと、だ、大丈夫?」

「………」

終わった。幽霊のパターンだ。

「あ、あの〜」

「…お兄ちゃん、私が見えるの?」

「見えないです」

「嘘だ」

「ほんとです」

「わっ!!」

あろうことかこのクソアマは大声でおどかしてきた。お陰様で俺は少しチビった。

「見えてるじゃん。私今日もう疲れたよ」

彼女は闇に消えていった。


幽霊に勝利した俺は胸を張って内股で震え続ける膝と少し湿った股間部分を抑えながら真っ直ぐ前を見て帰った。

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