甘く、甘く、囁いて

鷺島 馨

第1話:俺と彼女の間に入ってくるな

俺と彼女は周囲が羨む程に仲が良い。

四六時中べったりと甘えてくる彼女。

その彼女をどこまでも甘やかす俺。

友人からは呆れられているがどこにいくのも一緒。


俺と彼女は同じサークルに当然入っている。

で、今日は複数のサークルが合同で飲み会をしている。

最初に少しだけ出て帰るつもりで俺と彼女は参加した。


彼女は凄くお酒が弱い。そして酔うとヤバイ。

俺は極力、彼女にお酒を飲まさないようにしていた。

彼女と仲良くなろうと酒を注ぎにくるヤロー

俺を酔わそうとする女。

どっちも迷惑なんだよ!


問題は生理現象、トイレの時だ。

今日の飲み会は複数のサークルが集まっていたので、彼女への酒をブロックしきれなかった。おまけに俺も大分飲まされた。

お酒を飲んで一度トイレに行くと何故か次が近くなる。

トイレから戻る度に俺の席に座り彼女に酒を勧めている男達ヤローども、その都度、追い払っているがキリがないほど湧いてくる。

そして三度目のトイレから戻った時に彼女が居なかった。

トイレではないはず、なんせ、荷物も無い。


俺は周りの奴に彼女がどこに行ったかを聞いた。

彼女を連れ出した男がいる。

慌てて店を飛び出し周囲を探る。

いた。ふらつく足取りの彼女を引き摺るように連れていく男。

俺は駆け出し、その男の肩を目一杯の力で掴む。


「ああ!なに、人の肩掴んでんだ。コラっ!」

「ふざけんな!俺の彼女から手を放せ!」

左腕に彼女を抱え、男の顔面に渾身の拳を叩き込む。

男が膝をつき顔をおさえる。

左腕に抱いた彼女を見ると意識がない。彼女はどんなに酔っていても意識を飛ばす事は無い。

こいつは彼女に薬を盛ったのだ。そう理解した俺はそいつの脳天に踵を落とす。這いつくばった所にストンピングで追い討ちをかける。

繁華街でそんなことをしていると当然警官がやってきた。

馴染みの警官は俺の顔を見て腕の彼女と地面に蹲る男を見てまたかという顔をする。


そう、俺の彼女は度々、連れていかれる。それも強姦目的でだ。

彼氏の俺がそれを許せるはずがない。

そして俺はそういう奴に二度と同じことをする気が起きないよう徹底的にぶちのめす。


この警官は最初の現場に居合わせた。

狂ったように相手を叩きのめす奴がいるという通報に腕ききの彼が対応すると俺がいた。

話の分かる警官で『彼女が強姦目的で攫われ、相手を叩きのめしている』と言ったら『ほどほどにしとけよ』と言って去っていった。

彼が非番の時に一度、留置所に入れられた。翌日出てきた彼とゆっくり話をした事がある。彼とはそれ程、歳が離れてなく、彼の同級生も同じような目にあって人生を狂わせたそうだ。


それもあって俺が強姦魔を叩きのめしても多めに見てくれているらしい。

この時も相手から被害届が出ていないということで解放された。

俺と引き離されていた彼女が非常に面倒臭い事になっていたと彼女の友人に聞いた。


そして今日も彼に「彼女が薬を飲まされて連れ出された。犯人はこいつだ」と蹲る男を足蹴にする。

「意識が戻らないのなら病院に連れて行け。こいつは俺が尋問しておく」手を払うようにして俺に立ち去れという。

「ありがとう」

「ほどほどにな」


彼と別れてタクシーを拾い病院に行く。


その後、ボコったアイツとは二度と顔を合わすことは無かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る