かぐや姫と月見荘

イツミキトテカ

第零話 今は昔

 ◆◆


 男と女が二人、並んでそらを眺めていた。二人の後ろには銀の道。光り輝く銀色の砂が、引き摺ってきた着物の跡を、何里にも渡って残している。


 二人はどのくらい宙を眺めていただろうか。この時間が永遠に続けばいい。その願いは、遠くから聞こえてきた喧騒によって打ち砕かれた。


 男はため息をついた。その喧騒は、次第に、確実に二人の元へと近づいてきている。


 錠の下りた塗籠に隠すことも、弓矢で射ることも、すべて無駄なのだ。


 男は女を胸に抱き寄せ、黒く美しい髪を、慈しみながら手櫛を通した。


「かぐや姫、愛している」

「…」


 男の言葉に返事は無かった。男はとても安堵した。

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