僕と尺八

@bokuhachi

1吹 指先が無くなった日

僕は病院の形成外科前で右手の親指を抑えていた。

血と生傷が苦手な僕はただタオルで傷口を隠して止血することしか出来ない。


こういう時の人間の想像力というか妄想力は凄まじいと思う、タオルの下にちゃんとあるのに右手が無くなって破裂した水道管みたいに血が出ているんじゃないかと考えてしまう。

考えは最悪な物しか浮かんでこない。


もちろんそんな事はない。

わかってる、わかってるけど指先から血は止まらないし痛い。


僕は気を紛らすために大きく深呼吸をした。

吸った空気が体を巡って古い空気を外に出す。

少し気分が良い。

その時僕は気づいた、尺八の呼吸をすると楽になる。

尺八も大きく息を吸って、息を出して音を奏でる。

尺八を吹いている訳ではないので音が聞こえるはずはないが、僕には尺八の音色がハッキリと聞こえてくる。


大丈夫だ、僕は正気に戻ったところで診察室に呼ばれた。


診察の結果は少し縫えばすぐに治るらしい。

よかった軽傷だ!

そうと分かればどんな傷なのかを、ちゃんと見ておこう。


傷口を見た瞬間僕の呼吸は全力疾走した後の様に荒くなっていた。

心臓からは和太鼓の様な音が鳴り響いてる。

僕は倒れてベッドに寝かされた。

尺八の音色はもう聞こえてこない。


まだまだ修行が足らないが尺八を身近に感じられた日になった。

怪我の功名ということにしておこう。

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