第6話 コーンパン




涼典りょうすけ。帰ったのか。台所に来い」


 巨大猪に遭遇することなく無事に祖父母の家に辿り着き、がらがらと音が鳴る玄関の戸を開けてはすぐに閉めて、玄関で靴を脱いでいたら台所から祖父の声が聞こえた。

 少年、涼典が早足で台所へ向かえば、コンロの前で何かを焼いている祖父がいた。

 少しだけ香ばしいパンの匂いがするなと思っていたら、台所の流し台で手洗いうがいするようにと言われたので、その通りにしてから祖父を見上げた。


「じいちゃん。巨大猪に追いかけられた。すっごく怖かった」

「ああ。人間より猪が多いからなあ。ばったり会う回数は多いだろうし、危ないから外に行く時はじいちゃんかばあちゃんと一緒にでかけることにしよう」

「今日言ってほしかったな」

「ごめんごめん。言い忘れていた」

「すっごく怖かったし大変だった」

「ごめんごめん。ほら。焼きたてのコーンパンあげるから」

「コーンパン?」

「ホットケーキミックス粉にとうもろこしの粒を混ぜて焼いたパンだ。美味いぞ」


 ほれ。

 丸くて青い皿に乗せられたコーンパンはくすんだ白のパン生地に、ところどころに焼き目の茶色、とうもろこしの粒の黄色が見えていた。


「いただきます」

「めしあがれ」


 祖父は丸ごと一個口の中に入れて、涼典は半分食べた。

 パンはほんのり、とうもろこしはすっごく甘かった。










(2022.7.14)


 

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