第5話 夢心地




 もう巨大猪はいないからさっさと下りろ。

 山桃を拒んだ後に続いた無言を破った少女の言う通りにした少年は、お邪魔しましたと深々と頭を下げて、用心深く杉を下りて行こう。

 としたのだが。


 今更ながらに気づいた家の屋根よりも上の高さと。

 途中に一本もない足を置く枝(休憩場所)と。

 かさかさして痛そうな杉の表皮に。


 少年が怖気づいていると、少女が下に連れて行ってやろうかと言った。

 怖がっている自分が恥ずかしくなったが、このままではずっと下りられないと危機感を抱いたので、お願いしますと深々と頭を下げると。


 いつの間にか、地面の上に立っていて。

 真横を見渡しても、少女はいなくて。

 でもどうしてか、見上げることはできなくて。

 巨大猪にまた遭遇する前に祖父母の家へと急いで帰った。


 ふかふか土の上を走っているようだった。











(2022.7.14)


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