第3話 鉢巻き
「危ないな、おまえ」
「いや、君が額にぶつけたせいだろ」
思いのほか力強く引き上げられた少年は、杉の枝に跨ったまま無言で見上げた。
非難めいた眼差しを向けつつ、赤くなっているだろう額を擦りながら。
手首から手を離して杉の枝の上に立つ少女を。
年は同じくらいで、丸い黒めがねを目に、というか、顔の半分に、リレーに使う色とりどりの鉢巻きを全身にかけている。
額に小石のような物をぶつけられて、眠気ばかりか身体も吹き飛んだのだ。
間一髪で少女に助けられたのだが、少女のせいで危うく落下してひどい怪我を負いかねない状況に遭ったので、素直にありがとうとは言えなかった。
「勝手に私の庭に入って来るからだ」
「庭って。ここは君の土地なの?」
「私の土地と決めた」
「えー」
「だから早く去れ」
「巨大猪から逃げてきたんだよ。もうちょっとここにいさせてよ」
少女は舌打ちをして、下を見た。
少年も下を見た。
巨大杉の周りを巨大猪がうろうろしていた。
「しょうがないな。じゃあ、いさせてやるが、言うことがあるだろう」
「………おじゃまします」
深々と頭を下げると、足りないと言われた。
「………巨大猪がいなくなるまで庭を見学してよろしいでしょうか?」
「ああ」
許可が無事に下りました。
(2022.7.12)
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