第2話 山桃の種





 ここは異世界かと我が目を疑いつつも。

 巨大猪から逃げ切れた安堵と走り疲れに加えて。


 ふかふかの土の上にいるような心地がする枝の上。

 枝葉が絶妙に遮って心地よく注ぎ込む日光の下。

 常に涼しく時に氷のように冷たい風が優しく流れる中。

 ラベンダーに水やりをする少女という長閑な情景を前に。


 少年はうつらうつらと舟をこぎ始めて。

 そして、あと三回頭を左右に振れば、ふかふか枝の上に倒れ込むはずだったのだ。

 少女が少年の額に見事、山桃の種をぶつけなければ。










(2022.7.11)


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