第116話叔父と甥

「朱若、お前に頼みがある・・・。これは『父』としての私の頼みだ。」








「黙れ・・・。」




なぜ、そんな顔をするのか。


これから言うことは明らかにわかる。


だから、聞いてしまえばその諦めを肯定することにほかならない。


それがまた・・・腹立たしい。




「小夜と駒王丸を頼む。」




「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れッ!!!」




「仇は一切考えず、のびのびと自由に・・・そして常に他人に与えるのは憎しみではなく愛を・・・。前を見て未来を見据えろと。」



溢れる涙が止まらなかった。


(こいつは・・・救えなかったッ・・・!)


胸が張り裂けそうだった。


初めての明確な敗北を悟った。


「義賢・・・お前は間違ってる。それは俺が大っ嫌いなやつの考えだ!俺はお前の思いを全力で否定するッ!」


八つ当たりだって言うことは分かっている。

だけど、諦めきれない。


諦めてしまえば朱若は自分のやり方に対する裏切りだ。『死』という名の偽りの救いを許すことはできない。


たが、義賢は笑った。少し小馬鹿にするように、そして安心したように・・・。


「朱若にはそんなことできるはずなかろう。お主はこの擦り切れた世の中にあって優しすぎる心を持ってる。だからお主にはそんなことできない。だから、お主は私にとって『最上の救い』なのだ。」


パタン・・・。


義賢は扉に手をかけた。


「行け。もう、時間が無い。あとのことは頼んだ。わしの思いをお前の行先に連れて行ってくれ。」


目の前には小刀が置かれていた。


「行くなッ!俺はまだ・・・ッ!」


「一つ・・・言えることがある。今の選択は決して『武士』としてのものじゃない。あぁ、確実に言える。この選択は・・・この思いだけは・・・『源義賢』が『源朱若』に見出した希望だと・・・。」


「!?!?!?」


朱若は膝から崩れ落ちた。

身体に力が入らなかった。


義賢は笑って

勢いよく扉を開け放つ。


「居たぞぉぉぉぉ!!!」


「義賢じゃ!討てぇぇぇぇぇぇ!!!!!」



刀を抜き放ち背を向けたまま空を仰ぐ。














「ありがとう・・・朱若。」












ーーーーーーーーーーーーーー


「斎藤殿!」


「お主も抜け出せたようだな。重能。」


二人の騎馬は密林の中で相対した。


「どうだ。義賢様や妻子の処遇の予定は掴めたか?」


「いきなり故詳しい情報はありませんが少なくとも・・・」


深呼吸して重能は答える。


「義平様、及び父上には義賢様と奥方、そして駒王丸様を生かすつもりは無いかと・・・。」


「ふむ、ならば作戦は決行だ。武蔵嵐山の北の道は朱若様以外には分かっておらん。そこから馬をつけるぞ!」


「はい!」


二つの騎馬は密林の中に消えていった。














ーーーーーーーーーーーーーーー☆


「泣きじゃくってたクソガキに取り付いてみたはいいものを・・・。暇だな。」


らしくない大人びた言動と共に溢れ出る黒い悪意は暇を持て余していた。


「今の日の本は・・・ん?おおっ!いいねぇ。いい感じの悪意が育ってるぜぇ・・・。ここは・・・武蔵国の・・・大蔵館か!

クククククククク・・・ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!」


面白そうに虚空に人差し指をかざす。


指から鈍くネバネバとした墨汁のような液体が垂れて・・・













弾けた・・・。



















ーーーーーーーーーーーーーーーーー☆



既に命の灯火が燃え尽きた愚かなる者の屍。


虚空から黒い雫が映り頭上から滴り・・・男の頭に垂れた。


「・・・!!!!!!!!!!!!!!!!」


屍を紫の瘴気が包み込む。


『殺す・・・。殺す・・・。』


「ごあぁぁぁぁぁぁァァァァッ!!!!!!」


『いいねいいねいいねぇ!このいい感じの恨み具合、最高に壊しがいあるねぇ!!!予行演習だ・・・。が守ったこの日の本をぶち壊す前に軽く掻き回してやるのも粋だよねぇぇぇ!?!?!?!?』





さまよえる一つの怨みの権化がここに動き出した。










全てを殺し・・・壊すために・・・。












ーーーーーーーーーーーーーーー


どうも、綴です。


先週投稿出来なかった分も合わせて今週は二話目を投稿出来ました!


一旦週末にもう一話出せるように頑張りますが、投稿する話のクオリティ次第なので、もしかしたら来週になるかもしれないです。

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