第41話気高き理想は悪意を越えて、見えざる企み

「反撃、、、いや、逆襲開始だ!守る為に、、、そして幸ある門出に必ず辿り着く為にッ!」





「朱若殿、、、。」


「いたぞォ!!!」


近くで見守っていた師胤が呟くと同時に新手の武者達が次々と集まる。


「ッ!朱若殿!大声でここが割れてしまいました!」


どうやら、僅かで追撃していた武士たちを追ってその他大勢の武士達が手柄を立てんと探していたところにこの朱若の一喝であったのだろう。


「そうか、、、。」


「どうか、軍に指示を!」


「・・・。」


黙ったまま集まった武者達を一目、すぐに飢えた者たちから問答が飛ぶ。


「もう、貴様らに逃げ場など無い!諦めて我らの手柄になるんだなぁ!」


「逃げ場?いつ俺達が逃げるって言った。季邦ィ!」


「はい!『これ』ですねッ!よっと!」


意図を察しさ季邦に投げられた物を受け取った。


「た、ただの弓矢!?」


キリキリキリキリキリキリ、、、、、


引き絞られる弓。


「く、来るぞぉ!」


相手の武士達も身構える。


「さあ、行こうぜ、、、前以上にッ!」


いきなり天空に向かって構える。


そして、、、




バシュッ!!!!!





「き、消えたッ!?」


「ど、どういうことだ!」


天空に向かって放った弓が消息を絶つ。


「朱若殿!何を、、、」


「着くぞ、、、そろそろ!」


師胤達が焦る中依然朱若のみが武者達を一点に見つめている。


「お、、おいッ!?上を見ろ!や、矢がぁ!」


「な、なにィッ!!!!」


頭上を見上げた小次郎がその光景に目を見開く。


「あ、、、あれはッ、、、一本じゃない!?百本、、いや、二百本ッ!まるで、、、空一面を覆う矢の豪雨のように真下に一直線に落ちてくる!?」




彼の者は小太刀を抜き掲げる。


「流星の陣、、、完成。者共!殲滅するぞォッ!!!」


「矢をつかがえよ!」


師胤が指示を出して武士達が一斉に矢を引き絞り始めた。


「ぎゃああああッ!?」


「ぐへぇッ!!?」


「痛いッ!?」


幾千の流れ星が落ちてくるように炸裂する矢に武士達は鎧を次々に貫かれてゆく。


「ここらでトドメだ!師胤殿!」


「はい!皆々、一斉に放てぇ!!!」


ドシュシュシュシュシュッ!!!


「ひ、退け退けぇ!」


「こ、今度は前から!?」


「に、逃げろぉー!!!」


一目散に背中を見せて逃げていく武士達。


「よし!皆の者!追撃はじ、、、」


「追撃は無しだ!」


「え!?でも我々の勝ちですぞ?背中を討つに容易いのでは?」


「気持ちは分かるが、今はやめておこう。後々死ぬぞ!」


「わ、分かりました!追撃やめぇ!やめだぁ!」




小次郎が朱若に近づく。


「あの、朱若殿。さっきの矢ですが、、、。」


「そうだな、説明がいるはずだ。皆の者も両方をよく見てみろ!」


朱若が自分たちの進軍してきた道の両脇を目を凝らすように促した。


「あ、あれは!?ち、千葉様の旗!?」


「ど、どういうことだ!我々で軍は全員なのに、、、」


「左手の西側が胤正殿率いる百で、右手の東側が三崎の海上常衡殿が率いる百五十だ。」


「しかし、なぜ我々にも分からないようなことを、、、」


「それではなぜ俺たちがこの信太荘襲撃をいきなり知ったかっていうことだ。」


「なるほど、やはりそうでしたか。」


隣で小次郎が答え合わせをするような反応を示した。


「我々の中に、相手に状況を伝えている者がいる。」


「そうだ、つまり密偵ってことだ。」


「なぁ!?なんと、、、」


師胤が驚き周りを見渡す。


「安心しなされ。私達のような指揮官などにそのような者はいないでしょう。そうですよね?朱若殿。」


「流石と言うべきだな、その洞察力。正直俺たちのような指揮官などを寝返らせたり、誰かを送り込んだりすることはまず難しいだろう。何せ俺や小次郎、季邦以外は千葉の一族で占められているこの下総でそれは犯す危険が大き過ぎるからな。」


千葉党は以外にも坂東の中では親族間での結束が非常に固く、兄弟間の争いも全くなかった。一応、その南隣の上総国(かずさのくに)(現在の千葉県中部)の親族である上総氏を含めて房総平氏での結束は強い。


(だが、今の上総氏は兄弟間で僅かな亀裂が走っているらしいからな。基本的には長男である当主を下の十数人いる兄弟達は支える姿勢を見せているんだが、次男一人だけこれに不満を持っているらしい。相当な野心家だな。まだまだ、混乱が爆発するのは先だと思うが警戒が必要だな。何せ上総国は義朝が最初に関東で後ろ盾を得て活動を始めた大事な源氏ゆかりの地だからな。それに義朝も若い頃は『上総御曹司(かずさおんぞうし)』って呼ばれたぐらいだしな。それを支えた上総氏も然りだ。俺達には大事な戦力基盤だ。)


「はいはいはーい!」


手を挙げて季邦が暑い視線を向ける。『熱い』じゃなくて『暑い』だ。


「下の者の方だとやはり目立たず動きやすいからですよね〜!」


「はあ、一応正解、、。あんまり、近づくな!ええい暑苦しい!」


気づけばすぐ近くまで顔が来ていた。


「まあ、というわけで相手には俺達が全く出遅れるタイミングを狙って襲撃ができたわけだ。それに信太からそれを伝える使者も来るのが遅かった。恐らくは何人か送られた使者は殺されたか、来るのを妨害された可能性も否めない。」


(それを炙り出すなんて正直シラミを全部潰していくようなもんだからな。キリがない。)


「そんな状況で皆にこの別働隊のことを伝えたら相手に対策を講じられていたかもしれないということだ。」


「つまりは、敵を欺くにはまず味方からだと?」


「格好よく言えばそんな感じだ。」


(やはり、風魔たちをこっそり配置していてよかったな。小太郎達には秩父重隆を任せているが、他の子供たちは何人か動けたからな。事前に親政近くを洗わせてみて繋がったしな。)


「あと、武士達が朱若殿が指揮する軍では若干矢を多く持ってきているように見えます。」


「ふははは!それは朱若が臆病じゃからじゃよ!」


笑いながら義隆が出てきた。義隆は鎌倉党の準備ができたことを鎌倉から忙しい景義に変わって伝えに来ていたのだがすぐに戦が起こったのでそのまま参陣した。


「ちょっと黙ろうか?大叔父ッ!」


怒る朱若をよそに義隆は説明を始めてしまう。


「我ら相手より少ない軍だとできるだけ至近距離からの戦闘はすぐに兵数を減らしてしまうから避けているのだ。弓矢だと遠距離から先手を打てばある程度敵に打撃を加えることが出来るということだ。朱若は初陣の時からそうじゃが敵を奥まで踏み込んで討つのが嫌いだからな!」


「なるほど!」


「いや、俺まだ一人で馬乗れないからそんな事しないからな?」


義隆のこのいい感じに煽られる久しぶりの絡みに朱若は引きつった表情で辟易する。


「さぁってと!それそろ戦を再開と行こうか。」


説明を終えた朱若は腰を挙げる。


「どうするのです?」


「それをお前が手伝ってくれるんじゃないのか?俺達は信太がどういうところかまだ詳しくないからな。お前が案内してくれるんだろ?」


「えっと、良いのですか?私があれほど貴方を拒んだのに。」


虫の居所が悪いのか小次郎は朱若を伺うように訊ねる。


「別に?今俺に仕えるとか関係なく信太を解放するためにここに来たんだ。なら、お前が戦の参謀やっても問題ないだろ?俺の戦略なんて結局は決定的な打撃なんて与えられるか微妙だしな。それに今は襲撃戦でも援軍無き籠城戦でも無い。なら、、、俺達を勝たせるのも難しくない、だろ?」


「は、はい!勿論です!敵よりは半分以上少ないけど籠城してたよりは遥かに兵も多いし、何より相手がどのような感じかある程度掴めました。この戦勝たせてみせます!」





「へぇ?随分と大洞を吹くじゃないか。お手並み拝見と行こうじゃないか。『臥竜』。」





「ええ、ご照覧致しましょう。『六韜・三略』の真髄を!」




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