第34話閑話 小松殿、京からの手紙

平安京、源氏館


「最近暇ね〜。」


源氏館にて坊門姫は怠惰を貪っていた。


「朱若もいないし、遊び相手がいなくて暇だな〜。」


現在、家族は皆バラバラである。義平と朱若、そして母の由良は鎌倉に行き、同じ屋敷にいる義朝と朝長はいつも出張っておりあまり、屋敷にはいない。鬼武者は最近は書物を読み漁り筆を走らせているためとても邪魔は出来ない。


「坊門姫様、ご客人が、、、。」


側仕えの侍従が障子の後ろから畏まって告げた。


「はて?どなたでしょうか?」


「見た所、お武家の方にございますが、お通し致しますか?」


「恐らく、父上達へのお客様じゃないかしら?お通ししてお茶をお出しして。」


「はい。」


パタパタと急ぐように侍従は下がった。


(にしても心当たりがないのが不思議よね。誰かしら、、、)


気になって客が通された間まで来てしまった。顔を覗かせてみる。


(わあ〜、なんて言うか整った顔立ちね。貴族のご令嬢にたいそう気に入られそうだわ。まあ、朱若程じゃないけど。)


完全なブラコン補正がかかっているのはもはや無意識である。坊門姫にとっては朱若こそ至高なのだ。


「おや?」


座っていた公達のような武士が顔をこちらに向けた。


(し、しまった〜。見つかっちゃった。)


「どなたかいらっしゃった気がしたので見てみれば、姫君がおられるとは!これは挨拶が遅れてしまいました。いきなりの訪問の件申し訳ありませぬ。」


礼儀正しく、謙虚な姿勢に少し意外な印象を受ける。


「私(わたくし)、平安芸守清盛(たいらのあきのかみきよもり)が一子、平重盛(たいらのしげもり)でございます。」


(へ〜、確か父上が争ってる人って平って人だったよね?)


じ〜〜〜〜


「そ、そんなに睨まなくても、、、」


遠巻きに疑いの視線を向ける姫君に重盛が参ったような苦笑いを浮かべる。


「今日は義平殿に会いたくてきたのですが、、、どうやら空振りでしょうか?」


「ど、どうして兄上に用があるのですか?」


「えっと、何から話せばよいか、、、。義平殿は一応顔馴染みの友人でして、最近はなかなかつもる話も出来なかったものだから落ち着いた機会に来ようと思い少し急ではありますがここへ来た次第なのです。」


じ〜〜〜〜〜〜〜


「あはは、どうやら私は姫君のご機嫌を悪くさせてしまったようですね。」


さっきよりも強めに警戒された視線に重盛も笑いながらではあるが耐えかねたのか懐から手紙を差し出す。


「これを義平殿にお届け願えませんでしょうか。」


丁寧に差し出されて姫君もさすがにあらたまってしまう。それほどまでにこの重盛の謙虚さが思わせると言っても過言ではない。


「わ、分かりましたわ。」


「今日はこれにて失礼すると致しましょう。私も姫君をこまらせたくはないので。あと、これはお納めください。」


「ちゃ、茶菓子ッ!」


一瞬にして綻ぶ姫君の顔を微笑ましく眺めながら重盛は一礼し、退出していった。


「おっと。」


退出した重盛が屋敷を出ようと歩いていると曲がり角で少し小さい背丈の子どもにぶつかった。


「大丈夫ですか?鬼武者殿?」


「はい、って小松殿(こまつどの)(重盛)ではありませんか!義平兄者に会いに来たのでしたら、残念ですが、、、」


「それなら、さっき姫君より手紙を渡していただくので大丈夫ですよ。かなり、警戒されましたが、、」


笑いながら落ち着いて確認をとる余裕は義平と違い、ごく普通の憧れた兄としての安心感を感じる。


「まったく、姉上も困ったものだ。重盛殿ならまだ話せるというのに、、」


「ははは!私の父も嫌われたものです。」


まったく気にする様子も無いところはもはや器量の広さすら伺わせる。


「小松殿、朝長兄者はともかくとして父上と鉢合わせるのはまずいです。近くの者に案内するのでお早くここを出た方がいいです。」


出世のライバルとして清盛とバチバチな義朝がその嫡子(重盛)と会うのはさすがに雰囲気的にもまずい。


「確かにそのようですね。ではお暇させてもらいます。」


重盛が屋敷の門を出るのを確認して「はぁっ」と安堵の息を吐く。その足で姉のもとへ向かった。


「ん〜、美味し〜!やっぱりあの人いい人だわ〜!」


絶賛美味しく茶菓子を頬張っていた。


「姉上、、、」


「はうッ!?鬼武者じゃない!どどどうしたの?」


「姉上、また小松殿に素っ気ない態度をとった上に茶菓子を貰うなんて、、、これで何度目ですか?」


由良に似た顔立ちで顔をプクッと膨らませる。


「まだ三度目ですぅ〜、、、」


「はぁ、いい加減小松殿の顔を覚えてください。とりあえず預かった手紙は義平兄者に送りますよ。」


坊門姫から手紙を受け取り、近くの武士に早速手配させた。


(ついでだから、このことも母上に近況でも添えて手紙を送るか。)






鎌倉、亀ヶ谷館


「うっふふ、坊も相変わらずねぇ〜、」


「・・・。」


由良が鬼武者の添えられた近況報告の手紙で和やかに笑っているのとは打って変わって義平は重盛の手紙を見て仏頂面だった。


(まずいことになったぞ、、、重盛、これが本当なら都は、、、)



手紙には簡潔そのものであった。



「鳥 羽 院 ひ ど く 悩 み て 候。

御 様 子 猶 ほ 激 流 の 前 の

小 舟 の 如 し。前 関 白、

嫡 長 子 な る 忠 通 卿 と

大 い に 争 い 遂 に 義 絶 に 至 り け り。

御 弟 君 の 頼 長 卿 に 氏 長 者 を 譲 る。」



(近いうちに都で騒乱が起こるぞ、、、!)





ーーーーーーー


どうも、綴です。


古文拙くてすみません・・・。


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