第26話簗田御厨立つ、一人の乙女の涙とともに

「なに!?足利家綱が兵を引いた?」


風魔の報告に簗田御厨に集まった武士達に困惑が感じられる。


「はい、忍び込んで見た所どうやらこの戦で敗北した足利が浮き足立っていると思った秩父重隆が足利の領域に侵入したとのことです。」


「そう、、、、」


総大将の朱若の動きに武士達は注目する。


ゆっくりと息を吸う朱若を前に緊張がはしる。


「よし!みんなこの戦は終わりだ!領地に戻って傷を癒せ〜!俺はもう眠いから寝る!ふぁぁあ、、、」


「「「「「ええええッ!?!?!?」」」」」



完全に職務放棄である。

しかし朱若とて仮にも6歳程。当然ここ連日の戦による緊張感と激務は幼児の体には酷な注文である。


(もう少し言うと俺の戦はそこにいる武士達とは求めるべき目的が違うんだ。源氏に対する畏怖を感じさせることが出来たら別にどうだっていいんだよ。)


つまり、朱若の言わんとするところはこうだ。


朱若達が圧倒的に足利を壊滅させる。

↓ ↓

足利は報復しようとする。 秩父は足利が弱いと

思う。

↓ (6歳児に負けたら

そうなる。)

兵を集めて遠出する。 ↓

↓ 隙をつこうとし

兵を集めて

領地の守りが薄くなる。 敵地に侵入。

↓ ↓

足利は自分の領地を秩父から守るために兵を引かざるを得なくなる。

秩父と足利がぶつかるため朱若達はしばらく戦をしなくて済む。



結論を言うと源氏は関東で相手を従わせるような恐ろしさを見せつける戦をするのが重要で地方武士のように領地を増やして豊かになる目的はない。正直都での警護の給与や地方国司の仕事で豊かに食っていけるのだ。





「という訳だ!ご苦労であった!」


そんな具合に義隆は皆を納得させて退出させた。


(全く、有能な大叔父だな。性格以外は、、、)


呆れつつそこで朱若は意識を手放した。







戦が終わった矢先に、鎌倉党から景義を通じて出迎える準備が整ったと連絡が入ったので意外と住み慣れた簗田御厨を引き払う。


「ふう、こんなものか。」


「お主は何もしておらんだろう。」


(まったく暇人だな。この大叔父は。)


「大叔父は俺をおちょくらないと気が済まないの?」


義隆は朱若についてというものかなり自由に振舞っており、最初の好々爺とは打って変わって正直手に余る。


(俺をからかう程度にはな!)


「朱若様!そろそろ出立致しましょう!」


まさに緩衝材としての地位を築きつつある景義の声が聞こえる。


「わかった。義重殿、義康、今まで世話になった。」


義康はたっての願いで呼び捨てにしている。

話していてどうやら同年代のように感じるらしい。


(そりゃそうだ。前世は義康と同い年の社畜だからな。)


「朱若殿がこの簗田にもたらした変化を大事にして発展させていきたいと思います。」


引き継ぐのは新田義重だ。義康が義国が奪い取って藤姓足利氏と絶賛対立中となるきっかけとなった足利荘をそのまま引き継いだのに対し、義重は独立してこの近くの新田荘を新たに開発して勢力を拡大する開発領主であるから勢力を拡大するのに簗田御厨は絶好の拠点なのだ。


(俺が多少なりとも掻き回して足利が浮き足立っているから義重は漬け込むいい機会をグッと引き寄せたというわけだな。恩を売るには十分だ。まあ、そんなことしなくてもそもそもなんかの偶然で仲良くなってしまったから無償で助けてはくれるだろう。例のアレはまだ貰えてないが、、、)


「朱若!すぐ会えると思うが達者でなー!」


義康らしい直情的な餞別である。



「兄上方、朱若様の傍で学び主を守れるように強くなってみせます!」


この男は自ら朱若の郎党に身を投じた。


源季邦。義重や義康と歳が離れた末の弟だ。

朱若と同じく初陣だったが右翼を任せた際の武勇と軍略に対応する柔軟さは正直のところ同年代ではとてつもなく優秀である。


領地を経営するより今は戦と強さを求めた結果らしい。


(あと妙に気に入られた。なんでだ。)


どうやら朱若には人に懐かれるらしい。恐らくのところ由良によく顔と雰囲気が似ているから


(それをどこからか聴いた郎党達はしきりに頷き、そばに居合わせた由良母さんは俺に散々甘えてきた。別にモブだけどゆるキャラになるつもりは全く無い。)


ここに、最もやりづらい者が現れた。


「なあなあ、朱若はここには住まないのか?もうお別れなのか?御栗と遊べないのか?」


(やはり、御栗の説得に一番苦労しそうだ。)


「確かに住まないし、遊べないし、一旦お別れだ。」


「じゃあ、御栗が嫌いになったのか?」


涙目で上目遣いで見つめてくるのはさすがに反則である。


「あくまで一時的だ。もう二度とという訳でもない。また会える。」


「じゃあ、もう少し大きくなったら御栗と夫婦(めおと)になってくれるか?」


「あ〜、それは、、、」


(ここに来て一番タチの悪い質問がきた。拒絶しても御栗に号泣させて鬼畜とか思われるし、了承しても色々なことに巻き込まれたり、史実が少しややこしくなる。源氏の最悪の史実を変えるにしてもその他のことはなるべくややこしくしたくない。)


「お前にはもっといい男に出会えるはずだ。だから俺のことは忘れてとっとと幸せになれ!このおてんば娘!」


それ以外に言葉が見つからない。この拒絶は彼なりの優しさであり、心情を傷つけた贖罪でもあった。


その後は軽く会釈をして踵を返して振り向くことなく馬を進めた。


後ろから義康の豪快な声が聞こえる。義重も笑顔で見届けてくれているだろう。


(義国は論外だ。そんなことすると逆に気持ち悪いし、、、)


あと僅かに願うだけだ。

一人の史実では名も無き少女の幸せを願って。


短い期間だったが御栗に遊びに付き合わされたり色々な思い出が蘇る。


(お前は俺とは違って幸せになれる。だから絶対に掴み取ってくれ、、、)



去りゆく朱若を見つめたまま乙女の涙は止まらない。


「うわあああああん!!!!朱若あぁぁぁ〜!!!」



想い破れた少女。彼女の想いが果たされるのを運命は許すのだろうか。源氏に未来は、、、、、、



































ーーーーーーーー


どうも、綴です。


お陰様で拙作は1000PVを突破致しました!

これも閲覧して下さった読者様々です。


これからも毎日更新致しますので今後とも拙作をよろしくお願いたします。


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