第2話 モブ過ぎた四人目
皆さんこんにちは!
もはや誰に向かって挨拶をしているのか分からないほど、溜め息が止まらない朱若です。
生まれて、その後の名前騒動から数ヶ月くらい経ち、目も今ではハッキリと光を捉えている。
しばらく経ってきたことによりわかったことも、かなり増えてきた。
(ここらで、一つ整理して今後どうするか決めるか。)
どうやら、自分が転生したのは間違いないらしい。
人名以外の記憶があることが何よりの証拠だ。
そして、俺はやはり鎌倉幕府として有名な清和源氏、いわゆる源氏の男の子として生まれたらしい。
父は清和源氏の初代から数えて八代目にあたる
源義朝(みなもと の よしとも)だ。
清和源氏とはいえ、大き過ぎる武士団であるため、日本各地に散らばっており、うちは大阪府の一部にあたる河内国(かわちのくに)を拠点に勢力を伸ばしたから、うちの家は河内源氏って後世に呼ばれる。
その棟梁、すなわち主が義朝ってわけだ。
母は由良御前(ゆら ごぜん)といって愛知県の、、、おっと、今は尾張国(おわりのくに)っていう場所の熱田神宮の大宮司の娘とのこと。
熱田神宮といえば天皇が天皇の証として手元に所有する三種の神器のひとつの草薙剣(くさなぎのつるぎ)、またの名を天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)という宝剣の保管を現在になっている神社だ。
聞くところによると義朝は奥さんが複数いるらしく、由良奥さん、、違った、、、由良母さんはその妻の中で最も偉い正室のようだ。
この平安時代末期に置いて正室の子が優先して家の跡継ぎになるらしい。
だから、俺は四男だが、家督継承権は二位におさまっている。
と、そんなことを考えていると、由良が子供たちを連れて俺の寝かされている近くまで来て周りに座った。
どうやら、考える時間はここまでのようだな。
しばらく、赤ちゃんとしての責務を果たさねばならない。
「ほらぁ、あなた達の弟よ〜」
俺の周りには三人の男子がいた。
一番年上の気性が荒そうな男の子が歯を見せて笑っている。
「よろしくな!朱若!大きくなったら兄上が強い武士に鍛えてやるからなぁ!」
面倒見が良さそうなのはこれが初めてではないからだろうか。
名は源太(げんた)といい、義朝の長男である。
どうやら、源氏の長男は源太って名乗るのが普通らしいから、源氏の昔の人々を辿るとだいたい長男の幼い子どもの時の名前は源太らしい。
彼は後に武勇で名が轟く源義平(みなもとのよしひら)こと鎌倉悪源太義平となる。
ちなみに何故詳しいかと言うと、前世の俺は高校まで日本史をしっかり勉強し、その上友人に誘われて源氏に関することの自由研究をしたため、日本史全体はともかく平安時代の武士、主に源氏に関してかなり博識な方だと思う。
そんなことがあれよあれよという間に頭を駆け巡るうちに、その弟、つまり二番目の兄が穏やかな口調で話しかける。
「朱若、松田次郎(まつだじろう)だよ。」
松田が苗字で次郎が名前ではない。
松田次郎で幼名だ。
次郎は次男だからだろうが、松田はおそらく母親の実家だったり、生まれた場所だったり、何かしら縁のある地名が着くこと後あるからその類だろう。
こちらは笛の名手に成長する源朝長(みなもとのともなが)になる。
長兄義平と次兄朝長は母親の身分が低いため、由良母さんの子供である頼朝と俺より家督継承権は低い。
また、早くに二人とも母を亡くしているのでこのように由良母さんがまとめて面倒を見ているようだ。
意外と珍しい状況なのは間違いない。
あまり、血の繋がらない子どもを可愛がる母親は少ないが、由良母さんは平等に愛情を注いでいるようだ。
「やはり、鬼武者の時もだったけど可愛いなぁ。」
次郎の兄が顔を向けた先にはまだ物心もつかないぐらいの幼児。
(ん?オニムシャ?)
由良が笑顔で語りかける。
「早いわね〜。鬼武者ももう二歳なのよね〜」
(鬼武者って、そうだった!頼朝の幼名!鬼武者って頼朝も大概やばい幼名つけられてんな。)
頼朝はこちらに顔を向けて笑顔で手を挙げる。
「だぁ〜!あかぁ、あかぁ!」
(さすがに二歳だと呂律は回らないよな。
まてよ、二歳ってことは・・・、頼朝より二つ年下だよな?平治の乱は1159年で頼朝は十三歳で初陣を迎えたって話だったから、当時数え年なのも踏まえて計算すると頼朝の生年は・・・、1147年!そっから二年後の今俺が生まれたわけだから今は1149年か!でけぇ!西暦わかるのでかいぞ!っていや待てよッ!だとすると俺って・・・平安時代に転生してるううぅぅうううッ!?)
テンプレの戦国でもなければってなかなか斜め上の転生先である。
(最も・・・未だに俺がこの目の前の赤子が兄にして源頼朝って無理矢理受け止めれてるのが少し驚きではあるのだが・・・。)
まあ、鬼武者こと後の源頼朝(みなもとのよりとも)は、言うまでもなく武士最初の政権である鎌倉幕府を打ち立てた初代将軍だ。
今は純粋無垢な幼児だが。
そして最後にこの俺!朱若だか、、、
多分「義門(よしかど)」って名前になるはずだ。
家系図に名前がのればいいぐらいのモブ。
生まれた年も死んだ歳も記録がない。
ていうかマジで誰!?
(でも、生まれた年は今年だから結構大発見じゃね!?)
(こんなに有名な兄弟に囲まれてなんで俺だけ、存在感ないの?)
略伝では早世、要は早死したとされている。
学者の中でも俺が平治の乱にて討たれたと推測する人もいるようだ。
(ていうか結局死ぬんかい。)
「・・・。」
(平治の乱、、、。ッ!?待てこれから十年ぐらいでくる最悪の展開じゃないか!)
平治の乱。
先程朱若も自身の生年を割り出すために使った有名な乱。しがない学生なら高校になるまでには一度は教科書で目にするはずだ。
今の政治は天皇ではなく、その父親か祖父の上皇が執り行う院政が敷かれている。
その内部による上皇の家来にあたる院近臣(いんのきんしん)の対立が源氏と平氏の武士団の主導権争いも取り込み大戦に発展した。
その戦いに源氏は敗れる、、、。
源氏の武将、俺の今の家族が辿る結末は悲惨極まりない。
父の義朝は京都から関東に逃げる途中に家臣に裏切られて命を落とし、長兄の義平は潜伏先で捕らえられ斬首、次兄の朝長は逃げる途中に傷を負いそれが原因で亡くなる。
頼朝だけが敵の平氏の大将である平清盛(たいらのきよもり)の母に助命を願われ伊豆国、今の神奈川県あたりに流罪になった。
そして俺は、、、
勝手に討ち取られて死ぬかもしれない。
誰にも、知られることも無く。
(別に知られなくてもいいけど、早死だけはごめんだな。それに、、、)
源氏は肉親による骨肉の争いが絶えない。
平治の乱より後に頼朝による兄弟粛清が始まり、さらに悲惨な結果になってしまう。
これから生まれてくるであろう自分の仮にもこの世では弟達が無惨な死に方をされるのはあまりにも忍びない。
それは前世で鎌倉時代を学んだ時から心苦しかった。
ここに、朱若はあることに気づく。
(でも俺は史実での証言が比較的少ないから裏からならかなり自由に動くことが出来るかもしれない!
そうすれば、、、家族を救うことも不可能ではないじゃないか!?)
この時既に彼の中で史実であるから諦めるという選択肢は無かった。
(どの道死ぬんだったら、みんな笑顔で平和な世を作って長生きできるように抗うまでだ。こんな腐りきった史実、、、全部ぶっ壊してやるッ!)
ここに、転生者にして、モブにして、けど源氏という名門一族に生まれた朱若は強く暗い未来への挑戦を誓った。
(でも、もう少しぐらい俺の事書いてて欲しかったな、、、)
人間、そう簡単には切り替えられない、、、
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