オオカミ少年は無双する――但しダンジョンに限る

すみ 小桜

第1話 だから言ったのに

 「あの、マイケルさん!」


 僕は、喜び急ぐ彼を呼び止めた。


 「何だよ。荷物持ち」


 僕はミュディンという名前がある。そう呼んでって言ったのに。いや今はそれにこだわっている場合じゃない。


 「ここモンスターとかもいないし変だよね。それに触ったら何か出て来るんじゃない? 仕掛けがあるかもよ」


 マイケルさんは、髪と同じ赤い瞳を細め僕をジトーっと見た。


 「じゃ何か、お宝を前にこのまま帰ろと?」

 「そうよ。私達が見つけられたなんて奇跡なのよ!」


 魔法使いのミーチさんが、紺色の長い髪をクルクルとしながらそう言ってマイケルさんの肩を持つ。

 僕達は、即席の今回限りのレベリングの為のパーティー。その為にダンジョンに来たんだけど、見つけちゃったんだよね。宝箱を。

 もちろん僕も何が入っているか気になる。けど僕達は、Fランク冒険者なんだけど。ボス級の何かが出ても僕達じゃ倒せない。


 「出たら全力で逃げればいい」

 「そうよね」


 全力でって、僕、マイケルさんの荷物を持たされているんだけど。

 マイケルさんは、僕の静止を聞かず小さな宝箱を手に取った。

 壁にはめ込まれているように置かれていた小さな宝箱は、黄金に光り輝いている。それを手にしたマイケルさんが宝箱を開けようとしたその時、地震かと思う揺れが起きた。


 「な、なんだ」

 「きゃー! あ、あれ!」


 マイケルさんに近づき宝箱を覗いていていたミーチさんが、宝箱が納まっていた壁を指さす。壁だったそれは、人の形をとり動き出した。


 「ゴーレム……」


 マイケルさんは、唖然としながら呟く。

 大きさは、僕らの倍以上。ズシンと一歩が重い。


 「うわぁ」


 マイケルさんが、通路へと走り出す。それをゴーレムが追って行き、手を振り上げた!

 ズシン!!

 土煙が舞い上がり、マイケルさんの影がゆらりと動く。生きている。僕は安堵するも一人で逃げるわけにもいかず、元から通路に続く扉の前に居た僕は叫ぶ。


 「早くこっちに!」

 「そんな事はわかっているけど、こいつ大きい割に動きが早い」

 「私、先に行くから!」


 ミーチさんが、僕の前を横切り通路へと走って行った。


 「ちょ、おい! 置いて行くなよ。ぎゃー!」


 通路に向かいたくてもマイケルさんの逃げる邪魔をするゴーレムによって、なかなかこっちへと来られないでいる。どうしたらいいんだ。


 「なんで俺ばっかり。荷物持ちだっているだろう」


 僕を狙えっていっている。気持ちはわからなくもないが、狙われたらマイケルさんの荷物を持っている僕じゃ攻撃を避けられない。でももしかして、マイケルさんばかり狙うのって。


 「マイケルさん。宝箱を持っているから狙われているんじゃない?」

 「おぉ、そうか! だったらお前が持って通路の奥へ行け!」

 「え!?」


 返事をする前に宝箱を投げてよこして来た。って、逃げながら投げるから僕の顔面にクリティカルヒット! そのまま僕はひっくり返った。

 僕が言いたかったのは、宝箱を置いて逃げようと言う意味だったんだけど。


 「いたたた……」


 僕は、宝箱を手に上半身を起こすと、僕の周りに影が落ちる。

 ズシン。


 「うわぁ」


 転がりながらなんとか攻撃を避けた。

 マイケルさんが、その僕を横切り通路へ。僕もそれに続こうと立ち上がろうとした。

 ガガガガ……。


 「え?」


 部屋の扉が閉まっていく。マイケルさんの荷物を捨て隙間に飛び込めば間に合うかもしれない。でも動いたのは、体ではなく口だった。


 「な、なんで!」

 「閉めないと、向こう側の扉開かないだろうが。今ここを攻撃されてスイッチ壊されたここから逃げられない。許せ」


 確かにそうかもしれないけど。こうなったのは、マイケルさんのせいじゃないか。

 また僕に影が落ちた。


 「うわぁ」


 次はかわせないだろう。恐怖で足がガクガクだし、もう逃げ道はないのだから。

 どうする事もできず僕は、ギュッと目をつぶった。ゴーレムが腕を振り下ろす気配を感じる。それが、僕の最後の意識だった――。

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