泡沫の人魚姫
藍色
第1話 青
青
夏だというのに珍しく冷え込んだ夜、肌をなでる空気は軽く、心地よさすら感じていた。
時刻は零時を回る閑散とした空気の中、青い宝石のような瞳を持つ少女が一人、浜辺にたたずんでいる。
月に照らされて輝く銀髪は、まるで童話から抜け出してきたかのような彼女によく似合っていた。
シンプルな白いワンピースを風に靡かせて微笑む少女は、まさに海の波そのものであるかのように儚く、綺麗で。
言葉に詰まった俺をよそに、彼女は
「おはよう」
と朝の挨拶をした。
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泡沫の人魚姫 第1話 青
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人間はひとの外側で価値を判断をする生き物だ。
自分より下の者がいれば「可哀そう」と偽善の目を向け、心では蔑む。反対に上の者がいたのなら「素晴らしい」と褒めたたえ、心では妬む。
じゃあ俺は世間一般的に見て、どの立場にいるのか?
そんなこと日ごろの俺を見ていればすぐに分かる。一言でいえば、まあ
空気だ。
別に卑屈になっているわけではない。勘違いしないでほしいが、いじめられているわけでもないし、友人だってちゃんといる。じゃあどういう事だって?つまり俺が言いたいのは……
「お!
校舎の外がよく見える窓側の席に座る俺に、朝から声のでかいクラスメイトが話しかけてきた。
「あーお前かよ、はよ……」
「なんだか眠そうな顔してんな、課題でもやってたのか?」
「あー、そんなとこ。今日提出だったろ?」
「まっじかよ!! やべぇ忘れてた!! ちょっとあっちで浜っちに教えてもらってくるわ!」
「おー、がんばれー」
俺がけだるげに激励を送ると同時に、あいつは席を後にした。
今の男子生徒とは世間話をする程度のクラスメイトで、特段仲がいいわけでもない。それに、名字が何だったかすら思い出せない程度の仲だ。確かよくある名前だった、田中……いや佐藤か?
と、まあこんな感じだ。
空気っていうのは意味通り、そこにただ存在するだけの人間。誰かの人生の中で別段特別な影響を与えるようなことのない、クラスメイトA。
そんな立ち位置だ。
彼以外の他のクラスメイトともせいぜい話をする程度で、遊びに行くようなことはない。
可哀そうと言われればそれまでだが、俺はその現状に満足している。特段見下されるわけでもなく、敬われ、期待されるわけでもなく、平凡。それでいい。
こんな話を変に熱い体育教師あたりにしようものなら、
「その年で人生を分かった気になるんじゃない!!」
とか
「もっと若者らしく楽しめ!!」
とか言われるんだろうか。
知るか馬鹿。
まあ確かに俺は世間からすれば、物事を斜めから見る、ひねくれた若者とカテゴライズされるのかもしれない。
だが、何事にも理由はあるものだ。もちろん、俺がこうなったわけも。
高校入学と同時にそんな考えに至ってしまった、哀れな俺の話でもしようじゃないか。
*
俺には父がいる。
まあ、当たり前だな。人間オスメス両方いないと生まれてくるわけないし。
父は根っからの仕事人間で、医者という職業に誇りを持っていた。流石お医者様とでもいったところか、父親の出身大学は誰もが知るような名門国立大学で、幼いころからずっと勉強一筋であったらしい。
そんな父親の子供に生まれてしまった俺には、もちろんとんでもない重圧がかかるわけで、小学校低学年の頃から塾やら家庭教師やらに勉強を教えられていた。
別に、初めは苦じゃなかった。
いくらいい点を取ろうと褒めてくれるような父親はいなかったが、代わりに優しい母がいた。
俺のテストのはなまるを、自分のことのように喜んでくれる母がいた。
それに、母が父を愛していたおかげか、自分自身も父のことは嫌いではなかった。父は仕事一筋で滅多に夕食を共にする時間も無く、いつも母と二人で過ごしていたが、母の父を称える言葉を真に受けた幼く無知な俺はそんな父に憧れていたし、たまに会えるその時間を心底楽しみにしていた。だからこそ父にとっての良い息子でいようと心がけていて、小学校のテストもいつもはなまる満点だった。
その成績を保つのためには、家でも毎日机に向かって教科書と格闘していたし、授業中に友達とおしゃべりだなんてしたこともなかった。だからといってガリ勉だなんて虐められたわけでもない。人並みに友達もいたし、むしろクラスの中では中心的な部類だったと思う。
そんな生活の中で、周りへの違和感を覚えたのは一体いつ頃からだろうか?
そうだ、そうだ。
確か小学4年生の頃の話になるが、俺のクラスが全国統一の学力テストの対象となったときの話だ。
もちろん必死に勉強したさ。だっていつもとは違う形式にレベルの高い問題。気合の入り具合も違う。
でもその一方で、いつも通りやっていればまた一番になれると信じて疑わなかったんだ。
そんなこんなでテストが終わり、冬のある日、遂に返却日がやってきた。
くどいかもしれないが、俺のテストはいつも満点で、いわゆる優等生として周りからも認識されていた。小学生なんて自分達に対する自信が異様に高い時期だから
「このクラス、もしかしたら全国で1位になっちゃうかも!」
なんていってた女子とかもいたかな。俺と仲よかった奴はなんの疑いもなく、
「まあ、凛久は全国1位で間違い無いな!!」
と言いながら嬉しそうに俺の肩を組んできた。俺も満更ではなさそうに
「まさか、そんなわけないじゃん」
と言いつつ、鼻の下を指で擦った。
しかし、残念ながらそこまで人生がイージーモードではなかった俺の順位は800位をギリギリ上回る程度。
母数も少なかったけど、結構良い方ではあったと思う。点数は平均を大幅に上回っていたし、クラスでも1番だった。想像していたものとは異なる結果に打ちのめされた俺であったが、先生や友人たちに凄いことだと褒められたせいか、すぐに立ち直った。単純だな。寧ろ、この順位に誇りを持つまでに浮足立って帰宅した俺は、母の満面の笑みを想像して元気よく玄関を開けた。
「ただいま!」
靴も揃えずに駆け足でリビングに入ってきた俺に、母は不思議そうな顔でどうしたのと尋ねてきた。
「あのね! 今日は模試の結果が返ってきたんだ!」
俺は母親の前に座り込むと、ひっくり返すようにランドセルを床に投げ、手探りで模試の結果を探した。中々目当てのものが見つからないまま奮闘を続ける俺に、母はいたずらっ子のように声をかけた。
「そういえば、今日ねーお父さんもう帰ってきてるんだよ」
目をまん丸にして驚く俺を見た母はおなかを抱えてケタケタと笑っている。
「今は書斎にいるはずよ」
母は茫然とした俺からランドセルを掠め取ると、秒で模試の結果を見つけた。ちらりとそれを眺めた母は、満面の笑みで俺の頭をくしゃりと一撫ですると、小さな手の平にその紙を授け、行っておいでと呪文を唱えた。
*
トントン
「あの…お、お父さん! 入っても良いですか?」
「…ああ」
緊張を伴った声で返事を待つこと数秒。低く、感情の読み取れない声が扉の向こうから聞こえた。
これから起こることへの期待を胸に、少し震える指でゆっくりとドアを開けた。
「どうした……凛久、用件はなんだ?」
書斎のドアを開けると、眉間にしわを寄せた父が俺を上から見下ろしていた。少しだけその威圧感に怖気づいた小さな俺は、おずおずと模試の結果を差し出した。
「……こないだ、学校で模試があったんです。良い結果をとれたので、報告がしたくて」
父は黙ってその紙を受け取ると、無表情のまま紙面を見つめた。褒めてもらえるかもという期待を胸に恐る恐る父を見上げたが、そんな期待とは裏腹に
「ああ、そんなものか」
と眉一つ動かすことなく一蹴された。
次に気がついたときには、母の横でこたつの木目を眺めていた。母は何も言わずに綺麗にみかんを剥き、座り込む俺の口に放りこんだ。
「どう? 甘いでしょ」
優しく背をさすり続ける母に、何も言うことができなかった。
*
時が経つにつれて、父親への憧れや期待の思いが薄れていった。それと同時に、俺の成績に対する周りの反応も
"凛久だから当たり前"
という風になっていた。
その頃には学年も中学生へと上がり、部活にも入った。
俺が選んだ部活は水泳部であったが、特段強くも弱くもなかった。選んだ理由も別に水泳を習っていたからとかそんなんじゃなくて、ただ海が好きだからという適当な結び付けからだった。
しかし中途半端が嫌いな性格のせいか、部活へと打ち込んでいるうちに地区大会、県大会、更には地方大会までへと駒を進めてしまっていた。大会でしっかりと自分の実力を出し切った俺は全国大会にこそ進めなかったものの、入賞し、夏休みの登校日には全校集会で表彰された。賞状を持ってクラスに帰れば、友人達が俺の功績を口々に褒め称えた。急な称賛に気恥ずかしさを覚えた俺は、にじみ出る嬉しさを隠すように口元を抑えた。
「さすが凛久!」
「ほんとお前は俺らのエースだよ!結局地方まで行ったのお前だけだし」
「ね! 私も応援行きたかった、残念」
「俺も凛久に生まれてたら人生楽だっただろうな……」
「お前には一生無理だ馬鹿、凛久は俺らと違って天才だからな」
「それな! 俺も楽して努力せず人生楽しみてぇ!!」
"努力せず"か
その言葉が酷く胸につっかえた。
そう言った友人に悪気はなく、屈託のない笑みで俺の返事を待っているのが分かる。
「馬鹿野郎、俺だって努力ぐらいするわ」
笑って言葉を返したが、本心はどこか遠くにあった。
*
その日は少しばかり重い足取りで家に帰り、リビングの電気をつけた。
空いた腹を満たすために冷蔵庫を開けると、しまってあった茄子ときゅうりが目に入る。視線を横に移すと、家政婦さんのメモと恐らく夕飯であろう肉じゃがが目に入ってきた。それをレンジで1分間加熱し、炊いてあったご飯をよそってテーブルにつく。
気を紛らわすためのテレビをつけ、一人で黙々と食べ進める。今日は大御所の有名人が亡くなったらしい。あまり知らない人だった。
自分の知りもしない他人が亡くなろうと、なんとも思えなかった。
食事も終わり、使った食器を片付けているとピーと玄関の鍵を開ける音が聞こえてきた。しばらくすると玄関の電気がつき、大人のずっしりとした足音が聞こえた。その足音はリビングを遠ざかり、書斎へと向かう。
父さんが帰ってきたんだな。
父の帰宅に気づいた俺は何を思ったのか、珍しく書斎のドアを叩いていた。
トントン
「父さん? 凛久です」
「ああ」
短い返事を了承と受け取った俺は、静かに戸を開いた。
「…用件は?」
父は仕事用のデスクに座り、パソコンの画面を眺めたままでいた。俺はその邪魔をしないように、少し離れて表彰状を見せた。
「あの、先日の水泳の地方大会で賞状を頂きました。それで……」
バシッ
奪い去るように受け取った父親は、賞状を一瞥した後、大きくため息をついた。
「全く……」
「あの、父さん……?」
一言つぶやいてから返事の一切ない父親の機嫌を伺うように、恐る恐る声をかける。父はゆっくりと顔を上げると、相変わらず不愛想な表情でこちらを見つめてきた。
「お前……そういえば水泳をやっていたんだったな」
「はい……」
「息抜き程度なら問題ないが……そんなくだらないことに時間を割いて、成績は大丈夫なんだろうな?」
くだらないこと。
俺が3年間続けた部活動をそんなこと呼ばわりだ。確かに、はじめは適当に選んだ部活だった。それでも今は泳ぐことが大好きだ。
あの時は俺の今までの頑張りが、生き方が、父に否定されたような気がした。
父親を見上げる顔が歪みつつも、無理やり愛想笑いを作り出す。
怒ってやりたかった、くだらなくなんてないのに。
「はい、問題ありません」
だけど、どうすることもできなかった。
春先のプールよりも冷たい父の視線に、俺はそう答えることしかできなかった。
ああ、こんなことならば調子に乗って賞状を見せなければよかった。少しだけでもいいからと、期待した自分が馬鹿だった。
誰もいないリビングで蹲る中、薄っすらとお線香の煙臭い匂いだけが香る。自分を慰めてくれていた唯一の存在を思い出し、そのまま目をつむった。
そしてこの日、父の存在を諦めた。
*
中学生としての3年間が終わるころには、周りの悪意もある程度見えてくるようになった。大多数の生徒からすれば、初めての受験の季節がやってくる。急に焦り始めて必死に勉強をしだす奴もいれば、最後まで遊び惚けていた奴もいた。
だが、ほとんどの生徒は日に日に増えていく不安と勉強量に押しつぶされていった。
俺の周りもそうだった。
模試の結果が振るわなかったであろう友人たちは、いつからか俺を避けるようになっていた。同じ塾に通っていようと遠くの席に座る。
今だってそうだ。
授業の休憩の度におしゃべりに花を咲かせる友人たちは、俺への嫌味で忙しそうだった。
「あーあ……今回の模試も栄がトップらしいぜ、いくらがんばっても勝てないなんてやる気でねーわ」
「うっわ、しかも満点かよ。あいつ水泳でも関東行ったんだろ……ほんっといいよなぁ! 天才サマは」
「えー凛久くんすごいハイスペック!ちょっといいかも……」
「馬鹿やめとけ、どうせ俺らのことなんて心で見下してんだからよ」
「確かに、言えてるわそれ!」
聞こえてるんだっての。
一応影でコソコソ言ってるつもりらしいけど、俺の耳にはよく入ってくる。そう言ってる奴らほど突然何事もなかったかのように、親しげに声をかけてくることもある。テスト前とか特にそうだ。
本当に気持ち悪かった。
*
そんなこんなで親のみならず友人との付き合いも面倒くさく思った俺は、知り合いのだれもいない高校へと進み、帰宅部を選択した。水泳にはほんの少しだけ未練もあったが、厄介な父親に口を挟まれるよりはマシな選択をしたと思っている。
そして幸運なことに、この学校には成績を貼り出すような文化もなかった。そのため、いくら良い成績を収めようとも頭がいい、天才などといったレッテルを張られることもなかった。ああ、もちろん入学式の新入生代表の挨拶は断った。あまり目立つようなことも引き受けたくなかった。
そうして俺は今、クラスの誰とも当たり障りのない平穏な高校生活を送っているのだ。
*
キーンコーンカーンコーン
終業を告げるチャイムが鳴る。
俺は誰にも声をかけることなく、クラスを後に真っすぐ帰路へとついた。
ピー
「ただいま」
「あら、凛久さんお帰りなさい。今晩はカレーですが、今食べられますか?」
そう声をかけてきたのは家政婦の山川さんだった。
母親が亡くなってから約5年間ずっとうちで働いてくれている。流石に毎日というわけではないのだが、週に4日家事を頼んでいる。
「ごめん、いらない」
少しだけ彼女への申し訳なさに胸が痛んだが、今は何かを口にするような気分ではなかった。
「…そう、ですか。」
悲しそうに、けれども優しく山川さんは目を細めた。
そんな彼女に俺は、今日の模試の結果を押し付けるように受け渡し、自室へと向かっていった。その紙は彼女づてに父へと渡るはずだ。結果も申し分ないはず。なんてったって父親の出身校でA判定がでている。これで小言は回避できるなと少しばかり気が緩んだ。
階段をゆっくりと登り、扉を開いて鍵をかけた。カバンを机の横に投げ出すと、スプリングの利いたベットへとその身を沈めた。
山川さんはそれとなく、父に直接渡したほうがいいとは伝えてくるが、もううんざりしている。それに中学生最後の夏、ようやく父の考えが分かったんだ。
あいつは俺のことを単なるアクセサリーか人形か何かだと思っているに違いない。
俺はあいつの満足いくような成績を収めている。最低限の義務は果たしているんだ。それでいいじゃないか。
だから、後のことは知らない。
それから何を考えるでもなく、ベッドに寝そべって天井のシミを数え続けた。かすかに香るカレーの匂いにも、いつまで経とうと食欲を見いだせなかった。
*
あれから何時間が経ったのだろうか、思考に耽るのも流石に飽きてきた。
ふとカーテンを開いて窓の外を眺めてみる。住宅街の隙間から、全てを吸い込むように深く青い海がちらりと見えた。
俺の家は海に面したこの街の高台に建っている。そのため、窓からの景色は見晴らしが良く、綺麗な海もよく見える。
俺と母さんは、この景色が大好きだった。
爽やかに香る潮風に晴れ渡った空、その真下に広がるのは先の見えない水平線。広大で力強く、美しいこの海は、街の誇りだった。
しかし、今日の景色はどこか違うように思えた。
夜の空を飲み込んだような底の見えない深い青に、目が離せなくなったのだ。まるで吸い寄せられているか如く、どうしようもなく海の青さに恋焦がれた。
時計を見れば、午前零時を迎えようとしていた。流石に思い直すべきかと考えたが、そう思ったときにはもう、自室のドアを開けていた。一応リビングに人が居ないことを確認し、充電が残り20パーセントに満たないスマホとカードキーを握りしめ、感情のままに外へ出た。
人通りの少ない夜の道を通り抜け、交差点の信号を渡る。車通りもないこの街の道しるべとなるのは、明るく光る街灯だけだ。わずかな光に導かれながら、俺は堤防と並んでひたすらに走り続けた。
タッタッタッ
海へ。
どうして走っているのかもわからない。
本当はずっと一人になりたかったのかもしれない。
わからない。けれど、海へと焦がれる気持ちだけを頼りに足を動かし続けたんだ。
完璧を目指し、父に言われるままに努力を続けていた俺は外面をいくら取り繕っても、中身はすっからかんだった。
俺と友人たちの間には、いつも一歩引いたかのような見えない壁があった。彼らは俺の外側だけを見て、上辺だけの関係を築き、次第に妬むようになっては、結局俺の元を離れていく。当然人に対する信頼など、少しも育ちはしなかった。
だから俺は、母を亡くしてからの5年間、本当はずっと1人だったのかもしれない。
でも一つだけ、微かにほんの僅かに思い出せる記憶がある。
白いワンピースを着た少女の記憶。
母を亡くしたばかりで泣いていた俺に優しく寄り添ってくれたあの子の記憶。
けれど、その子の記憶は本当に曖昧で声も名前も、顔すらも思い出せない。まあ、思い出せようと今俺が独りなことに変わりはない。どうせ変わらないのであれば、思い出すために労力を割くのも意味がない。
そんなくだらないことを頭の片隅で考えつつ、俺は海へと走り続けた。
ザザ……ザザン……
押しては波が引いていく。
午前零時の青い海。
誰も居るはずがないと辺りを見渡したそのとき、
「青……」
そこには、海と同じ色の瞳を持つ少女がいた。
そして少女は告げる
「おはよう」
と。
彼女の瞳とかち合って溢れ出す感情は、俺の世界に色を与えていく。
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