第87話 梨花のお宅訪問
「あ、着いたよ。ここが俺の家だ」
目の前に建つ家を見ながら凛音さんが言う中、私が静かにドキドキしていると、アンジェリカは小さくため息をつく。
『梨花……初めてお家に来た事で緊張するのはわかりますが、流石に緊張しすぎではないですか?』
『だ、だって……他の人の家に来た機会なんてこの前の勇先輩のお家くらいしかないし……』
『……さらっとヘイタ様達のお家をスルーしましたわね』
『今となってはカウントしたくないからね』
『それは同感です。ですが、今回お邪魔するのは、私達の事などについてお話しするためですから、もう少し肩の力を抜いても良いと思いますよ』
『……そうだね』
アンジェリカの言葉を聞いて私は一度深呼吸をする。どうしてこんな事になっているかと言えば、まず数十分前に遡る必要がある。
二組の関係を修復した後、目的も達成した上にそろそろ良い時間だからという事で私達は解散する事にした。その際、先生達は仲直り出来た事を祝うためにこのままご飯を食べに行き、聞川先輩達は記事の事について話すためにそのまま新聞社に行くと言うので、私達も二人一組でそれぞれ帰る事にしたけれど、その時に凛音さんから少し家で話していかないかと誘われた。
それを聞いた時、私は一瞬ドキリとしたが、すぐに例の件について話す約束をしていた事を思い出し、それを了承した。因みに、同じようにアンジェリカについて軽く話していた瓦木君にも後日また話すと約束して、嬉しそうに笑い合いながら新聞社まで歩いていく聞川先輩達としっかりと手を繋ぎながら幸せそうに歩いていく鳳先生達と公園で別れた。
その後、緑彩先輩達から凛音さんの家にお邪魔するのは良いけどあまり遅くならないようにと言われて返事をした後、私達はそのままここまで歩いてきたのだった。
深呼吸をした事で気持ちが落ち着いたのを感じていると、私の様子を見た凛音さんはクスリと笑う。
「いきなり異性から家に呼ばれたわけだから緊張するよね。本当に話をしたいだけだし、家には凛斗もいるから安心してくれて大丈夫だよ」
「安心って……ああ、そういう意味ですね」
「そう。梨花さんとの関係は大切にしたいし、そうやって相手の意思を無視するような真似はしたくないからね」
「……因みに、興味自体はあるんですか?」
「ない、と言ったら嘘になるかな。だけど、そういう関係になるとしたら、もっと梨花さんと仲良くなった時、異性の友達じゃなくてしっかりと恋人になった上で俺がその後も梨花さんをそばで支えられると断言出来た時だよ。そうじゃないのにそういう事をするのは、梨花さんに対して申し訳ないし、ここまで付き合いを続けてくれている事への裏切りになるから」
「凛音さん……」
「さあ、早速上がってくれ。あまり遅くなってしまうと、梨花さんのご両親を心配させてしまうからね」
「……はい」
凛音さんの想いを聞いて嬉しさを感じながら答えた後、私達は玄関のドアを開けて家の中へと入った。すると、その近くのドアが開いて凛斗君が現れたけれど、その姿に私は思わず驚いてしまった。
「わっ……」
ついさっきまでお風呂にでも入っていたのか凛斗君はほかほかと湯気を上げながら少し濡れて艶々とした髪をタオルで拭いていたけれど、下だけジャージのズボンを履いて、上は何も着ていなかったのだ。
凛音さんに憧れて剣道を始めたと言っていた凛斗君の上半身はしっかりと引き締まっていた上に水滴が所々に付いている肌もとても綺麗であり、少し薄くではあったけど、腹筋も割れているのが見えた事から、この姿を同級生の女の子達が見たら間違いなく男の子として意識するだろうなと感じた。
そんな事を考える私の隣で凛音さんが苦笑いを浮かべていると、視線から私達に気づいた様子で凛斗君はこっちに顔を向けたけれど、私がいる事に気づいた瞬間に驚いた顔をしながら少しずつ顔を赤くし始めた。
「え……り、梨花さん……!?」
「あはは……お邪魔します」
「ただいま、凛斗。そういうラッキースケベ的なのは本来は逆じゃないのか?」
「そ、そんな事言われたってどうしようもないだろ! と言うか、どうして梨花さんがウチにいるんだよ、兄貴!」
「今日のデート中にちょっと話さないといけない事が出来たから、その続きをするために家まで来てもらったんだよ。凛斗、お前にも関係する事だから、着替えたら俺の部屋まで来てくれ」
「え、俺も?」
「そうだね。信じてもらえるかはわからないけど、凛斗君にも説明しておきたい事だから」
「説明……わかりました。それなら俺も後で兄貴の部屋まで行きますね」
そう言って凛斗君が急ぎ足で歩いていった後、凛音さんはクスリと笑ってから私に話しかけてきた。
「いきなりごめんね、梨花さん。凛斗は風呂上がりやジョギングの後にシャワーを浴びた後はしばらくあの格好でのんびりするのが好きなんだ」
「そうなんですね。でも、凛斗君もしっかりと体を鍛えてるみたいですし、やっぱり同級生の子達からの人気は高そうです」
「実際、凛斗を好きだという子が多いらしいよ。同じ剣道部の女子や同学年の子だけじゃなく、他学年でも凛斗が好きな子はいるようだけど、本人が今は恋愛に興味はないようだからね」
「凛斗君からすれば凛音さんの事でいつも頭がいっぱいですからね。私は一人っ子なのであんな風に弟妹がいるのはなんだか羨ましいです」
「一人っ子だと兄弟姉妹がいないからこその良さもあるだろうけど、いてくれたら色々な事を共有出来るからね。さてと、それじゃあ俺の部屋まで行こうか」
「はい」
返事をした後、私達は二階へと上がり、凛音さんの部屋に入った。凛音さんの部屋は明るい色調の家具で統一されていて、ベッドのシーツやカーテンのような布製品達はシワ一つなくピシッとしていて、棚にはちょっとしたインテリアなどが置かれているのが凛音さんの真面目な性格やセンスの良さを表していた。
「わぁ……なんだか大人っぽい感じの部屋ですね」
「ありがとう。小さい頃からこんな感じだからか俺はあまり違和感がないけど、その頃に遊びに来た友達からは子供らしくない感じの部屋だと言われていたよ」
「そうなんですね」
「さてと、それじゃあ凛斗が来てから話すとしようか。はい、座るためのクッション」
「ありがとうございます」
凛音さんからクッションを受け取って座っていると、部屋のドアがノックされ、凛音さんがドアを開けた先には氷入りの飲み物が注がれたコップを三つ載せた載せたおぼんを持った凛斗君がいた。
「凛斗、すまないな」
「これくらい良いって。梨花さん、お茶で良かったですか?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
「よし……それじゃあ凛斗も来た事だし、そろそろ話をしようか」
そして凛斗君もクッションに座った後、私はさっきは話せていなかった事も含めて再びアンジェリカと私の関係について話を始めた。
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