第14話 生徒会長と悪役令嬢見習い

「やっぱり、須藤さんが……」

「事の発端は岸野君が須藤さんに出会って校内の案内を務めた事よ。岸野君が言うには、偶然出会った須藤さんから転校してきたばかりで校内の教室の場所などがわからないから、案内してほしいと頼まれたみたいで、岸野君も初めはクラスメート達に頼まなかったのか疑問に感じたようだったわ。

けど、同じ二年生に頼むよりももっと校内の事を知ってる三年生に頼んだ方が良いと思ったからだと須藤さんは言ったらしく、生徒会の副会長としてそれを断れなかった岸野君は案内を引き受けた。

後日、須藤さんはその時のお礼だと言って岸野君にお菓子を渡しに来て、その後も度々岸野君に相談事などをしに来た結果、岸野君も徐々に須藤さんに好意を抱くようになって、今では須藤さんの事がすっかり気になってるのよ」

「そうだったんですね……」

「幸い、岸野君が元から慎重な性格なのもあって、二人はまだ校内でしか会ってないようだし、恋人になろうとか男女の関係になろうとかは考えてないようだった。

けど、もっと須藤さんに心を奪われたら、その可能性もあるし、最悪欲求が高まって校内で性的な行為に及んで、それを他の生徒に見られでもしたら岸野君自身の心証は確実に悪くなって、副会長を辞任するだけじゃなく、学校生活自体にも影響が出る。

だから、私としては他の男子とも深い関わりがあるという噂がある須藤さんとはあまり関わらないでほしいの。岸野君がそういう行為に及ばなかったとしても、一緒にいるところを須藤さんに好意を抱く他の男子生徒に見られた時に嫉妬心から根も葉もない噂を流されたら、岸野君のこれからに関わってきてしまうから」

「……有栖川先輩は岸野先輩が好きだから離れてほしいというよりは、岸野先輩の学校生活のために離れてほしいんですね」

「まあ、彼が他の女子生徒に好意を抱いているのはいい気分はしないけど、私としてはこれまで支えてくれた感謝の方が強いの。だから、残った半年も彼には思い出に残るような学校生活を送ってほしい。彼も生徒会のメンバーであるけど、みんなと同じ一生徒だから。生徒会長としては彼にも楽しい学校生活を送ってほしいのよ」


 その有栖川先輩の顔は全校集会などで見る生徒会長としての顔であり、異性としても生徒会長としても心から岸野先輩の事を想っているのがはっきりと伝わってきたし、そこまで想ってもらえる岸野先輩がなんだか羨ましかった。

そんな事を考えていた時、話を静かに聞いていたアンジェリカの声が聞こえてきた。


『ふむ……この方、なんだかアリス様に似てらっしゃいますわね。考え方も役職も』

『アリスって……ああ、『花刻』に出てくる女性キャラクターだよね。アンジェリカやクリストファー達が学生だった頃に生徒会長をしていて、他の生徒からアンジェリカがあまりよく思われない中でもアンジェリカとは交流が度々あった……』

『その通りです。アリス・グリーンウッド様は勉学にも熱心に励まれ、生徒達の事もしっかりと考えて行動が出来る素晴らしい方でした。因みに、後に騎士団長となったネイト・ブレイズ様の婚約者でもありましたよ』

『ネイト・ブレイズ……『花刻』の攻略対象の一人だね』


 ネイト・ブレイズはパルナ皇国の騎士団長である父親とバルベ皇国出身の平民の母親の間に生まれた一人息子で、わりと難易度が高いルートとして有名だ。

ネイト自身があまり恋愛には興味がなく、生徒会役員としての仕事や将来の夢である騎士団長になるために朝昼晩の三度剣の素振りやランニングなどに精を出してばかりでプレゼントをあげても中々良い反応ももらいづらい。

しかしある時、ヒロインのドローレスが校外でモンスターに襲われそうになった時に偶然通りかかったネイトが助けてくれた事で二人の距離は急に縮まる。

そのイベント後はプレゼントによる好感度の上がり具合も良くなり、ネイトから剣術を教わるイベントやネイト推しが歓喜したという汗だくになっているとても引き締まった上半身が露出したネイトのスチルが見られるイベントも発生するし、エンディングまでにネイトの好感度を最大にしておく事で学園のネイトの部屋に呼ばれて告白されながらも少しぼかされた状態で身体を重ねるエッチなイベントもある。

尚、そのルートのエンディングは三種類で、騎士団長となったネイトと結婚して幸せな日々を過ごすハッピーエンドと騎士団長にはなれなかったもののネイトとは結婚して慎ましやかな日々を過ごすノーマルエンド、そしてネイトから拒絶されてその後の学校生活もうまく行かずに終わってしまうバッドエンドがある。

ネイトとの距離が縮まるイベントを見るためにはネイトとの交流を積極的に行う必要があり、その反応の薄さにも耐えないといけないという中々難しいルートだ。因みに、ネイトのルートの難易度は上から数えた方が早いけど、クリストファーとその弟とのクリスティアンのルートはもっとも難易度が低いため、逆にバッドエンドを見る方が難しいと言われている。

そう考えると、たしかに有栖川先輩はどことなく名前もアリスっぽいし、岸野先輩もネイトに似ている気がする。ただ、それはあくまでも偶然に過ぎないと思う。それだったら、私はアンジェリカに似ている事になるけど、私とアンジェリカは気はあっても性格などが違う。ゲームと現実は違うんだ。

そんな事を考えながら頷いていたが、落ち込んでいる有栖川先輩の姿はとても見ていられない物だったため、何か出来ないかと考えた。その結果、思い付いたものは決して解決策とは言えなかったけど、今思い付く事はそれだけだったため、それを実行するために私は有栖川先輩に話しかけた。


「有栖川先輩」

「……何かしら?」

「有栖川先輩がよかったらなんですが、私と連絡先を交換してくれませんか?」

「貴女と……?」

「はい。こうして出会ってお話を聞いたわけですし、私も有栖川先輩の力になりたいんです。まあ、すぐに解決策を出せるわけじゃなく、またお話を聞く程度になりますけど、それでもよかったら私に色々話してください」

「安寿さん……そうね、内容が内容だけに中々他人には話せないし、ここまで聞いてくれた貴女なら頼っても良いかもしれない。交換しましょ、連絡先」

「はい!」


 少し安心したように微笑む有栖川先輩と私は連絡先を交換した。これまで家族や平太達、凛音さんたちとしか連絡先を交換してなかったため、同性の人と連絡先を交換するのは初めてであり、それがなんだか嬉しかった。

電話帳に並ぶ有栖川先輩の名前を見ながらクスリと笑っていた時、有栖川先輩は何かを思い付いたように両手をポンと打ち鳴らした。


「そうだわ……ねえ、今日のお昼って予定はある?」

「無いですけど、どうかしたんですか?」

「よかったら今日一緒にお昼どうかなと思って。今日は生徒会の仕事もないし、もう少し安寿さんとお話ししてみたいのよ」

「有栖川先輩……はい、私も有栖川先輩ともっとお話したいです」

「決まりね。それじゃあお昼に教室まで迎えに行くわ」

「わかりました」


 嬉しそうに笑う有栖川先輩を見ながら私も嬉しさを感じながら答えた。アンジェリカに言われた目標である友達を作るまではまだ遠いけど、有栖川先輩という少しは安心して話せる知り合いは出来たみたいだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る