一番になれない僕たちは

天塚春夏

プロローグ

 また一番になれなかった。必死に勉強したのに。

「なんだ、あれだけ時間を割いて金もかけてこの程度しかできなかったのか?。翔はできるというのに兄のお前がなぜそんなに出来が悪いのかさっぱりだ。」

 俯いて、黙って父の言葉を聞く。何度も何度も受けたこの仕打ちだが、未だになれることはない。

「もういい。お前に充てていた家庭教師や時間はすべて取り下げる。学生の間の金だけ用意してやるからどこへなりとも行け。出来損ないの息子はうちにはいらん。」

「・・・。」

「ふん。だんまりか。何か言ってみればいいものを・・・。さっさと出ていけ。顔も見たくない。」

 ・・・文句を言わずに努力しろといったのは父さんだったのに。ぼんやりとそう思いながら、父の部屋を後にする。

 見捨てられた。その思いだけがずっしりと心にのしかかってくる。荷造りをしようと部屋に戻ろうとしたとき、

「兄さん。」

 振り返ると弟の翔が不安そうな顔でこちらを見つめていた。

「出ていくって本当なの?父さんなら僕が説得するから一緒にいようよ。」

 昔から妙になついていてくれた翔はそう言って俺を引き留めようとしてくれる。頭もいいし努力家だし性格もいい。本当に自慢の弟だ。翔の言葉に俺は静かに首を振った。

「いいんだ。父さんの期待に応えられなかった。・・・努力が足りなかった僕が悪かったんだ。」

「そんなことない。僕、夜中に起きた時ですら、兄さんの部屋の電気消えてるの見たことないよ。あんな時間まで勉強してたのに努力が足りないなんて、そんなのおかしいよ!!」

「もういいんだ。俺がここにいても、父さんの気分を害するだけだろうし。それに何より・・・。」

 いうのをためらった。でも、止められなかった。

「もう努力をするのは疲れたんだ。」

 そういうと翔は言葉を失い、その場で立ち尽くしていた。僕はその間に自分の部屋に閉じこもるのだった。

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