第8話
鏡は、本当に優秀だった。美しいけど、自信なさげにオドオドしていた白雪は堂々と振る舞うようになり、使用人達は白雪を褒めちぎった。
今までは社交に出さないようにしていたらしいけど、今はわたくしと一緒に積極的に社交に連れ出している。白雪は未成年だから、昼間だけだけどみんな白雪を見て驚いていた。
そうよね! うちの子、可愛いし、美しいし、優しいし、賢いのよ! しかも努力家で、とっても頑張り屋さんなの! 頑張ってる姿も可愛いのよ!
白雪の自慢をすると、いつもわたくしを遠巻きに見ていたご夫人達が近寄って来るようになった。わかるわ! 白雪は遠くで見ていても可愛らしいけど、やっぱり近くで見たいわよね!
そう言ったら何故かみんな優しく笑うの。どうしてよ! いつも怯えられてたのに!
不安になって、鏡に聞いてしまう。わたくしのせいで白雪が悪く言われたら困るもの。
「鏡よ鏡。今日のパーティーで何か失敗したかしら?」
「失敗なんてしてねぇよポンコツ王妃」
「ポンコツですって?! 失礼しちゃうわ! わたくしポンコツと呼ばれるほど酷かった?」
「いや。そんな事ねぇよ。とっつきにくかった王妃が優しくなったって評判だぜ。あんなに冷たかった王妃に溺愛されるなんて、白雪姫はさぞかし素晴らしい姫君なんだろうって噂されてる」
「そうよ! 白雪は素晴らしいの! ……ところで、どこにポンコツの要素があるのよ」
「白雪姫の自慢話が長いってさ」
「それは確かに、反省すべきね」
白雪の話をすると、つい長くなってしまうのよね。
「今くらいの方が好かれてて良いんじゃね? 王妃様の評判は鰻登りだぜ」
鏡は、わたくしから前世の記憶を聞き出しさらに成長している。鰻なんてないのに鰻登りとか言っちゃうから、白雪の前では前世の言葉を禁止にした。もちろん、わたくしに前世の記憶がある事は鏡以外は知らない。
優しい白雪は、わたくしが鉄の靴を履いて死ぬなんて知ったら泣いてしまうもの。
「例の王子は、どうなってる?」
要注意人物の調査は欠かせない。といっても、鏡に毎日聞くだけだけど。
「白雪の噂を聞いてもスルーだな。父親が評判を聞いて白雪との縁談を進めようとしたけど、健康的な血色の良い女性はお好みじゃねぇらしくて断ってやがった」
「白雪がお好みじゃないなんて腹が立つわね!」
「あの王子は、どっちかってーと昔のアンタの方が好みじゃねぇかなぁ」
「どういう意味よ」
「顔色悪い美人が好きらしい」
「顔色悪いって失礼ね!」
「事実だろ。今は良くなったけど、前はずーと顔色が青白かった。あの頃のアンタなら、ワンチャン王子を籠絡できたかもな。すぐ死体にされちまいそうだけど。今は王子の権限使って、美女の墓漁ってるらしいぜ。生きてる人間に興味無いんじゃね?」
「さいってー! 捕まっちゃいなさいよそんな奴!」
「外面だけは良いからなぁ……」
「よし分かった。白雪に毒牙を向ける前に除去するわ。とりあえず今は毎日様子を確認する。ねぇ、白雪姫に出てくる狩人とか、小人とかって存在する?」
「聞き方がアバウトなんだよ! この国に何人狩人が居ると思ってんだ!」
「そうよねー……大体、わたくしは王妃よ。使用人ならともかく狩人の知り合いなんて居ないわ。わたくしの性格を考えて、こっちでテキトーに雇った狩人を信用すると思う?」
「……しねぇな。けどアンタの性格が白雪姫の物語に出て来る継母と全く一緒か、分かんねぇだろ?」
「そこよ! わたくし、運良く記憶を取り戻したけど、記憶を取り戻さなかったからあんなに可愛い白雪を追い出して、毒林檎なんてとんでもないものを食べさせるのよ?!」
「以前のアンタなら、あり得る……か?」
「自分が怖いわ」
「少なくとも今のアンタはそんな事しねぇだろ。安心しな。白雪に危害を加えるヤツが現れても俺が守ってやるよ。万が一、アンタが襲って来ても守ってやる」
「本当?! 追加料金取らない?!」
「取らねーよ。俺を作ってくれた時、たくさん代償を貰ったからな」
「あああ……そうだったわ! 人間は居なかったけど、大量に生贄を捧げたのよね。白雪にバレたら怖がられるかしら」
「アンタが捧げもんにした生き物は全部俺の中で生きてるからセーフじゃね?」
「ちょ! 聞いてないわよ! 美味しかったとか、血が滴って汚れたとか言ってたじゃない!!!」
「成り立て魔女が俺を作ろうとするからからかってやったんだよ」
「酷い! 許さない! 割ってやる!」
「白雪の家庭教師はどうすんだよ」
「くっ……鏡先生。これからもうちの娘をよろしくお願いしますっ……」
「ははっ、こりゃ良いな。白雪は俺に懐いてるからなぁ。せいぜい俺を大事にしろよ?」
鏡は楽しそうに意地悪な笑みを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます