第7話
「男の家庭教師は駄目だし……」
白雪に鏡は見えてないから、呟くように言う。鏡は黙って部屋を出て行った。まあ、気まぐれな鏡は放っておこう。それより家庭教師をどうしようかしら。
わたくしが教えてあげたいけど、執務もあるからあまり時間が取れないのよね。でも、白雪は成長期。しっかり教師を付けて、たくさんの事を吸収した方が良い。実家から、人を連れてこようかしら……。お兄様が渋い顔をするだろうけど、白雪の可愛さをアピールすればいけるかしら。いや、ダメね。子どもが居たなんて知らなかった。別れて帰って来いとか言い出しそうだわ。
「失礼致します」
ドアをノックして入って来たのは、見た事がないような美しい女性だった。でも……チラリと白雪を見る。うん、うちの白雪の方が美しい。
「女王様の命で白雪姫様の家庭教師をする事になりました。鏡花と申します」
「白雪と申します。初めまして。お母様……もしかしてわたくしが先生に怯えていた事を、ご存知だったんですか?」
鏡花? そんな人知らないわよ。
鏡花……鏡花……鏡……。あ、あああ!!!
「か、鏡?」
「はい。鏡 鏡花でございます。女王様の命で、白雪姫様の家庭教師に参りました。白雪姫様。わたくしを教師とお認め頂けますでしょうか? わたくしは貴族ではありませんが、貴族のルールやマナーは全て熟知しております。他にも、白雪姫様が知りたい事はなんでもお答えするとお約束致します。どうか、わたくしをお雇い下さいませ。白雪姫様がわたくしをお認めにならないと、わたくしはクビになってしまいますの」
「お母様が紹介して下さった方なら安心です。鏡先生、よろしくお願いします」
女にも化けられるの?! しかも、白雪にも見えてるわよね?
ってか、何しれっと家庭教師に収まってるのよ!
でも、鏡以上に適任な家庭教師は居ない。白雪に暴力は振るわないだろうし、なんでも答える事が出来る。
それに……白雪が鏡に懐いてる。
白雪、お母様は心配だわ。そんなにホイホイ人を信じてはいけないと思うの。物語でもいきなり訪ねて来た怪しい老婆の出す林檎を食べて死にかけるし、白雪は人を疑う事を知らないのかしら?
わたくしは違う。いくら鏡でも簡単に信用しない。
「今日はわたくしも授業に同席します。部屋を移動しましょう。執務室の隣の部屋が空いてるから、扉を開けたまま授業をして」
「女王様はお忙しいですからね。そんな中、白雪姫様の養育に心を砕いていらっしゃるのです。わたくしがこんなに早く来たのも、女王様が急げと仰ったからですわ」
嘘つき。鏡の嘘つき!!!
「お母様……ありがとうございます……」
う。
ウルウルしてる白雪には言えない。
「鏡先生、少しだけお話がありますの。白雪、勉強道具をまとめておいて。この鞭は……不要ね」
扉を開けて目に付いた使用人に処分するように預ける。ついでに、今まで白雪に鞭を打った家庭教師が他にも居れば調べなさいと命令する。この命令で、家庭教師がクビになった理由を察してもらう。
使用人の大半は下級貴族。
噂が広まり、少しは白雪の待遇が良くなると良いけど。
「鏡、ふたつだけ答えなさい。白雪を大事にする気はある? 嘘を吐けるのは何故?」
「大事にする気はある。アンタ以外には、嘘だって吐ける」
「白雪に嘘を吐かないと約束出来る?」
「報酬を貰えば、出来るぜ。ま、サービスで家庭教師をやってる時は嘘は吐かねえって約束してやる」
「分かったわ」
報酬か……。
わたくしが鏡を作った時、かなりの代償を支払った。何を要求されるかは鏡の気分次第なのよね。
以前払った代償はとても人には言えない。
とりあえず、家庭教師の時は嘘は吐かないと約束させただけでも良しとしましょう。
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