第5話

可愛い白雪と食事をしたが、案の定栄養の偏った質素なメニューだった。念のため料理長を呼んで確認するとやはり国王の指示だと分かった。


「わたくしが勝手に食事を作って白雪に与えても国王の命令に逆らった事にはならない?」


「はい! なりません女王様!」


料理長は嬉しそうだ。彼も白雪の事を気にしてくれていたのだろう。よく確認すると、具なしスープに見せかけて沢山の野菜が溶け込んでいるのが分かる。彼は自分のできる範囲で白雪を守ろうとしてくれていたのだ。


宰相からの報告も聞き、嘘はないようだったのでご褒美に髪を生やしてあげた。カツラが不要になって嬉しそうだ。


泣きながら忠誠を誓われたわ。どうやら城の使用人の半分は白雪を心配しているけど国王の命令に逆らえないみたい。半分は何も考えてない無能。きっと童話のわたくしは、有能な者達をクビにしてしまったのでしょうね。実際、昨日までは宰相をクビにしようとしてたし。


この状況、諸悪の根源は分かってる。


「悪を滅ぼしてくるわ」


「いくら女王様でも、国王をやっちまうのはまずくねぇか?」


「なんでよ。やんないわよ。あんなのでも父親なんだから、白雪が悲しむでしょ?!」


「ホントに白雪姫を溺愛してんのな。世界一を取られて悔しくねぇのかよ」


「白雪が世界一美しいなんて当然でしょ?!」


「……ほんっと変わったよな。本質は変わってねぇけど。国王は今なら城の屋上で星を眺めながらブツブツ言ってるぜ」


「ありがと、鏡。行ってくるわ」


「……ありがとうなんて、言った事ねぇだろ……あんな笑顔……反則だ……」


鏡もなにかをブツブツと言ってたけど、全く聞こえなかったわ。ごめんあそばせ。


「……ああ……今日も星が美しい……いつも眺めていたよね……」


ナニアレ。正直、白雪の扱いに腹が立っているから今すぐぶん殴りたい気分だけど、わたくしは白雪の次に美しい女。そんなみっともない事はしない。


鏡や宰相、料理長の情報により前妻との思い出の飲み物を用意してある。これはわたくしが飲むものではない。あの男から白雪を守る為の武器だ。


毒でも仕掛けようかと思ったけど、毒を作るのって面倒なのよね。そこまでしなくてもなんとか出来そうだし、今回はやめておいた。それに、毒なんて作ったら白雪が怯えてしまうわ。


「どうぞ」


「これは……」


「こちらは、奥様へ」


そう言って、2つのドリンクを手渡す。


「わたくし、白雪と話しました。とても美しく、可愛らしい子ですわ。貴方がわたくしを愛していないのは分かっております。今更愛して欲しいなんて言いません。でも、貴方が愛している奥様は、白雪を蔑ろにしてさぞかしお怒りでしょうね。わたくし、貴方の愛は要りませんけど白雪は大好きなんです。ですから今すぐ、白雪の養育権をわたくしに渡して下さい。貴方は今まで通り、奥様を偲んで生きていけば宜しいですわ」


「……白雪……?」


「貴方の娘です。まさか、忘れたなんて言いませんわよね?」


ブツブツと前妻の名前だけを呼ぶ男にイライラしてくる。小声過ぎて名前も聞き取れない。いけない、こんな事でイライラするなんて美しくないわ。それに、こんな駄目男でも白雪の父親。蔑ろには出来ない。


「……貴方は今まで通り、愛する奥様とお話しして下さいまし。政務をわたくしに押し付けた時と同じように、白雪の養育権をわたくしに渡して下さるだけで結構です」


刺々しい言い方になるのは許して欲しい。とにかく、公に白雪を構いたい。


「……ああ……女神はここに居たのか……」


「え?!」


わたくしを見てるのに、わたくしを見てない。気持ち悪い男に近寄られて寒気がしたところで物凄い音がして、目の前の男は倒れた。


「よお」


「鏡?! な、何やってるのよ?!」


「だいじょーぶ、俺の姿はアンタ以外に見えねぇから。側から見たらアンタに迫った国王がぶっ倒れたように見える」


「ホント?」


「ああ、鏡を信じろ。で、アンタはこの男に迫られて嬉しかったか? ようやく夫に相手にされたんだぜ?」


「嫌がってたの、分かってるわよね?」


「まーな。ほれ、サインしてくれたぜ」


「いつの間に……」


「鏡はなんでもお見通し。こんくらいなら手助けしてやれる。ほら、色んなとこでアンタは見られてる。心配してる使用人達を上手く誤魔化せよ。女王様」


「分かってるわ。ありがとう、鏡」


「……ちっ……色々ガードが緩いんだよ……」


突然倒れた国王を救助する為に、宰相や騎士達が駆け出してくるのが見えるが、誰も鏡に気が付いていない。


鏡のすぐ側を騎士がすり抜けて行く。本当に見えてないみたいね。国王が倒れたのはわたくしのせいって事にならないように誤魔化さないと。


「ごめんなさい……わたくしが思い出のドリンクなんて出したから……」


「女王様は悪くありません! 我々は失礼と思いながら影から見守っておりました! 女王様は国王陛下に飲み物を渡しただけです。おふたつご用意されたのはまさか亡き王妃様のものだなんて……。国王陛下は、女王様の優しさに感動したのでしょう! こんなに慈悲深い女王に仕えられて、我々は幸せです!」


え、ええー……。敬礼までしてるんだけど。なんでこんな事に……?


「国王のヘタレっぷりに内心みんなイライラしてたんだよ。あっさりアンタを女王に任命したから警戒されてたんだけど、白雪姫への溺愛っぷりがしっかり伝わったみたいで、慈悲深い女王様だって評判だぜ」


上手くいきすぎてない? でもまぁ良いわ。これで明日から白雪を守りやすくなるわね。

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