第5回(第2部の冒頭を先行公開)

 現在、第2部を執筆中の『付かず離れずの幼馴染みは、絶交する。』ですが、その「第2部」の冒頭を先行公開しようと思います。

 

 ただ、いわゆる「ラフスケッチ」のようなもので、後々修正する可能性が高いです。エピソード自体を没にする確率もゼロとは言えません。その点をご了承の上でお読みください。「第1部」の最後で章悟と付き合うことになった「先輩」こと「月村壱歌」視点でのエピソードです。


     * * *


 授業と授業の間にある、短い休み時間。


 教室の移動があれば、廊下を歩いて目的地へ向かえばいい。ただ、そうでない場合、次の授業の準備を終えたら、私はどうすればいいのか分からなくなる時がある。


 昼休みや放課後ならば、「彼」に会いにいけばいい。一緒に食事をしたり、本について話し合ったりすれば、時間なんてあっという間に過ぎていく。


 けれど、今はそういうわけにはいかない。「彼」は私とクラスが違う……どころか、学年が違う。わざわざ休み時間の度に違う階にいる相手に会いにいくなんて、どうかしている。


 なので、結局のところ、楽しそうに話しているクラスメイト達の声を耳に入れながら、自分の席に座っているしかできない。窓際の席で良かった。ここならば、その「声」が両側から聞こえてこないから。


「……の話、面白いよね。いつまでも聴いていられそう」


 私はその声が聞こえてきた方をつい向いてしまう。とある一人の女子が、その近くにいる友人らしき人のことをそう評している。


『えっと、ごめんね。ちょっと用事思い出したから』


 そう言う彼女は数か月ほど前、私にこんなことを言った。おそらく、用事なんて無かったんだろう。自身の好きな作品についてあれこれ熱弁する私についていけなかったんだと思う。


 つまり、私の話は彼女にとって「面白くなかった」ということ。それに尽きる。


 ……私は、どうしてこうなんだろう。


 小学生の頃はこんな感じではなかったはず。それなりに友達がいて、それなりに一緒に遊んで、それなりに人との距離感を測れる……体が小さいことを除けば、良い意味で「どこにでもいる子」だったんだ。


 それが変わるきっかけになったのは、読書にはまり始めてから。文章の羅列から筆者のメッセージが立体的に浮かび上がってくるような感覚に魅力を感じてしまい、それを他の誰かにも共感して欲しくて躍起になった覚えがある。


 ところが、それが原因で煙たがられ、他人から距離を置かれることが多くなってしまった。その寂しさを埋めるように本の世界へと逃げ込み、そのせいでさらに距離を置かれ、その寂しさを埋めるように……といった負のスパイラルに陥っていたんだ。これが私の暗黒の中学生時代。友達なんているはずもない。


 「このままでは駄目だ」と思った私は、高校進学を機に変わることを決めた。以前までかけていた眼鏡をコンタクトレンズに変え、髪も伸ばし始めた。文芸部にも入った。


 ただ、この性格自体は相変わらずなので、結局のところ、一年生の間は親しい相手を見つけることができなかった。文芸部に所属したところで、たまに部室に顔を出して、「文芸部の人にまで煙たがられたら、もう終わりだ」なんてことを思いながら、隅の方でただ本を読んでいるだけ。今の私がやっていることと大差無い。


 二年生になって「部長」になったけれど、別に特別なことをしたわけではない。籍だけを置いて実際は来ないような部員も少なくなく、結局のところ、来る頻度が比較的高かった私がその座に就いたに過ぎない。当然ながら、そんな私に求心力などあるはずもなく、元から部員が少なかったこともあって、結局のところ、実質的な部員は私一人だけになってしまった。


 そんな状況の中に現れたのが、章悟君だった。


 あの頃のことは、今でも思い出せる。図書室で頭を抱えていた私に話しかけてくれたこと、こんな私の話を嫌がらずに聴いてくれたこと、部室で私の代わりに本を取ってくれたこと……それ以外にも、色々。


 それからの日々は、まさに「怒涛」と言えるものだった。シミュレーションとはいえ「デート」に付き合ってくれて、紆余曲折あって実際の「恋人」になった。あれから数か月経つけれど、この関係は今もちゃんと続いている。


 そうだ。今の私は充分に満たされているはず……なんだ。


 もう、ひとりぼっちではない。こんな風に、教室で誰かの輪の中に入ることを望む資格なんて無いのかもしれない。


 私はバッグの中を探る。一冊の本が出てきた。『恋がふたりを変えるなら』だ。私と章悟君が出会うきっかけになったと言える小説。入れっ放しになっていたみたいだ。


 これまで何度目を通してきたのか分からない作品だ。ひとまず読もう。今できるのはこれくらいだ。


 そう思って、本を開こうとした時だった。


「……ちょっと、これって、あれだよね? 『恋ふた』だよね?」


     * * *


 以上で、第5回の月刊企画は終了です。来月末公開予定の「第6回」でまたお会いしましょう。


 DANDAKA

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