1-2. 出会いはシンデレラ
1-2-1. 小学生がいた(章悟Side)
とある日の昼休み、僕は学校の図書室で本を探していた。入学して半年近く経つけれど、ここに足を踏み入れるのは今回が初めてだ。
特定の読みたい本があるわけじゃない。この前のように鵜飼から「趣味とか無い」とよく言われるので、「それなら読書でもしてみようかな」という軽い気持ちで来たに過ぎない。
そして、実際に本棚を前にしたところで、僕の手は止まってしまう。
この図書室は特別大きいわけではないと思うけれど、一つの本棚に数多くの本が収められており、その中からどれを取ればいいのか結構迷ってしまうのだ。背表紙に書かれているタイトルだけではどうも判断できない。
そう思いながら、別の棚へと移動しようとした時だった。
「……でしょ? 確かに表紙はこんな感じで、内容だってありふれたもの。よくあるライトノベルの一種として片付けられてしまうかもしれない。しかし、それを作者の筆力によって生き生きとした物語に仕立て上げられているの」
近くの席から早口で
すると、奇妙な光景が広がっていた。
小学生がいたんだ。
より細かく言えば、小学生くらいの女子が一冊の本を手にしながら誰かと話していたんだ。顔立ちは幼く、聞こえてきた声も非常に高い。高校の図書室なのに、どうしてこれくらいの年の子がいるんだろう。
さらに見ていくと、彼女はうちの高校の制服を着ている。明らかに幼い容姿をした女の子がそんな格好をしているのを見ると何だか時空が
……僕は何を考えているんだろう。そんな難しい話じゃない。彼女は小学生でも飛び級でもなく、ああ見えて僕よりも年上、「先輩」だということなんだろう。
「どのシーンが好き? 私は三巻のクリスマスの話かな。この作者独特の超常的な描写が見事に
静かに衝撃を受けている僕をよそに、「先輩」は目の前の席に座っている同級生らしき女子に対して、ほぼ呼吸を挟むことなく話し続けている。
かいの席の女子と比べると、座っていても分かるくらい体付きは非常に小柄だった。しかし、理論立てられた喋り方は小学生っぽくなく、そのギャップが余計に不思議さを際立たせている。
「……うん、そうだね」
「先輩」の正面にいる女子は、その気迫に押されたのか苦笑いを浮かべていた。
「もちろん、この三巻がピークというわけじゃないよ。巻を重ねるごとに物語全体のテーマが……あれ? どこ行くの?」
「えっと、ごめんね。ちょっと用事思い出したから」
短く言い残し、その女子は席を立ってこの場から離れていった。同時に図書委員らしき男子が「先輩」に近付いてきて、こう告げる。
「図書室ではお静かに」
「……はい」
彼が去っていったのち、話す相手がいなくなった「先輩」は、その気恥ずかしさを隠すように肘をテーブルに付けながら両手で頭を抱え始めた。この図書室という空間にふさわしい静けさが広がり始め、色々と後悔しているであろう「先輩」に声をかける者はもういなかった。
「すみません。その本なんですけど」
ただ一人、「先輩」が強い熱量で語っていた本に対しての興味が尽きなかった僕を除いては。
声を掛けられた「先輩」は、驚きを隠せない様子で椅子に座ったままこちらを見上げる。
「何だか面白そうだと、思いまして……貸してもらっても、いいでしょうか?」
勝手に口が開いていくような感覚だ。そうやって僕は見ず知らずの相手に頼み事をする。
「別に、嫌だったら……」
と、言いかけたところで「先輩」は急に立ち上がった。
「えっと、返す時は二年A組ね! 昼休みはずっとそこにいるから!」
僕に本を渡し、そう言い残してこの場から立ち去っていく。素早い動きに僕は何も言葉を返せず、図書室から出ていく「先輩」をただ突っ立って見送ることしかできなかった。
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