団子と魔法と空と勇者

一宮ちゃん!

魔女の森(前編)

 父さんは冒険者だった。世界中を旅して、色々な種族と出会い、豊富な経験をしてきたと、よく俺に聞かせてくれた。

 父さんの話は、そのどれも俺にとっては宝石のように輝いていて、心をワクワクしてくれるものだった。

 そんな話を毎日聞くものだから、俺もしだいに冒険者になりたいという気持ちが芽生えてきた。いまでは、父さんでも成し遂げられなかった世界一周を達成するのが、おれの夢だったりする。

 母さんは俺が冒険者になりたいというたびに、「冒険者だけはやめなさい」と反対してくる。母さんは俺に、王国騎士になるために文武両道で頑張りなさいと、いつも言う。王国騎士は今の時代、とても人気のある職業だ。魔物の勢力が衰えたいま、騎士という仕事は安定と安全を保証されている仕事なのだ。

 母さんの気持ちもわかる。おれに安定した仕事に就いてほしいと願う気持ちもとてもわかる。

 でも、俺は世界を見てみたいんだ。

 知らない世界に触れてみたいんだ。

 食べたことないものも食べてみたい。

 見たことない種族も見てみたい。とくに妖精に会ってみたい。

 だから、母さんには悪いけど、俺の気持ちは揺らぐことはない。

 そのために道場にだって通っている。もちろん剣の道場だ。冒険者といったら、剣だからね。


 ☆★☆★☆


「さっちゃん、道場まで一緒にいこ」


 カラッとした笑顔で俺の席に寄ってくる女の子。

 学校の放課後、おれは部活とかをやるわけではなく、道場に行かなければならない。

 そして、道場に通っている生徒はこのクラスにもう一人だけいる。

 それが、いま俺の目の前にいる彼女だ。

 安藤くるみ。黒色の艶やかなロングヘアーと整った顔立ちで、全世界の男子たちの心をガッチリと掴む。剣の腕前もおれと、互角かちょっと上くらい・・・いやたぶん互角の美少女剣士。それが安藤くるみ、俺の幼馴染だ。


「ちょっとその前に、和菓子屋で三色だんごを食べていかない? 俺、めっちゃいま食べたい気持ちに駆られているんだよね」


「寄り道なんかしてたら稽古の時間に遅れちゃうよ。それに、さっちゃん、お小遣いもうないでしょ」


「えーいいじゃん。お金もだんご買うくらいならあるし。だんご食わないとやる気でないし」


「ダメよ、お金も時間も無駄遣いしちゃダメです。あとこの前お父さんが、今度遅刻したら、地獄をみせるって言ってたよ」


「なにそれ、地獄って表現が怖すぎるじゃん」


 道場の師範は、くるみのお父さんだ。俺の学校での態度やテストの点数なども、くるみから師範に情報がわたって、筒抜けなのだ。おれのプライバシーは、くるみによって管理されているといっても過言ではない。

 そして、俺が授業中寝たり、授業をサボって三色だんごを食べに行ったり、テストの点数が悪かったりすると、きついお仕置きが待っているのだ。

 でも、いままで地獄をみせるなんていうことは聞いたことない。

 ここは大人しく道場に行くしかない。


 ☆★☆★☆


「さっちゃんって、やっぱり冒険者になるの?」


 道場に向かう道中、なにげなくくるみに聞かれた。


「そりゃーなるに決まってる。おれは誰になんと言われても、冒険者になるって決めたんだ。そのために道場に通っているんだ。強くなれば、母さんも冒険者になることを認めてくれるだろうしね」


「うん・・・やっぱりそうだよね。でも、わたしはさっちゃんと一緒に王国騎士になりたいなと思っているのだけど・・・ダメかな?」


「くるみには悪いけど、おれの気持ちは誰にも折ることはできない」


「・・・じゃあ、私に今日の実技稽古で勝ったら、私もさっちゃんの夢を応援するよ。でも、もしさっちゃんが負けたらさ・・・私と一緒に王国騎士になって」


「な、なんで、そんな賭けをしないといけないんだよ」


「べつにさっちゃんが勝てばいいだけじゃない。なに、もしかして私に負けるのが怖いの」


 私には勝てないだろうと自信満々に俺をみてくる。

 男にはどうしても退けないときがある。それは三色だんごを賭けた戦いのときと、幼馴染にバカにされたときだ。


「そんなわけないだろ、俺がくるみのことを怖いなんて一度も思ったことないわ。まぁ、どうせ俺が勝つだろうけど、受けて立とうじゃないの!」


 負ける気しかしない………。


 ☆★☆★☆★


「師範、今日も稽古よろしくお願いします」

「おじさん、今日もよろしくです!」


 くるみと俺は、くるみ父(おじさん)に礼をして道場に入る。

 道場には、俺の年上から年下まで幅広い年代の人がいる。今日は道場の中で一番強いと言われている、菊川はると(はる兄)がいる。


「はる兄、今日も実践稽古やろうね!」


 俺は道場に入るやいなや、はる兄の元へ走り実践稽古の予約をする。

 こうやって予約をしておかないと、はる兄は人気者だからすぐに人数オーバーになってしまい、実践稽古ができなくなってしまうのだ。


「いいぞ! 今日こそ俺に勝てるよう頑張れよ!」


「今日こそ絶対に絶対に、はる兄に勝って、道場で一番強い男になるんだ!」


「おっ、今日も気合入ってるな! 実践稽古楽しみにしとくよ」


 はる兄はニコニコと笑いながら、稽古の準備をはじめだす。

 俺も気合を入れて、準備をしようとしたとき、


「おい、さつき。俺に報告しないといけないことがあるんじゃないのか?」


 安藤おじさん(師範)の低い声に呼び止められた。


「………報告。いったいなんのことでしょうか………?」


「くるみにさっき聞いたんだが、今日学校で数学のテストがあったらしいじゃないか」


「そうですね。そういえば、ありました……」


「何点だったんだ?」


「えーっと……報告するほどの点数じゃなかったといいますか……忘れたといいますか」


「お前、このまえ次のテストで30点以下を取ったらなんでもしますって言ったよな」


「えっ、そんなこと言いましたっけ……?安藤おじさんの聞き間違いじゃないですか?」


 俺が目を泳がせながら言うと、おじさんは指をパッチンと鳴らした。

 すると、どこからともなく声が聴こえてくる。


『次、テストで30点以下取ったらどうするだ?』

『大丈夫、大丈夫ですよ! 30点以上なんて余裕ですよ! もし点数取れなかったら、なんでもします!!』


 おじさんと俺の声だ。


「録音なんてずるいですよ、おじさん!」


「おれのこの録音する能力は、お前が言いわけできないよう証拠を残すためにあるんだ」


 おじさんの言う録音というのは、レコーダーを使った録音のことではなく能力を使ったものだ。能力というものは、生まれもった才能のことで、その人にしかできないことをいう。

 まぁ、おじさんの録音の能力は才能の中でも、微妙なものだ。最近では、レコーダーが開発されたからね。


「あーでも、テストの答案を学校に忘れちゃったなぁ。点数も覚えていないし、どうしようかなぁ」


「そうだと思って、私がテストの答案持ってきてあげたわ、さっちゃん」


 できる嫁感をここで出されても困るよ、くるみちゃん!

 ボロボロの数学のテストがおじさんの手元に渡る。


「なんだこの点数はっ! おまえ、ちゃんと勉強したのかっ! 俺はこのまえ、30点以上とれるように勉強しなさいと言ったはずだぞ。そしてお前は「はい」と答えたはずだ。それに何回目だこれで。赤点取るのは! 俺は覚えているぞ、これで5回目だ。このままだと、学校を卒業できないぞ! おまえもそろそろ将来のことを・・・・」


「俺は冒険者になるから、大丈夫だ・・・です」


「なにが冒険者だ! お前まだそんなこと言っているのか! 俺もお前のお母ちゃんもあれだけ冒険者にはなるなと言っておるのに」


 なんで、みんな冒険者になることを反対するんだ。

 王国騎士はよくて、なんで冒険者はダメなんだ。

 俺の夢をなんでいつも否定するんだ、みんな・・・。


「・・・なんで、なんで冒険者はダメなんだよっ!」


 口から感情を吐き出す。

 俺だけなんで夢を応援してくれないんだ。理不尽じゃないか。


「お前が弱いからだ!」


「・・・・・っ」


 このとき俺は何も言えなかった。

 反論したい気持ちはたくさんあった。

 反抗したい気持ちもたくさんあった。

 だけど、何も言えなかった。道場のみんなに聞かれたという恥ずかしさもあり、言葉が出てこなかったというのもあるし。自分でも自分の弱さを知っているからこそ、納得してしまったというのもある。


 でも、でも・・・・認めたくない。

 自分が非力であることを認めたくないんだ!


「俺だって・・・俺だって、すこしは強くなったんだぞ! いま証明してやる!」


 俺は道場を抜け出し、外を走り抜ける。

 強さを証明するために。


「待って、さっちゃん!」


 後を追うくるみ。


 ☆★☆★☆★


「言い過ぎですよ。あれじゃあ、逆効果じゃないですか、師範」


 菊川はるとが師範に言う。


「あれくらい言わないと、あのバカには通じないだろ」


「後を追わなくても大丈夫なんですか?」


「・・・・すまないが、今日の稽古、はるとに任せてもいいか?」


「いいですよ、早く行ってきてあげてください」


 ☆★☆★☆★


 俺は村を飛び出し、魔物がまだ住んでいるといわれている、魔法の森へ向かう。

 なぜこの森が魔法の森などという名前が付いているかというと、それは魔女が住んでいるからだ。魔女は魔法を使うことができる、とても恐ろしい怪物だと学校で習った。

 でもいまはそんなこと関係ない。俺はこの森に棲んでいる、魔物を倒して強さを認めてもらうんだ。


「さっちゃん、待って!」


 後ろからくるみに手を引かれる。すごい力だ。とても女の子の力だとは思えないくらいだ。


「くるみ、放してくれ! 俺は魔物を倒して強さを証明するんだ!」


「危ないからダメ! 私はさっちゃんがどんなことしようと、大抵は許すけど。さっちゃんが危ないことをするのだけは、絶対に許せない!」


 手を引く力が強まる。もう痛い。強すぎて、痛い。

 俺がどんなに力をいれても、振りほどくことができない、くるみの手。


「俺が危ないこといしようと、俺の勝手だろ!」


「へぇー私にそんなこと言うんだ! じゃー私もさっちゃんをこうやって止めるのも、私の勝手だよね」


「なんで・・・なんで、みんな俺のことを否定するんだ!」


「そりゃー否定するよ! だって、さっちゃん弱いもん。弱いくせに夢がでかいんだもん。まえ熊に襲われそうになったときも、大蛇に襲われそうになったときも、わたしがいなかったら、死んでいたじゃない!」


「べつに、くるみに助けてもらわなくても、熊も倒せたし、大蛇も倒せたしぃ。とにかく、くるみがいなくても俺は大丈夫だ!」


 そう言った途端に、手を引いてた力が一気に弱まり、俺は地面に倒れ込む。


「・・・・・わたしの言うことをなんでいつも、聞いてくれないの」


「え?」


「さっちゃんはいつも、私の言うことを聞いてくれない! 私はこんなに心配しているのに、その気持ちをいつも無視する。もうさっちゃんなんて知らない! 勝手にすればいいじゃない!」


 くるみはいままで溜まっていた怒りをぶつけるかのごとく、俺にそう言い放つ。

 そしてそのまま、彼女は来た道を走っていく。


「・・・なんで俺が、くるみの言うことを聞かなくちゃいけないんだ・・・・くるみは俺のお母さんかよ」


 俺はそうブツブツと言いながら、森を進む。

 すると、


「きゃあああああ」


 後ろからくるみの叫ぶ声が聞こえる。

 俺は居ても立っても居られず、叫び声が聞こえたところに走る。


 くるみは少し小高い崖から落ちていた。

 崖の下で、足をおさえて泣きそうになっている。


 ああ、俺のせいだ。俺があのとき幼稚な考えで森に行かなければ、くるみは怪我をせずに済んだのに・・・。

 俺は本当にバカだ。


 崖をゆっくりと降りて、くるみの元へ駆け寄る。


「くるみ、大丈夫か!」


「う、うん、ちょっと足を打っただけだから・・・大丈夫」


「・・・・くるみ、帰るぞ」


「え・・・」


「ほら、おんぶするから早く帰ろう」


「魔物を倒して、強さを証明するのはいいの? さっちゃん」


「そんなことより、くるみの怪我の方が心配だ。だから帰るぞ」


「・・・・うん」


 くるみをおぶって、森の出口に向かう。

 彼女は俺の背中から離れないように、ぎゅっと抱きつく。

 そのとき、俺は大切なものを背負っているという責任感が湧いてでてきた。


「えっと・・・さっきはごめん。くるみがいなくても大丈夫って言って・・・」


「ううん、全然いいよ。私こそさっちゃんに怒っちゃってごめんね。うふふふ」


「え、なんでいま笑った?」


「ん、だって、やっぱりさっちゃんには、私がいないとダメなんだなぁと思って」


「・・・・・」


 俺は照れ臭くて、それ以上なにも喋れなかった


 森を進んでいると、雨が降ってきた。


「雨が降ってきちゃったね。さっちゃんごめんね、私がちゃんと歩ければ」


「いや、全然いいよ。元はと言えば、全部おれが悪いわけだし」


「おーい、二人とも大丈夫かぁー」


 向こうから安藤おじさんの声が聞こえる。


「おじさん、ごめんなさい。俺のせいで、くるみが怪我しちゃって」


「くるみ大丈夫か?」


「うん、大丈夫だよ。ちょっと足を打っただけだから、お父さん」


 俺たちはおじさんが来たことで、安心感で力がぬける。

 とにかく、これで俺たちは安全に村に帰ることができる。よかった。


 ☆★☆★☆★


 しばらくおじさんの後ろをついていくが、中々森をぬけることができない。

 俺はだんだんと不安になり、おじさんに聞く。


「おじさん・・・なかなか森を抜け出せないですけど・・・・もしかして迷いましたか、俺たち」


 すると、おじさんは急に止まり笑い出した。


「道は合ってるよ。そろそろここらへんでいいかな・・・」


「え・・・どういういみ・・・」


「いまからお前らはここで、わしの魔法の実験台になるんだ」


 おじさんはそう言うと、俺の首を掴む。今にでも意識が飛びそうなほど強い力でだ。

 俺が首をつかまれたことで、くるみが地面に落ちてしまう。


「な・・・ん・・で・・お・・・じさ・・ん」


「わしはお前らの知っているおじさんではない。お前らが尊敬している存在を魔法で具現化していただけだ。わしはこの森に住む魔女、アレドだ」


 おじさんの顔がぼやけて、だんだんとしわのあるおばさんの顔になっていく。

 そして俺の目の前に、鼻が赤い魔女が現れたのだ。


「くくくく、なんてかわいそうな子達・・・この森に迷いこんだせいで、わしによって死んでいくんだからねぇ」


「さっちゃんを、さっちゃんを放しなさい!!」


 地面でうずくまっていたくるみはいつの間にか、魔女のふところに潜り込んでいた。

 さすがくるみだ。一瞬のうちに敵との間合いを詰める。

 そして、くるみは魔女の腹に体当たりする。


「痛っっっったぁぁぁ、なんて力なのこの小娘!」


 でも魔女は俺の首から手を放さない。

 痛がってはいるが、そこまでのダメージが通っていない。

 なんでなんだ!? くるみの体当たりなんて食らったら、成人男性でも吹っ飛ばされて、しばらく立ち上がれなくなるほどなのに。


「小僧、なんでって顔しているね。なんで、小娘の体当たりがあまり効かなかったのか、教えてあげるよ。これも魔法なの。ソートンっていう名前の魔法で、物理攻撃をある程度防げるの。だからあなたたちがどんなに頑張っても、私に傷を負わせることはできないのよ。まぁ、そこの小娘の力は異常に強い気がするけど」


「一回でダメなら何回でもするまで!」


 くるみは握りこぶしを作り、魔女の腹を殴る。何回も何回も。

 それでも、魔女は不敵な笑みを崩さない。


「人をすぐ殴るなんて、教育がなってないわね・・・・でも、さっきから頑張っているようだけど、私はまったく痛くもかゆくもないわ。だって魔法で守られているもの。くくくく」


「くそくそくそ、さっちゃんをはなせぇぇぇぇぇ」


「・・・く・・・るみ・・・に・・げ・・・ろ」


 ダメだ。このままだと二人ともやられてしまう。

 やっぱり魔女は恐ろしかった。魔法の前では、人間は無力なのだ。

 そして、俺はもっと無力だ。こんなに敵の近くにいるのに、反撃することもできない。

 俺は弱い。師範の言ったとおり、弱くて弱くてどうしようもないやつだ。

 やはり俺は冒険者になることなんてできないのかもしれない。

 だって・・・・ひとりで何も・・・できない・・・。


 ――――あぁ、俺は死ぬんだな


「そろそろ、こっちの男の子は限界のようだけど・・・・でも私は優しい魔女だからチャンスをあげる。二人で戦いなさい」


 魔女アレドはそう言うと、俺の首から手をはなす。

 俺は地面に落ちて、ひさしぶりの酸素を吸い込む。

 ゲホゲホと情けなく咳き込む俺のもとに、くるみが駆け寄る。


「さっちゃん、大丈夫!?」


「・・げほ・・・げほ・・・ふぅ、ふぅ。・・・なん・・・とか大丈夫・・」


「よかった、さっちゃん・・・・さっちゃんは安心して、ここから逃げて。わたしが絶対にあいつを倒すから」


「だ・・・めだ。くるみの方がここから早く逃げろ。俺があいつを引き留めるから、くるみは逃げろ。ただでさえ、足を怪我しているお前が勝てる相手じゃない!」


「それは、さっちゃんも同じでしょ! ただでさえ弱い君が、勝てる相手じゃないでしょ!」


「俺は弱くなんかないっ! あんなやつ一撃で倒せるしぃ」


「もう、こんなところで強がらないで! 命がかかっているのよ! とにかく、わたしがなんとかするから逃げて!」


「くるみこそ強がるなよ、本当は怖いんだろ。まぁ、俺はまったく怖くないけど。俺がやるから、くるみは逃げろ!」


「わたしがやるっ、このわからずや!」


「わからずやはそっちの方だ。俺がやる!」


「くくくく、どうせどっちも弱い人間なんだから・・・そんな喧嘩、無意味なのに」


 魔女アレドが嘲笑しながら、俺たちの喧嘩に茶々を入れる。

 このとき、俺とくるみははじめて息があったかもしれない。


「俺は弱くないっ!」

「私は弱くないっ!」


 戦いの火ぶたは切られた。

 駆け出しは同時だった。

 俺とくるみは、まっすぐに敵である赤鼻のくそ野郎をロックオンする。

 相変わらず、勝てる気はまったくしないが、そんなことどうでもいい。

 とにかく、俺は俺とくるみを馬鹿にしたこいつが許せない。

 人間を馬鹿にするこいつをギャフンと言わせたい。

 その気持ちだけで、人間はどこまでも強くなれるのだ。


「さぁ、私の実験台になるガキたち。必死にあがきなさい。どうせ勝てるわけないけどね。くくくくく」

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