第18話
まさに血で血を洗う死闘が繰り広げられていた桶狭間から、遠く東に行った所にある駿河国駿府城。
ここは桶狭間とは違いまさに平穏そのものであった。なぜなら東の北条、北の武田との同盟は健在であり、外敵の侵入は考えられない。またそれと共に北畠とも同盟を結んでいる。まさに磐石の布陣。将棋の藤井くんのように鉄壁である。
そして義元出陣の為、家中の主だった者……つまり留守居役をしている氏真にとって「口煩い者」の多くがいない状況になっていた。
城の中にある広い空き地。煌びやかな服装の色の白い青年……氏真とその家臣達が蹴鞠をしている。
しかしその蹴鞠どうもおかしい。普通に地面に落としているし、みんなが蹴鞠を取り合っている。
氏真が蹴鞠を巧みな足技で奪い取ると、そのままドリブルして木と木の間にかけてある網に打ち込んだ。
「きゃぁぁ!!氏真様ステキ!!」
「ドヤ、俺の巧みな技を見たか!!」
氏真が満足しまったりとした瞬間、突然初老の家臣が飛び込んできた。
「とっ殿!これは一体なんの騒ぎですか!!」
「おう爺か。見て分からぬか、南蛮渡来のサッカーというものじゃ」
「この時代にサッカーなるものはないと思いますが……」
「この俺の力をもってすれば、清水エスパルスをJ1優勝に導くことが出来よう」
「いやもうフロントの迷走、度重なる監督交代の末、……って何を言ってるんですか!!義元公が居ないからといってこんな事していてはなりませぬ」
氏真はフーと溜息をついた。折角のびのび出来ると思ったのに、邪魔が入ってしまった。とっとと追い出さないと。
「うるさいな、ほら、もういいだろう。出た出た!!誰かおらぬか。この爺を摘み出してくれ」
「あっ何をなさいます。ちょっとは話を……」
爺は駆けつけた氏真の家臣につまみ出されてしまった。もうどうする事も出来ない。ただ歯軋りをするしかない。
「全く嘆かわしい……寿桂尼様にご相談するほかないか……しかしそんな家を恥を言うのも……」
寿桂尼とは義元の母である。統治能力に優れ、大方殿と言われた。史実でも、寿桂尼が亡くなった途端に武田家が攻めてきたため、一年もたたずに今川家は崩壊してしまった。
「まあ、義元公が帰られてからきつく叱責をしてもらおう……」
結局、爺は妥協という名の問題の先送りにしてしまった。しかし、もうその時には肝心からめの義元はこの世にいなかったのである……
さて話を桶狭間に戻そう。
北畠軍は総大将北畠具教を先頭に、遮二無二に信長の本陣に押し寄せていた。織田軍は食い止めようとするが次々と囲みを突破されつつあった。
「信長様申し上げます!!北畠軍の攻勢止められず。簗田政綱殿、討ち死に!!」
「なんだと」
戦況はどんどん信長にとって不利になりつつあった。もともと兵力で負けているのに加え、奇襲する森に兵をまわした為、かなり兵力に差がついてしまった。
それでもこちらには今川義元を討ち取ったという勢いがあり、五分五分の戦いに持ち込んでいた。
しかし、まるで信長が一番痛いところで、読んでいたかのように具教が一気に攻めてきたのだ。
「具教め……どこがうつけな者か。とんでもない男よ……」
「信長様、ここは一度清洲城にお立ち退きを……」
そう部下が信長に進言した時、信長本陣の垂れ幕が倒され、具教を先頭に北畠軍が押し寄せてきた。具教が乗っている馬は、まだお尻に刺さった矢の痛みの為暴走していた。
「ちょっと止まって止まって!!ヤバイヤバイって!!」
「ムム、ついに来たか……」
具教の馬は止まる事無く、信長の方に向かっていく。
「うあぁぁぁぁぶつかる!!」
「この身なり、もしや北畠具教か。丁度良い。この俺の手でけりをつけてやる!!」
馬に乗っている信長が、向かってくる具教に刀で切りかかろうとする。しかし、振り下ろそうとする刀より早く、具教の馬が信長につっこんだ。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぐっ!!」
二人の馬は激しく衝突し、お互い馬から吹き飛ばされた。
「殿が危ない。者ども!!かかれい!!」
「こちらも負けるな。信長の首をとるぞ!!」
両軍が激しく抗戦を開始した。斬れば斬られ、矢を放てば矢が飛んでくる。豪雨と強い風の中、男達の怒声と悲鳴、そして強烈な血の香り。まさに地獄のようである。
「ぅぅぅ、やっと地面に降りれた。しかし痛いな……とりあえず怪我はなさそうだ」
北畠具教がクラクラする頭を摩りながら、自分の身体を見ていた。あれほどの衝突であったが怪我はないようである。我ながら強運だなと感じた。
「具教!!死ね!!!!」
そんな具教に、信長が刀を手に切りかかってきた。
「うおおおお!!危ない!!!」
間一髪、信長の斬撃をかわす。具教も慌てながらも刀を抜く。しかしおっかな吃驚であるし、そもそも人を斬るなどたとえゲームでも躊躇いがある。しかしそんな躊躇などお構いなしに、信長は再び切りつける。
ガチィーン!!
振り下ろされた信長の刀を、具教は自分の刀を受け止めた。
「ダメダメ死んじゃう死んじゃう!!」
「このまま、押し切ってくれるわ。往生しろ!!」
「父上、お逃げを!!」
共に突入した雪姫が助けようとするが、なにせ戦場で異常に目立つ鎧と女武者である為、雑兵がこちらに押し寄せているのだ。これに対応するのに手一杯になっている。
「ああもう駄目、力が……」
このまま押し切られそうになった時、突然「ある」軍団がこの戦場に押し寄せてきた……
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