第4話

「北の方様、お越しになりました」


どこからか声がした後、一人の美しい女が部屋に入ってきた。年は自分よりも少し若く、二十台後半ぐらいであろうか。着物もかなり上品な感じで気品がある。


俺は思わず見とれてしまった。しかし次の瞬間、その女が厳しい声をあげた。


「殿、この度の事は如何なるご存念でしょうか!」


えっ、なになに、何怒ってるんだろう。そもそもこの人誰だ?そういえば北の方って何処かで聞いたことあるような……


「殿の正室、つまり奥様ですよ」


モブが俺にそっと耳打ちした。ああなるほど、そういえば言ってたな。そうかこの人が俺の奥さんか……うう、絶対結婚出来ないって思っていたから、なんだか涙が出てくるな……


でも、いきなり凄く険悪な雰囲気だな。なんだこれは。


「姫の雪を戦場に連れて行くとは気は確かですか。何をお考えていられるんです!」


ああ、そう言う事か。そこまで考えていなかった。娘を危ないところに連れて行こうとしているからそりゃ怒るか……


「そもそも殿は……ガミガミ!!」


うう、なかなか怒りが収まらないみたいだ。おい、モブ、この時代の女の人ってもっと大人しいじゃないの?


「戦国時代の女の人は、結構逞しいですよ。猛将で有名な福島正則なんかも、奥さんに薙刀で追っかけられたみたいですし」


「うう……ゲームでもこんなに怒られるとは。でも、雪を武将で使いたいし、とにかく謝り続けて、落ち着くの待とう」


結局、一時間程怒られ、雪は我慢するけどもうこれ以上姫を武将にしないと約束する事でやっと収まって、北の方は帰っていた。ふー、やれやれ。


「しかしいきなり、夫婦仲が最悪になってしまったな。しばらく胃が痛い日々が続きそうだ」


「殿、北の方様のご実家六角家との関係もございます。くれぐれも粗相になされないようにお願いします」


鳥屋尾さんからも助言があった。恋愛ゲームだと会話に三択が出てきて、選べば大丈夫なんだけどなー


「これは戦国シミュレーションゲームですから、そんな都合の良いシステムないです」


(でも戦国シミュレーションゲームの割にはかなり脱線してるぞ)


俺はモブを睨みつけた。まあとにかく雪は武将にしたし、今川や外交の結果出るまで遊んでいよ。でもネットもゲーム機も無いんだよな、この時代の人はなにしてたんだろう。その時、モブが咳払いを一つしてから俺に話し始めた。


「ゴホッ、、言いにくいことなんですが、これから殿を特訓していきますので遊んでいる時間はないです」


俺は驚いてしまった。とっ・・・特訓!なんでそんなのしないといけないんだ!


「とりあえず剣術と乗馬、あとは兵法からやりますか。戦の時に馬にも乗れないと逃げることも出来ないですし」


「うっ、そういうことか。たしかに俺なんにもできないからな。もっと手軽に馬術のスキル貰えたら乗れるとかないの?」


モブがプッと笑う。こいつ、ほんとやな奴だな。


「そんなシステム、ゲームじゃなるまいしありませんよ。身体で痛い思いしながら覚えていかないと」


「ゲームっていってただろ。うう、痛いのは嫌だけど、死ぬのはもっと嫌だしやるしかないか。逃げる時か……ツインターボみたいに逃げたらいいのかな」


「そんな昔の馬、年齢が三十歳以上の競馬ファンしか知らないですよ。ここはメジャーにマチカネタンホイザにしときましょう」


「もっと分からないだろ、そんな馬!ってかそれ〇〇娘知識じゃないか……そうだ、競馬場作ろう。ちょうど娯楽もなかったし、うんつくろう」


俺は鳥屋尾さんに競馬場を作るように命令した。イマイチよく分かってなさそうなんで、建設には俺も手伝うことにした。


「馬術の次は剣術をやります。史実だと北畠具教は剣豪なんですが、今の貴方は……プッ」


「うっうるさい。いちいち笑うな。やりますよ、俺だって斬られて死にたくないし。でも流石に真剣じゃないよね」


「私もそこまで鬼じゃないですよ、木刀でやります、ニッコリ」


こいつ本当にいやらしい笑い方するな。イライラ。


「ニッコリじゃねえよ、木刀なんかでやったら骨折しまくりだろ。竹刀にしろよ!」


「竹刀はまだこの時代は一般的じゃないんで、まあ木刀にしましょう、ニッコリ」


モブの奴、遊んでやがるな。くそっ、剣の腕が上がったら、たたっ斬ってやる!とにかく竹刀でやる事にして、ついでに家中でも竹刀で訓練させることにしよう。


「あとは兵法なんですが、これは私が分かり易く解説した物あげますんで、それを読むことにしましょう。古文から教えてたら、ゲーム終わってしまいそうですし、殿はアホなんで」


「うんうん、よく分かって……アホとはなんだ、ストレートに言いすぎだろ」


「まあまあ、とりあえず孫子、三略、呉子、ドラッカーあたりからやりますか」


「なんか時代も国も違うのが混ざってるぞ……あっそうだ、学校を作ってそこで勉強をやろう!絶対に女の子も入れるように。制服は俺が決めるからな!」


これも鳥屋尾さんに作るよう頼んだ。この時代にそんな学校ないので、かなり困惑している。


「制服の丈はどうしょうか……着物だからな、うーん、どうしたら可愛いのできるかな」


「殿、本気で気持ち悪いです……」


「あの暗黒の学校生活を自分色に塗りかえれるんだ、テンション上がるだろ!」


(一体、どんな学生生活だったんだ……あと、勉強するってこと忘れてないか・・・)


そんなこんなで、俺の新しい生活が始まった。俺はこの時代の色々な事を、モブが教えてくれた。まあしょっちゅうサボって、その都度捕まったが……


しかし、思わぬ効果も出てきた。俺が作った競馬場は新たな娯楽をもたらし、わざわざ京都から人が来たりしてかなり賭博収入が生まれた。又、優良な馬が伊勢の国に来るようになり、馬の質も上がり始めたらしい。


竹刀が普及して、予想より高く訓練度もあがったらしい。あと、学校から優秀な人材を北畠家に送り込むことにした。そしたらかなり人が集まってきた。実力で登用されるから、みんな必死に勉強してる。うう、俺の楽しいスクールライフをする為に作ったのに、みんな相手にしてくれない……


でも、その時俺が知らないところで策謀が始まっていた……






ある夜。月も雲に隠れて、漆黒の闇がこの世界を包んでいる。北畠具教の弟……この木造具政の屋敷も例外ではない。その屋敷の前に一人の僧侶が立っている。


(世俗の事から離れ、僧侶になった私になんの用だ。なにか嫌な予感がする……)


彼の名前は北畠具親。彼も北畠具教の弟で、今は出家して僧侶をしている。


(しかも内密に会いたいとは・・・)

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