冷たい弾丸は桃色に染まる

御厨カイト

冷たい弾丸は桃色に染まる

クールな彼女は僕を気に入っている。


「ふぅー……やっと終わった。相変わらずアイツの話は長い」


「アイツって言わないの。一応上司なんだから」


「ふん、実力なら私の方が上なのに。というかそもそも私は夜型なのよ。こんな朝っぱらから活動進捗が聞きたいってバカじゃないの」


「まぁまぁ、そんなことを言わずに。今日はもうこれでお仕事終わりだからさ」


「そうね。……ちょっと吸っていいかしら」


「どうぞ」


「それじゃあ、失礼して。……君も吸う?」


「うーん、それじゃあ貰おうかな」



俺がそう言うと彼女はにっこりと笑って煙草を差し出す。

ついでに火も。



俺らはハァーと煙を吐きながら長い廊下を歩く。



「いつもありがとね」



彼女は不意に言う。



「……いきなりどうした?」


「ん?いや……そろそろ君とバディを組んで1年でしょ?色々今まであった事を振り返ってみたら君に支えられたことばかりだったから、不意にね」


「……」


「どうしたの?そんなに黙り込んで?」


「いや、君がそんなことを言うなんて珍しいなと思って」


「それはすいませんね。普段からお礼を言ってなくて」


「い、いや、そんなつもりで言った訳じゃないんだけどね。でもこちらこそありがとう。俺と1年も組んでくれて」



俺がニッコリと笑顔でそう言うと彼女はポッと頬を染める。



「……どうした?顔赤いよ?」


「や、やめろ……こっち向くな」


「え、でも」


「いいから、こっちを向くな」


「わ、分かった」



それから少しの静寂が流れた。

いまだに彼女は顔を伏せている。



少ししてから諦めたような顔で煙を吐きながら彼女は言う。



「ハァー……君とバディを組んでから私はおかしくなった」


「何が?」


「君について考えることが多くなったし、考えるたびに胸がきゅんと痛くなる。こんなことは今までなかったのに」


「……」


「まぁいいや。らしくないことを言った。忘れてくれ」


「あ、ああ、分かった」



それからまたしても少しの沈黙が流れる。


うむ……こちらとしては少し気まずいな。

多分彼女は俺に好意があるのだろう。

だが本人はそれに気づいていない。



……まぁいいか。

本人が忘れてくれというのだから忘れよう。

うん、そうしよう。



「なぁ」


「ひゃいっ!?な、なんだ?」


「……どうしたんだ?そんなに驚いて?」


「い、いや、なんでもないよ」



どうも忘れることはできなかったようです。



「……で?どうしたの?」


「さっきも言ったけど私たちがバディを組んでそろそろ1年だ。それで、バディ契約の更新をするかどうかの日も近づいている」


「あぁ、そうか」


「それでだ、私とのバディ契約をどうするのかというのを君に聞こうと思って」


「なるほどね。……君はどうしたいの?」


「えっ、私!?」


「うん、君はどうしたいのかと思って」


「わ、私は君と………………」



……なんかすごい小さな声でもごもご言ってる。



「えっ、なんだって?もうちょっと大きな声で喋ってほしいんだけど」


「っっっっ!……だからっ!私は君とこのまま契約を継続したいって言ってんの!」


「どうして?」


「どうしてって……君と組んだこの1年が楽しかったって言うのもあるし、今まで組んだバディの中で達成率が一番良かったからね」


「そうなの?」


「あぁ。言ってしまえば私にとってバディというのは重りだったんだ。単独でやった方が達成率が高い時もあった」


「へぇー、そうなんだ」


「だけど君と組むようになってからはほとんどの依頼を達成できるようになった。なんだったら不可能と言われていた敵組織の幹部の暗殺もできた」


「あぁー、確かにあれは大変だった」


「だから私は君とバディ契約を更新したい。でも君からしたらとてもリスクのある選択だ。私はこれからもこのような難しい依頼ばかりを受けていく。難しいということは命を落とす可能性が高いという事でもある。だが私はこれでも一流のスナイパーだ。君の命は絶対に守る。だから――」


「いいよ」


「更新してもらえないか……えっ?」


「いいよ、更新しよう」


「ホ、ホントか!……で、でもそんなにあっさりと決めて良かったのか?」


「あぁ、なんだったら最初からそのつもりだったから」


「そ、そうだったのか。それはありがとう。嬉しいな」


「それにこっちも一流の暗殺者なんだ。自分の命は自分で守れるし、君の命もこれまで通り守ってやるよ。だからそんなこと気にすんなよ、バディ」



俺がニカッとした笑顔で言うと彼女はまたしても頬を桃色で染める。

だがその顔で一呼吸して俺と向き合う。



「本当にありがとう」


「いやいや、それはこっちのセリフだよ。そんなに俺の力を買ってくれているなんてな」


「まぁ、確かに普段こういう話はしないからね。というか別に買っているわけじゃない。君と1年近く共にしてそう思ったからそう言っただけだ」


「そうか、ありがとうな」


「うむむ……ホントなのに……」


「ハハハッ、分かってるよ」


「そうか」


「うん」


「じゃあ、これからもよろしくね、バディ」


「あぁ、こちらこそ」



そうして、俺らは固い握手をする。



「そうだ、せっかくだから久しぶりの一緒にご飯に行かない?」


「良いけどどこに行く?」


「うーん、そうだな……この間行ったレストランが良いな」


「あぁ、前に依頼達成祝いで行って俺が奢ったあのレストランか?」


「そうそう」


「確かにあそこの料理は美味しかったからな……オッケー、じゃあそこに行くか」


「そうだ、今回は私が奢ろう」


「いいのか?」


「あぁ……と言うかどうせ私は今回もお酒を飲む。そしてお酒を飲んだ私がどうなるか、君は知っているだろう?」


「仕事に関しての愚痴が止まらなくなる……?」


「そう、だからこれはいつも嫌な顔せず聞いてくれる君に対しての迷惑料さ」


「別に俺は迷惑だとも苦だとも思ってないけどな。逆にそういう事を気兼ねなく吐き出してもらえるような存在になれたことが嬉しいよ」


「……ぬぅ……ホントに……君という奴は……」



そこで彼女は立ち止まる。



「うん?どうした?……手でも繋ぐか?」


「……なっ、なっ、何を言ってんだ君は!」


「いや、何となく」


「も、もう、やめてくれ」


「ごめんごめん。それじゃあ気を取り直して行こうか」



俺が「ちょっと残念だな」と思いながら歩き出そうとした時、彼女は黙って手を差し出してくる。



「……えっ?」


「手、繋がないの?」


「嫌じゃないのか?」


「……嫌じゃない。だから繋ぎたい」


「フフッ、分かった」



そうして俺は彼女と手を繋ぐ。

繋いだ瞬間、彼女は頬を赤らめながらも花のような笑顔になる。



「じゃあ、今度こそ行こうか」


「えぇ」





そうして僕らはレストランに向かうことにした。






お互いの体温を感じながら。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

冷たい弾丸は桃色に染まる 御厨カイト @mikuriya777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ