明け方、3番線で

日朝 柳

夏色

夏の朝は早い。真っ白な太陽が水平線から顔を覗かせる午前6時、カーテンのレースから漏れる光で目を覚ました私は溜息を零してベッドから起き上がる。

「おはよう」

朝食の準備をする母の挨拶を適当にあしらって洗面台に向かう。相変らずの寝相の悪さで私の髪は寝癖で跳ねている。

「また治さないと」

ドライヤーのコンセントを差し込み、眠たそうな自分の顔を見ながら寝癖を治す。

テーブルにあったおにぎりを食べて、私は部屋に戻ると、「ちゃんと食べなきゃ夏バテになるよ!」という母の声がしたが私の朧気な耳には届かない。

壁に架けてある今どき珍しいセーラー服に着替えて、鏡で容姿を確認する。

「よしっ」

鞄を持って階段を降りる。母は弁当をテーブルの上に置いてくれていて、それを鞄に入れると、家を出た。

「いってきまーす」

「気をつけてね」

いつもと同じように向かう駅のホーム。ホームのすぐ外が砂浜のこの駅は、電車もあまり通らないから波が打ち付ける音が響いてくるからとても気に入っている。

携帯を開くと時刻は7時。もうすぐ彼が来る。そわそわしながら、それでも平静を装って足をバタバタとする。

ピッ。

改札を通る音がして顔をあげると、彼がいた。こちらに気づいて手を振ってくれた。

「あっ」

慌てて手を振り返すと、優しく微笑む彼。

この2人だけの時間が愛おしくて切ない。

向こうのホームに行けば会えるのに、その距離が何処か遠く悠久の彼方にあるようで届くことはあるのだろうか。

やがて向かいのホームには列車がやってくる。扉を閉める蒸気のような音が鳴って、列車は再び走り出す。そこにはもう彼の姿はない。

「あーぁ。また行っちゃったな」

声を掛けられずにもう数ヶ月。彼の声もまだ聞いたことは無い。

子供の少ないこの町で、つい最近引っ越してきた彼が話題に上がらない訳もなく、オマケにかっこいいときた。幼なじみ3人とはすぐに彼のことでもちきりになったのは言うまでもない。

「俺と友達になってくれねえかなぁ」

「私たちがいるじゃん」

「男友達がいいんだよ。俺の憧れなんだ」

友達の瑞希と千紗は彼が引っ越してきた翌日から学校では彼の話ばかりしていた。

「私も、友達になってみたいかも」

「ほらな?お前は一人寂しくしてろ」

「なんだと?この〜!」

という感じでいつもいる私たちは、高校でも大して変わらない。その地区の中学が全員もれなく高校も同じというような学校のせいで、私たちは半ば転校生みたいな扱いを受けていて、こんな感じで過ごしていたらその隙間はいつの間にか広がっていた。それでも、明るい性格の2人と大人しい私とでは随分違う。今も、クラスメイトに挨拶を受けるふたりに対して私に声をかけてくる人は少ない。

そんな私を見越してくれていたのか、2年になっても私たちは同じクラスだった。


私はやってきた電車に乗って、終点まで静かに目を瞑った。

「あー!瑞希のせいで遅刻じゃん!」

「いやお前が忘れ物したからだろ!」

改札口で口喧嘩をする彼らの声で目を開く。車窓から覗くと「待って〜」と手を伸ばす千紗の姿が。ふふっ、と笑みを零して笑うと電車はゆっくりと動き出す。

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