33話 死にかけたことってあります?
「待って、二人とも。ありがとう。二人は命の恩人って、ねえ待って! 名前と連絡先を教えて。是非ともお礼をって、だから待って! 一回止まって、なんで逃げるの。一回ちゃんとお礼を言わせて、マジで待って! なんで逃げるの! 待ってー!」
追いすがるおばさんを振り切って、僕と
崩落の音を聞きつけて駆けつける人達に逆行し、小道を曲がり、大通りを通り抜け、焚火の煙を細く空に伸ばしていた小さな神社に飛び込むと、
「大丈夫だった、
振り返った多喜さんはもう泣いていた。
「ごめんね、ごめんね。生きてるよね? 怪我はない? 痛いところはない?」
「はい、大丈夫です。多喜さんこそ怪我はないですか?」
「本当にごめん。怖かったよね? 痛かったよね? ああ、ごめんなさい」
「多喜さんもこけましたよね? 足は平気ですか?」
「ごめんごめんごめん。わたし、どうして。ああ、本当にごめんなさいごめんなさい」
「ちょ、ちょっと待って! 落ち着いて、多喜さん」
何で、多喜さんが謝ってるんですか。
悪いは完全に僕だろう。
スーパーヒーロー活動中にも関わらず物思いふけって自転車を通し、あまつさえパニくって突っ走り二人の命を危険に晒した。
どう考えても謝らなければいけないのは僕の方なのに。
「海堂くんは悪くないの。全部わたしが………わたしなの、ごめんなさいごめんなさい」
何で多喜さんが泣いてるんだ。
「おかしいですよ。謝らないで、多喜さん。泣かないで」
「違うの。わたしが……わたしが……わたしのせいなの」
何度言っても何を言っても多喜さんは聞き入れようとせず、ついには石畳に膝を着いて泣き始めた。
「ああ、馬鹿っ!」
ただ、それも一瞬だけ。
多喜さんはすぐに立ち上がり、両手で思い切り自分の頬を叩いた。
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿っ! 泣くな。慰めてもらおうとするな、バカっっ!」
力一杯、何度も何度も。
「ちょっと、多喜さん」
「待って! ちょっとだけ待って」
多喜さんは眼球ごと毟り取る勢いで涙を拭うと、最後の一滴を追い払うように空に向かって息を吐き、
「もう、やめよう………こんなこと」
真っ赤な目を僕に向けてそう言った。
「え、やめるって」
余りにも唐突な言葉に、全く理解が追い付かなかった。
「やっぱり始めからおかしかったんだよ。こんなこと海堂くんに手伝わせちゃいけなかったのに。海堂くんに頼るのだけは絶対に違ったのに。ごめんね、わたしのせいで」
「待ってくださいよ。急に何を言い出すんですか」
「急にじゃないの。ずっと考えてたの。こんなわたしの我儘に海堂くんを付き合せちゃいけないって。こんな関係絶対におかしいって。もうやめにしなきゃって、ずっと思ってたのに。ごめんね、わたし本当にバカだ。何を楽しくなっちゃってたんだろう」
「やめてくださいよ。これは僕が自分で言い出したことなんですから。多喜さんが悪いわけないです。謝らないでください」
「でも、海堂くんはこんなことになると思ってなかったでしょ? 海堂くん今………今、死にかけたんだよ」
――死。
その言葉を意識した途端に、記憶が一気にぶり返した。
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