裏切りの免疫

初月・龍尖

裏切りの免疫

 

 セカイは”そういうものだ”と理解してしまった。

 その事実を獲得してしまったらもう止まらない。

 坂道を転がり落ちるように下へ下へと少年は堕ちて行き、最終的に辿り着いたのは名前も言葉もわからない土地だった。

 そこに辿り着いた時、少年は青年になっていた。

 

 灰色の空が辛うじて見えるほど建物で詰まった街に青年は住み始めた。

 好きな時に寝て、好きな時に起きて、好きな時に食べる。

 青年はこの街に住み始めてからもそんな暮らしを続けていた。

 そんなある日、彼は女を拾った。

 元々どんな顔だったのかわからないほど顔をはらした女だ。

 乳房は半分つぶれ髪は焼け焦げていた。

 加えて喉が潰されていたので服を脱がしてみてようやく女だとわかったのだった。

 青年はこのひろいものをどうしようか迷った。

 イキモノを飼うなどやった事がない。

 食べようにも美味そうに見えない。

 さんざん悩んだ末、部屋の片隅に追いやってしまうこととした。

 奇妙な家具としてそれを置いておく。

 昼夜構わずうめき声をあげる変な家具である。

 なぜだか捨てるという選択肢は出てこなかった。

 

 奇妙な家具を室内に設置しても青年の生活は変わらなかった。

 ある暑い日の正午、青年が帰宅すると部屋が荒らされていた。

 正しくは撤去されていた。

 そして、青い服を着た男たちに取り囲まれた。

 

「―――――――――!!」

 

 男のひとりが大きな音を立てる。

 それを合図に青年は地面へ倒された。

 ひたすら暑かったのに加え、腹が減っていたので彼には抵抗する気力がなかった。

 

 ひんやりとした部屋に押し込まれ青年はやかましい音を聞き続けた。

 毎日食事を食べられるなんてここはすごいところだな、と彼は思った。

 気が付いたら白い部屋にいた。

 身体全体を縛られ動けなかった。

 時間が経つにつれてぼんやりとしか働いていなかった頭が回転を始めた。

 記憶の断片が時間をかけて繋がってゆく。

 

 思い出す量が少しずつ増え青年は吐くようになった。

 今まで自分がしてきたことを、思い出して吐いた。

 すべてを吐き終わる前に、彼は死んだ。

 

 自らを裏切ろうと吐く事を彼の体はよしとしなかった。

 青年は他人事だった自分の事、自らの裏切りに過剰に反応してしまった。

 セカイに裏切られた青年は裏切りに対する免疫を獲得していたのだった。

 

 

 

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裏切りの免疫 初月・龍尖 @uituki

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