ここは魂力発電所

【2025年 世界同時配信】


エス、ゼッ……ケ~~~~♪


どうも皆さんこんにちは。三途川電気です。


このたび、わが社はある画期的な発電システムを開発しました。

新しいエネルギーを用いた発電。その名もォォォォ……(仰々しいドラムロール)デンッ


魂力発電こんりょくはつでんです!!!


魂の存在は古くから世界中で信じられてきましたが、観測ができないために非科学的なものであるとみなされていました…………

しかし!わが社の研究チームが魂の観測、そして干渉する物質を開発したのです!


魂の研究を進めるにつれて、私たちは死体ひとつからでる霊体の体積がとても大きく、強い力で上に登ろうとする性質があることを発見しました。

そのため、死体を一か所に集めて上部に霊体干渉プロペラを設置すれば、立ち上る膨大な体積の魂がプロペラを高速で回し、莫大なエネルギーが得られるんですねぇ。


環境汚染が心配?魂は基本物体に干渉しないので

死体のスペースはどうするのか?強力な溶解液で霊体を切り離すと、死体の物質的な体積は1/10000にまで小さくなってしまいます。なので

コスト?燃料は基本死体と溶解液のみなので、とーーってもローコストなんです。


ヒトに宿る魂、これは無限のエネルギーを生む夢のエネルギー────


(ジャングル、サバンナなどの野生生物と、工場から出る煙の映像がつづけざまに切り替わる)(感動的な音楽が動物への同情を誘う)


イエスエネルギー、ノー死体。私たちはクリーンな世界へ!!


「「「S.Z.K.」」」


三途川電気がお送りしました。


<とある霊媒師の独白>


トラックがせわしなく発電所と病院を往復する。

味を占めた巨大企業は死刑囚までも施設に収容していく。

死体は魂の接続を解いて、自然による風化よりもはるかに早く朽ちていく。

第三隔離障壁が横方向への霊体の漏出を防ぎ、どろどろとしたアレはただ上へ登っていく────


天使の取り分、か。


ワインで済んでいた天使への献上品がヒトの魂に成り代わったが、魂は彼らにとって好物なのだろうか?

上ったが落ちてくるのは見たことがない。見える霊もめっきり減ってしまったし、この仕事もそろそろ潮時なのかもしれないな。

そういえば最近、頭が良く回らない気がする…………先月よく降った変な色の雨のせいだろうか。


────【2154年4月 月末報告書】

日本███県上空高度120kmで黒い雲のようなもの(以降黒雲と呼称)が衛星写真で確認されました。

通常の雲ではありえない高度と性質をもち、直径は100mほどであらゆる光を通さず、内部の構造は不明。

無人偵察機は全機原因不明の故障により墜落しています。

衛星映像を分析した結果、黒雲の表面をが埋め尽くしています。



────【2154年5月 月末報告書】

黒雲の直径が発見時と比べて2倍ほど大きくなっています。

巨大化の原因は直下に位置する███県魂力発電所こんりょくはつでんじょから立ち上る霊体エネルギーによるものだと考えられます(当発電所は2025年から稼働している世界で最古の施設であるため、世界で稼働している同型の発電所も黒雲を発生させる危険性がある)。

発電所の稼働停止を申請していますが、魂発電によるエネルギーを停止するとなると都市部の35%が機能停止し、発生する死体の安置所をすぐに確保できない……などの無数の問題があり、発電所が原因であると明らかに断定されるまで稼働停止の許可が降りない可能性が高いです。

現在、宇宙環境下認定済の”虚数基陽電子爆弾きょすうきようでんしばくだん”の使用許可を申請中です。



<とある研究者の独白>

「成長、しているのか?」



────【2154年6月 月末報告書】

オペレーション-夜明け-が発令されました。

空軍から選り抜かれた精鋭15名で構成した特殊部隊により、黒雲付近(事前の無人機の偵察により2km圏内に入ると計器のノイズが激しくなるため、2.5kmほど)まで接近し、陽電子爆弾を射出して消滅させます。

陽電子爆弾内の計器が狂うことが予想されるため、相対時限装置を組み込み、衝突の寸前に起爆させます。

黒雲直下にあたる██県の住人は全員5日以内に近隣の県へ避難させます。

消滅後の後処理は周囲に待機させている無人機が対応します。



────【2154年6月 月末報告書】

作戦は失敗しました。

黒雲は爆弾に反応して表面の目を集中させ、無数の目が集まり赤色の口に変化して黒雲内部に爆弾を取り込まれ、無力化されました。

爆発により黒雲の一部が削り取られたため、構成する”目”を32個、付着している謎の泥状の物体2.2kgを回収しました。現在███県█研究所にて上空1kmに近い気圧、気温下に調整した隔離し、分析中です。

形状は人間の目玉に酷似していますが大きさが人間のものより一回り大きく、重量は21gで直径は30mm程度であり、自発的に黒目の部分から電波ノイズと未解明の粒子を放出しています。

泥に目立った毒性はないが、電磁波などを受けつけないため分析は難航しています。

次は米国の支援により”二極放電装置にきょくほうでんそうちVHT”が投入予定です。



<とある喫煙所での会話>

「どうします?」

「あ?」

「暴動ですよ。黒雲難民が移住先で大暴れしています。まあ厳密にいうと移住先の住民との対立による暴動ですけど。このまま戦火が拡大していけばこんな規模じゃ済まないかも。今のうちに食い止めないと」

「あー……まあ倫理指向剤二型でも雨に偽装して散布しておけばいいだろ。…………くく…今更暴動か、倫理観も価値観もなにもかも100年前から処理薬でいじってるってんのに。滑稽なことだな」

「了解です。申請上にだしておきます」

「いやーまさか陽電子爆弾が効かねぇとはなあ。中国がなにやらあわただしくしているが、ローマもそろそろ虎の子出してきそうだな」

「なんかありましたっけ?」

「鎖だよ鎖。第三次世界大戦で2000万人丸ごと塩の人形にしたアレ」

「あれ……?たしか今イギリスに保管されてた気が」

「えっそうなの!?教皇よく手放したな」

「単純に経営難っスよ。ヨーロッパでの魂力こんりょく関連の利権はイギリスが握ってますから」



────【2154年7月 月末報告書】

中国政府より供与された”竜頭花胞子迫撃砲りゅうとうかほうしはくげきほう-荼毘だび”、”試作型崩壊光しさくがたほうかいこう三十六分儀ぶんぎレーザー”。英国政府供与の”神格高塩鎖しんかくこうえんさ”による破壊作戦はすべて失敗しました。

また、黒雲の直径が1kmに到達。

直下地域での魂発電所は7月に停止しているため、原因が別にあるのか、または発生の原因が魂力発電所であっても巨大化の原因は別にあるのかもしれません。



<とある蜂起集会ほうきしゅうかいの演説>

(録音の再生を止める)


聞こえただろうか?これが政府がひた隠しにしていた緑色の雨の正体だ!!


我々の価値観を、倫理観を、心を、頭を……忌むべき科学の薬品で書き換え、人として最後の砦である我々のをわが物顔で踏みにじった奴らを断じて許さない!!


そうだろみんな!!!


いまこそ、いまこそ立ち上がる時だ!!!!


科学の使者どもは根絶やしにしろ!!!!!!!!!!


(小銃を突き上げる)




────【2154年8月 月末報告書】

黒雲の巨大化のペースが世界の死者数に相関性があることが判明しました。

黒雲内部から放射される電波ノイズ放出源の増加量が一日の世界の死者にほぼ対応しています。



────【2154年9月 月末報告書】

泥の組成が虚式顕微鏡による観察によって明らかになりました。

色や先述の特異性など異なる要素がありますが、大部分はクリオネの細胞と酷似しています。

極小の細胞(クリオネの細胞の1/2000程度の大きさ)の内部は脈動しており、宇宙線を直接エネルギーに変換する機構があるため、細胞単位でエネルギー供給が完結した微生物の集まりのようなものと推測されます。



<とある会議室の討論>

「イギリスの鎖で仕留めきれなかったのは予想外ですが、表面が塩化して体積が1割ほど減少したのは大きな成果です。……おそらくあの黒雲は群体で活動する生物であり、鎖や荼毘だびの毒は表面のみ切り捨てることで耐えたんでしょう。9月の分析結果からもそれは明らかです。対象は陽電子爆弾とVHTを真っ向から無効化する生物であり、鎖や毒は効くが、表面を軽く削るだけに終わる………こうしている今も体積は増加し続けていますが、一定の増加のペースを崩す傾向が見られないことから、この巨大化は攻撃に反応した再生機能ではないと考えられます」


「…………要はこちらの攻撃に対して全く意に介していないと?」

「おそらくは」

「「「………」」」


(10秒程の重い沈黙)


『ちょっとぼくからよろしいでしょうか~?』

(会場の目線がプロジェクションマッピングで3D投影された、やせぎすな褐色の青年に集中する)

「あなたは……」」

『ああ申し遅れました。生き物を用いた新兵器を開発している、”生体創成所”所長のワイズです』

(軽く会釈をして、反応を待たずに続ける)

『この黒雲ですが、先ほどのそこの方がおっしゃったように、群体の生物なのは間違いないでしょう。そして、地球の魂があの雲に送り込まれて雲内で無数の生命が増加していき、結果黒雲は一種の。死んだ魂が生きたままとどまった、いわばになっているわけです』

「これまた突飛な……だからなんだっていうんだ」

『私達は仏教を基盤とした兵器を開発しているのですが、今回の黒雲を仏教の考えに当てはめると、強引に認識することができます』

「話が見えてこないな」

『………と、いうことは黒雲内部でと私たちは考えています。つまり新兵器によって』

(顎をひん曲げたような顔をした白髪の博士が話に割り込んでくる)

『はい。新開発の特殊溶液を用いて黒雲全体の輪廻円環を溶かした上で、本来必要な苦行を人間が肩代わりし、黒雲を強制的に解脱させます』

「仮説に仮説を重ねているが、根拠はあるのかね」

「採取済の泥2kgに試したところ、大きな不可聴の超音波を発しながら跡形もなく消滅しました」


「「「おおー!!!」」」


「本当か!」

「ただ黒雲全体をすべて葬送するとなると、どんなに急いでも溶液………”輪廻溶解液”を量産するのに20日かかります」

「それなら問題ない、中国の新兵器がまだ残ってる。多少削るくらいはできるだろう。溶解液が完成さえすれば、すぐに大軌道の宇宙ステーションから射出するよう手配しておこう」

「肩代わりさせる人間は?」

『それなら問題ありません。超能力部門の研究で使用していた双子のデザインベビーを流用し、こちらですでに作業を進めています』

「やけに準備がいいな」

『双子はあらゆる兵器で儀式的な意味をはらむので。極めて丁重に扱っているんですよ』



────【2154年10月 月末報告書】

黒雲が成長し直径が1kmを超えだした5月12日12時52分より、人体に非常に有害な波長の光が放射され始めました。

これを受けて世連は日本列島の完全な廃棄を決定、これより人工衛星による映像は有害な波長を取り除いたうえで観察を行うものとします。



<とある10m*10m*10mの靭化プラスチック製立方体内部の会話>

「僕ら、間に合うといいね」

「そうだね」

「管いっぱいで痛いし苦しいけど。他のみんなが死んじゃうほうがもっと嫌」

「みんな?私は他の奴らなんてどうでもいい。アリシャとキミだけ生きていればいいよ」

「アリシャって白い服のアリさん?…………そうかな……ぼくもそうなのかな」


「きっとそうだよ」



────【2154年11月 中間報告書】

泥の分析を行っていた研究所が跡形もなく消失しました。建物の残骸はいまだ発見できず。

行方不明者は研究員や警備員などを含め258名に登ります。



<とある研究者の日記>

どこから間違えたのだろうか。情を入れたらだめになるってわかっていたのに。いつのまにか出口のないトンネルに迷い込んでしまった。

仮に私が20代で子供を産んでいたら、あの子達位になるのかな。前の研究で抱きしめてあげた体温が、今もまだこの腕に残ってる。

あの子たちの苦しそうな顔を見るのがつらい、悟らせまいとしたひきつった笑顔を見るのがとてもつらい。

みんなの前では頑張って淡泊にしていても、もう耐えられる気がしない。喉がひきつったまま取れなくなって、最近食べ方を忘れてしまった。

ドロドロしたなにかがずっと胸の奥で渦巻いていく。

あんな歳の双子に世界の命運を背負わせるなんて絶対に間違っている。


でも全部台無しにする覚悟も、あの子たちを攫ってどこまでも逃げる勇気も、私は何も持っていなくて。






卑怯な私がどんなに泣いても、なにも解決なんてしないのに。




────【2154年11月 月末報告書】

黒雲下部に大きな口が開き、中から黒い液体が流れだしています。粘度が大きく、空中で霧散することなく地上まで直線状に落ちているようです。”温冷乖離”を用いて対象を凍結させながら侵攻を押しとどめます。対策本部はアメリカへ移転予定です。



<とある上空120kmの蠢き>

████████星███████████████████████肉███████████████████████████████████████████侵食██████████した█████愛███████████████████として████████████████████████████████████████████████████████████████████████████████████████████████████████████████████擁███



────【2154年12月 中間報告書】

生体創成所にて作成していた”輪廻溶解液”の材料となる”双生児螺旋苦粉体”は、創成所へ流れ込んだ武装集団により検体が二名共死亡したため、作成に失敗しました。

次弾投入の兵器は未定です。


────【2154年12月 月末報告書】

世界各地の魂力発電所上空で黒雲の目撃情報が相次いでいます。

発現順は、発電所稼働開始時期に対応していると考えられます。


────月末報告書が提出されていません



────月末報告書が提出されていません



────【2155ねn

効かなかった。何も聞いちゃいなかった。終わりだ全部。どろから出てきた気持ちの悪い目だらけの天使がどこもかしこも飛び回ってやがる。俺は非常電源を頼りにこれを書いちゃいるがほとんど意味なんてない。どうせ誰も読みやしないんだどうせやつらにとりこまれる、。やつらの甲高い声がこびりついて離れないくそ、クリスピーがたべたい。肥えた肉の天使どもの血だらけの羽がそこら中に見える。ぎょろぎょろとした目が侵食してきやがる。窓が煩い。こわくてもう外はみれない。ああ、ズッキーニたっぷりのハンバーガーがたべあtq



────月末報告書が提出されていません


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────月末報告書が提出されていません


────月末報告書が提出されていません


────月末報告書が提出されていません


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