砂漠は彼方 衛星は大海原へ

 女A「あ、思い出した聞いてよねぇ、昨日空で5色の線が走ってたんだよ!バーッて!!なんだろあれ」

 女B「え、まじそれ。私も見た。昨日の〜……50時くらいじゃね?」

 女C「あー夜かぁ、あーしサタランやってたわ」


 女A「女B「」」女C女ABACCA………



 今日も窓際で仲良し3人組がどうでも良いことをペチャクチャと……え?女性の呼び方がぞんざいで印象が良くない?

 名前なんて覚えらんないね、AだのCだのでいいんだよ全く。川井だったか戸田だったか水沢とかだった気がするけど全く覚えられない。どうせ俺みたいな奴は一生関わり合うことなんてない人種だからな。名前を覚えるのも、”メモリの無駄遣い”ってやつだ。

 まあ、あいつらの脳内では俺なんてAとかBだとか高等な名前を与えられることもなく、無名のまま卒業するんだろう。

 ……それはそれでコードネーム0感があって良い気がする。なんか燃えてきた。あいつらには全く萌えてないけど!


 過剰なモノローグも佳境を迎えた頃、黒野が耳元で囁いた。


「今日テティスが衝突する。祈りはすませておけよ」

「あ?」


 同時に朝の鐘が鳴り、黒野はニコッと笑ってそのまま席に戻っていった。



「昨日から地球との通信が途絶えてるらしいです。まぁ磁力線の影響で日常茶飯事なのでプチニュース、ですね。今日はティオネ歴1656年2月17日、1時限から体育です。第3コロニーまで列車で向かいますので、10分以内に1Fの列車まで集合するよーに」


 星野先生は出席を目線でざっと確認して、連絡事項だけ告げて去っていった。


 着替えと生徒カードをいそいそと圧縮ボックスに詰めて階段を降りると、表面がつるつるした列車が止まっている。今日は土曜日なので藍色と群青色がぬらぬらと移り変わっている。


 列車のドア前で物憂い表情で佇む黒野が気にかかったが、すぐに忘れてしまった。



 *



 列車はアウルンカ谷に架かる大きな橋を越えて隣のコロニーへ。

 見慣れた灰色一色の景色だけど、なぜだか今日は一抹の寂寥感を覚えた。

 途中計測器のバグで止まったりもしたけど、無事に20分ほどで到着。まあよくあることだ。みんな気にも留めない。


 


 思い切り伸びをして空を見上げる。今日は星がとても近い。大きく薄い輪っかが今にもこちらに降ってきそうで、渦巻いた目はどこを見るでもなくぬぼーっと呆けていた。



 …………テティスが衝突?まさか。そんなことあるわけない

 衛星の軌道は完璧に演算され予測されている。衝突する予測があったらすぐにアラームが鳴り響いて避難がすぐはじまるはずだし。


 思考は同級生の声で中断される。

「さとーとってくれ~~~」

「ん?あーりょーかい」

 声の方を見ると赤色のボールが大きな弧を描いてこちらへ飛んできた。

 僕は20mほどジャンプして、持っていた金属製の板で打ち返す。

「あんがとー」

 そのまま元の位置までぴょんぴょんと戻る二人組を見送る。


 見送る……見送る………

 ……なんだか疲れたな。


 僕だどうと音を立てて大の字に寝転んだ。


 グラウンドは真っ平に整備されていて、直接地面を触るとなんだか冷たい。地下で加熱装置が起動しているとはいえ、やはり地面全体を温めるのはかなりエネルギーを使うんだろう。


 僕はゆっくりと瞼を落とす。


 無だ………目を閉じれば全ての繋がりが消える。小さな箱に入って宇宙を漂うんだ。全ての雑音、雑光。嫌な刺激の全ては置き去りになる。上のあのどでかいお星様がどれだけ偉いのか知らないけど、僕が知覚しなければそれがなんだと言うのか。


 10分かそこらそのまま瞑想した後、上体だけ起こしてふと山の方を見ると、薄茶色の建物が視界に入る。


 神殿だ。とんでもなく大きい。その存在感で周りに威圧感を与える。


 周りには大きな輪が浮いて回っている。世界でドームで囲われてない数少ない建物だとか。

 わざわざ地球から土を運んできて作ったらしい。単純な造りの建物に見えるけど、時折壁が渦巻くように設計されている。内臓されたなんちゃらスクリューがそうさせるんだって。

 母がそう言っていた気がする。透明なヘルメット越しに見た大きな天窓は、色とりどりの見たことない生物で埋め尽くされてとてもきれいだった。

 家族で最後に参拝に行ったのは小学生のころだったか。大げさな防護服を着なきゃ行けないから面倒くさいんだよね。昔は卒業旅行で行く高校もあったけど最近は聞かないし、みんなそう思ってるんじゃないかな。


 授業終わりの鐘が鳴る。黒野の野郎……授業途中でブッチしやがった。



 *



 頭上で存在感を示すあの星は、地球ではと呼ぶらしい。僕らが住む星と同じく命名はギリシア神話。

 サターン?農耕の神?アホらしいや。土から生えるモノなんて天使や龍と同じファンタジーだよ。


 合成肉を食みつつ独りごちる。


「クロノっていいよなーこんな気分で早退しても学校から何も言われないし。前家遊び言ったら豪邸ってレベルじゃないTHE建・造・物ってのがでてきたもん。やっぱ本家は格がちげーな……サトウんちもでかいの?」

「あ?嫌味かよてめー。おれはごくフツーの集合一軒家住みだよ。父さんはしがない研究員だし。分家だから全然恩恵もクソもない」


「てか!クロノくんほんっっっっっっと美形でかっこいいよね!!!モデルみたいに鼻筋通っててぇ遠くからでもわかるくらい透き通った白い肌!!ファンクラブができるのもわかるわぁ」

 急に川井が漢同士の語り合いに茶々入れてき……いや近い近い近い近い!!香しい香りで僕の香車も田楽刺しですか!?!!?

「てかカワルカもモテるじゃん!クロノにアタックしてみりゃいいのに」

「お、おいやめろよ」

 友人がかなり軽いこと軽くを言う。でもこう言うやつがモテるんだろうナーッ!!(涙)

「え、いやいや、クロノくんはかっこよすぎて雲の上の存在だから。あたしに感情を向けるなんてそんな格の人じゃないの。あたしには無関心なのがクロノくんなのよ!」

 川井からの圧がすごく、顔を顰めながら窓の外を見ると、強化セラミック製のドームの向こう。土の星で雷がゴロゴロと蠢いていた。


 *


 男は祈りを捧げている


 五色の光が未来を告げた

 避けようのない滅びを見た


 だからせめてあの環に辿り着けるように

 土の星を囲む円環の砂漠へとみんなを送り届けるために



 鉛でできた独特な装飾品を身に纏い 

 首輪にはめられた6つの真珠は土星からの磁力を受けて震えている


 彼は祈り続けた


 それは地球のあらゆる宗派とも似ても似つかない

 知らずに見ればただの奇怪なダンスである


 生涯最後の舞は最高潮の盛り上がりを見せて 彼はヘルメットを外して天に向けて掲げた


 血眼で窓の大穴から神を見据える


 神とみなされたは13回巻いた目をゆっくりとこちらへ向ける……が 中心は闇よりも黒く冷えきり こちらには全く関心がないようだった


「足りなかったか」


 体中に激痛が走り 血反吐とともにゆっくりと沈む 白い肌が赤い球体をはじいて小さい粒になった 


 死体はゆっくりと凍りついていく


 

 ─────天窓は厳粛に崩れる


 *


「今日もこの国の歴史についてやりましょうか。ディオネ総世記7章の21ページを……」


 次の英語のレポート終わってないんだよなぁ内職しないと。周りをチラりと見ると、内職の集団就活が始まったらしく、同時に同職についた奴らがかなりいた。


「この問題を出席番号12……そういえば黒野君は早退ですか、じゃあ隣の佐藤!」


「いや初めに把握しとけよ!(すみません。わかりません)」

 ……

 ………

 ………………

 時間はゆっくりと過ぎていく。管理された風が髪をゆらして循環してゆく。

 授業中の15分ってとんでもなく長いよね。時計見すぎているんだろうけど。一日が60時間もありゃ15分なんて一瞬のはずなんだけどなぁ。

 地球の連中は一日が22時間しかないらしい。それはそれで短すぎンだろ……


 英語のレポートが大方終わり、ノートに板書を写しながら眠気がMAXになったころ、ふと川井…女Aにあたる川井ルカが外からの光を感じ、窓から身を乗り出して空を見上げた。


「あっ見て何か来

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