薄花桜
《そんなこと言うなよ》
とは言えなかった。とっさに否定しようとはしたけれど、自分も今そう思っていて、今までも同じことを考えていたからだ。
「思い残すことなんてなにもないな」
相手だけが口を開く。会話になんてならない。
これから、何十年も生きる意味なんてあるのだろうか?
これは自分の言葉ではないはずなのに、自分の思考ですべて独り言で、聞こえた声は全部自分由来に思えた。
慰めればいいのだろうか?普通の人で、一般の人で、常識的な人ならそれが正しいんだろう。そのあと彼女が死んでしまっても、慰めた人の責任になんてならないんだから。
でも慰めは一時的なもので。それも極めて刹那的で、意味なんてない。
意味のない言葉なんて彼女は望んじゃいないのだ。
今まで同じことを考えていて見い出せなかった意味を、この一瞬で出すことなんてできない。ただ仮に出たとして、今の一瞬で出たのならそれには価値がないんだ。ただの時間稼ぎにしかならない。
《自分で設定する余命程人間らしいものはないんじゃないかな》
そう言って彼女を幇助したくなる。肯定したくなる。
今目の前にいる彼女は今まで生きてきた自分を凝縮したようで……
結局これは自問自答にすぎないんだ。相手が求めない言葉なら無数に浮かんでも、肝心の意味がつながらない。
設定した余命で彼女が死ぬのを阻止したとしても、ただ無意味に後にずれるだけなのだ。例え彼女の生死がどちらに転んでも、この考えは続くだろう。彼女の行く末は僕に全くと言っていいほど影響を与えない。
ただ無言で立っている僕にこの場での意味も価値もなく、ただ空気があるべき空間を押し出している物体にすぎなかった。
物体だから生がない。だからこそ死ぬ必要もないのだから、今までよりは良い気がした。
コストをかけて大事にそこに在った”生きた物”は、コスト分の価値を生み出さなきゃいけない。そんな強迫観念があるからこんなことになるんだ。価値なんてあやふやなものに大きな意味を載せても、ただつぶれて道端の染みになるだけなのに。
……同じところで回っても仕方ないな。僕の悪い癖だ。
「」
僕が発した言の葉で、彼女の表情は
*
確かまだ残っていた気がする
……うんあった
白色に少し赤みがかかったゼリー
薄桜色のゼリー
おいしい。
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