第4話 地獄耳ってレベルじゃねぇよ!?

「え……? あ、あの~……?」


 気付けば先生を始め、教室に居た全員が笑い出してしまい、付いていけない俺は一人置いてけぼりを食らっていた。……師匠の名前出すだけで笑いが取れるとか……何? 師匠の名前ってなんか魔法でもかかってんの?


(いやいや、そうじゃないだろ)


 どう考えても馬鹿にされた笑いに、俺が不機嫌な表情を見せるとその様子に気付いたレフィリー先生は何がツボったのかお腹を抱えながら涙を拭っていた。


「ご、ごめんなさい……君があまりにも面白いことを言い出すものだから……」

「師匠の名前がそれだけネタになるんスね~。別に良いですけど~、笑われても気にしないし~」

「だから悪かったってば……反省してるわ。……それにしても、まさか大陸で一番有名な魔法使いの名前を出してくるなんて、良いセンスしてるじゃない」

「……はい?」


 ちょっと、この先生……今なんて言った?


「……先生、もう一度聞いても良いですか? 最近、耳が悪いみたいなんスよ」

「え? だから、大陸で一番有名な魔法使いの名前を出してくるなんて、良いセンスしてるって言ったの」

「……なるほど、俺は今まで師匠から偽名を聞かされて育ったわけですね」


 まあ、あるいは同姓同名か。


 でもなあ……師匠、無駄にいつも自信満々だったし……いやいやいや、あんな老い耄れが大陸で一番有名な魔法使いなんて……そんな万に一つの可能性があるわけ―


 俺が脳内で師匠を思い浮かべながら悩んでいた時だった。

 突然、俺の座っている席の近くで轟音が鳴り響いた。


「な、何!? ま、魔物!? みんな落ち着いて! 学校は魔法で守られているから大丈夫よ!」

「い、一体何が―」


 教室中が騒ぎになる中、俺はとんでもない状況になっていた。

 どうやら、さっきの轟音で怖がっていた隣りの席の女子生徒が俺に抱きついていたらしい。


「え~と……もう大丈夫っぽいよ?」

「え……?」


 あまり女性に免疫のない俺は抱きつかれた状態で頬をかきながらそう伝えると、女子生徒は慌てた様子で離れていった。……ビビった。


「ご、ごめんなさい……」

「いや、別に良いけど……っていうか、さっきのは何だったんだ―」


 と、そこまで口にしかけて俺は窓の外を見ながら固まってしまっていた。


 そこには巨大な魔物が気絶した状態で魔法で作られた壁に貼り付けにされており、よく見ればその魔物のお腹の方にこんな紙が一緒に貼られていた―


『俺の悪口を言わなかったか?』


 と。


「地獄耳ってレベルじゃねぇよ!? 心の中でくらい良いじゃん!?」


 それを見た途端、俺は思わず突っ込んでいた。

 どんだけ心が狭いんだよ師匠! 頼むから心の中の声まで察さないでくれない!?


 どうせ昼間から酔っぱらっているだけの師匠にため息をついていると、ここが教室だったことに気付いた。……やば、こんなところで独り言とか完全にヤバい奴じゃん、俺。


 しかし、幸いにしてレフィリー先生を始め、さっきの騒ぎが収まらず俺の声は聞こえていないようだった。……ふぅ、あぶねー。


(……ともかく、あんまり師匠の話は出さないようにしよ。……笑われたくないし)


 そんなことを思いながら席に座ると、ついさっき俺に抱きついてきた女子生徒が俺を見ていることに気が付く。


「……え~と、どうかした? さっきのことならマジで気にしなくて良いから」

「う、うん……」


 と言いつつも、何故か俺をどことなく強い目で見てくるのだった。……俺、さっき抱き着かれた時に何もしてないよね?

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